THAIBIZ No.156 2024年12月発行深化する日タイの経済成長戦略
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カテゴリー: ASEAN・中国・インド, 食品・小売・サービス
公開日 2024.12.11
弊社では定期的に自動車産業に関するグローバルスタディを発行している。11月には、アジアAutoチームが中心となり、東南アジアのEVトレンドに焦点を当てた「Navigating Electric Vehicle Disruption in Southeast Asia」を新たに発行した。本スタディでは、タイをはじめとする東南アジア諸国のEV市場動向、政府の取り組み、競争環境、消費者ニーズを概観した上で、市場における機会と脅威を論じている。本稿では、その中から「消費者ニーズ」について抜粋して紹介しながら、東南アジアにおける消費者ニーズの方向性を探っていきたい。
目次
まずは、弊社ローランド・ベルガーが自動車業界の変革について世界各国で定点観測をしている「Automotive Disruption Radar(ADR)」の調査結果を見ていく(図表1)。
ADRのデータによると、東南アジアの中でもインドネシア、タイ、シンガポールはEV車両購入に関して特に高い関心を示している。日本の消費者意識とは大きく異なるのが特徴的だ。この背景として、人口動態や環境意識、交通事情などの複数の要因が絡み合い、地域全体で顧客の価値観や購買行動が大きく変化していることが挙げられる。
東南アジアの消費者にとって、自動車所有は従来から単なる移動手段にとどまらない重要な意義を持つ。多くの人々にとって車はステータスシンボルであり、社会的な成功や地位を示す手段と見なされてきた。同時に、日常の通勤や家族の生活を支える実用的な道具としても考えられている。このような二面性を持つ自動車への期待が、EV導入の初期段階でもその選択基準に影響を与えている。特にEVに関しては、環境意識の高まりとテクノロジーへの関心の相乗効果により、実用性と同時に未来志向のライフスタイルを象徴する新たなステータスシンボルとしての側面が強調されつつある。
東南アジア主要国の人口動態は、EV普及の基盤を支える重要な要素の1つである。シンガポール、タイでは高齢化が進みつつあるが、東南アジア全体としての中央値年齢は30.2歳と、グローバルの中央値年齢31歳よりも低い。若年層は特有の価値観を持ち、新たなテクノロジーを積極的に採用する意向が高い。彼らは、単なる移動手段を超えた「体験」を求める傾向が強く、最新のEVやインテリジェント機能を備えた車両は非常に魅力的に映る。
また、ASEAN地域の消費者はそのニーズの違いからいくつかのセグメントに分類することができる。図表2は、インドネシア、タイとグローバル平均における、セグメント分布の違いをまとめたものだ。タイ・インドネシアの両国ともに、「保守的・家庭重視層」や「計画的購買層」はグローバル平均よりも低いのが特徴的だ。
逆に、タイでは「トレンド重視層」が全体の32%を占め、これはグローバル平均を大きく上回っている。この層は、トレンドに敏感で、新しい体験やインテリジェント技術、環境性能に対して強い関心を持つ。特に、最新のEV技術や高性能なインフォテインメント機能を搭載した車が、この層の消費者に訴求力を持つと考えられる。一方で、インドネシアでは「ミニマリスト層」と「衝動的購買層」が全体の25%を占める等、異なるタイプの二極化傾向が見られる。
EVは、単なる新しい移動手段ではなく、消費者の価値観やライフスタイルそのものを変える可能性を秘めている。EVの普及そのものが新たな意識の変革をもたらしている側面も否めない。これまで日本車や欧州車が強みを誇ってきた、信頼性や燃費性能といった基準に加え、環境性能や先進技術、経済性(TCO)が新たな選択基準として重視されるようになってきた。さらに、消費者セグメントの多様化も進む中では、適切なターゲティングと明確なブランドポジショニングの重要性が一層高まってきている。
購入前後の体験を含む「ブランド体験」の向上も鍵を握る。オンラインでのスムーズな購入プロセス、手厚いアフターサービス、充電インフラの整備など、付加価値を一貫して提供することが、消費者の満足度を高めると同時にブランドの競争力を強化する。これらを一社でやりきれない中では、いかに他社・ローカルパートナーと組んで体験価値を高めていくか、という共創戦略も検討していく必要があるだろう。
本稿では、弊社スタディ「Navigating Electric Vehicle Disruption in Southeast Asia」のうち、抜粋箇所の紹介にとどまったが、スタディ本編では、東南アジアにおけるEV市場について、より多面的に考察している。スタディ本編についてご興味を持たれた方は是非お問い合わせいただきたい。
THAIBIZ No.156 2024年12月発行深化する日タイの経済成長戦略
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Roland Berger Co., Ltd.
Principal Head of Asia Japan Desk
下村 健一 氏
一橋大学卒業後、米国系コンサルティングファーム等を経て、現職。プリンシパル兼アジアジャパンデスク統括責任者として、アジア全域で消費財、小売・流通、自動車、商社、PEファンド等を中心にグローバル戦略、ポートフォリオ戦略、M&A、デジタライゼーション、事業再生等、幅広いテーマでのクライアント支援に従事している。
[email protected]
Roland Berger Co., Ltd.
Senior Project Manager, Asia Japan Desk
橋本 修平 氏
京都大学大学院工学研究科卒業後、ITベンチャーを経て、ローランド・ベルガーに参画。その後、米系コンサルティングファームを経て復職。自動車・モビリティ、消費財・小売を中心とする幅広いクライアントにおいて、グローバル戦略、新規事業、アライアンス、DX等の戦略立案・実行に関するプロジェクト経験を多数有する。
Roland Berger Co., Ltd.
ローランド・ベルガーは戦略コンサルティング・ファームの中で唯一の欧州出自。
□ 自動車、消費財、小売等の業界に強み
□ 日系企業支援を専門とする「ジャパンデスク」も有
□ アジア全域での戦略策定・実行支援をサポート
17th Floor, Sathorn Square Office Tower, 98 North Sathorn Road, Silom,
Bangrak, 10500 | Bangkok | Thailand
Website : https://www.rolandberger.com/
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