公開日 2018.01.18
雇用契約には、期間の定めがある契約(有期雇用契約)とない契約(無期雇用契約)があります。有期雇用契約は2年以内の期間であれば、期間を決めて雇用しその期間で解雇できます。ただし、これを何度も繰り返すと無期雇用契約とみなされます。
契約を打ち切る際、無期雇用契約とみなされて解雇保証を支払わなければならないケースがあるため、契約書の書き方には注意が必要です。判例では、自動更新の文言が入っていたり、通知をしない限りは延長と記載されていると無期雇用契約とみなされることがあります。
逆に、自動更新の文言がないということは期間が決まっており、契約上解雇に際して問題ありませんが、人を集めにくいデメリットがあります。
ですから、初めは期間の定めを設けてその間に仕事ぶりで判断できるよう、面接の際に「有期雇用契約だが、評価によっては将来的に無期雇用契約に結び直す」と可能性を口頭で説明する方法もあります。「面接を経て」や、「評価によっては」という可能性を担保しておけば、無期雇用契約とみなされる可能性は少ないと考えられます。
契約の有効性について、就業規則や雇用契約書はタイ語でなければならないのかという質問をよく受けます。まず就業規則ですが、労働者を10人以上雇う場合タイ語での作成が必要です。これまでは作成後労働局に届け出が必要であったことからも、タイ語での作成が必須でした。
2017年4月からは労働者が10人以上の場合、労働局への届け出が不要になりましたが言語に変わりはなく、タイ語で作成しなければなりません。また、就業規則のサーバー内での開示などが可能となり運用しやすくなりましたが、データを社外に持ち出しやすいため悪用されないよう運用しなければなりません。
次に雇用契約書は英語での作成も認められています。外資企業で働く人材は、ある程度英語が使用できるだろうということで、英語での作成が認められている判例もあります。
他にも2017年9月1日の改正で、定年年齢の記載が決まりました。就業規則に定年の年齢を記載していない場合は60歳とすることになりました。すでに年齢が記載されている場合はそちらが有効です。タイでは55歳定年も多いです。
タイの試用期間は119日が一般的です。これは、会社都合で退職した場合の解雇保証金の支給の要件が120日からであることに由来します。また、試用期間中、会社は解雇留保権つまり解雇できる権利を持っています。試用期間に雇止めを行えば保証金を支払う必要はありません。
しかし、試用期間でも雇止めをする場合、一給与支払期間までに通知しなければなりません。この期間分の予告手当を支払って雇止めをすることもできますし、人手が足りない等の理由で残りの期間働いてもらうことも可能です。
試用期間中も、試用期間経過後も会社側から雇用契約解消をする場合には、事前予告が必要となります。
タイの事前予告期間は一給与支払期間とされています。一給与支払期間が空くように事前予告が必要となりますので、給与支払日を過ぎてしまうと約2カ月間ほど前に事前予告が必要な場合もあります。
タイでは、毎月5日頃に家賃や公共料金等の支払いが必要な場合が多く、給与の支払いは当月25日ないしは月末が多くなっています。
タイには労働組合と労働福祉員会があります。労働組合を結成するには10人以上の発起人が必要です。結成にあたり、参加する労働者を不利益に扱うことはできません。
一方、労働福祉員会は50人以上の労働者を雇用する会社に設置の義務があり、主な目的は労働者の福祉、福利厚生について会社に意見を提出することなどです。
両者の決定的な違いは、労働組合にはストライキ権がありますが、労働福祉委員会にはないことです。しかし、残業に関しては労働組合に加入していなくても個人で拒否できます。
そのため労働福祉委員が会社と交渉するときに全体の総意として残業を拒否することが実際にあります。「うちは労働組合がないからストライキはない」と安心はできません。労働組合はストライキの可能性、労働福祉委員会からは残業拒否の可能性があるので、それを見越した在庫管理や顧客への影響を考慮する必要があります。
〈労働組合の要求事項〉
・昇給率
・昇給、残業代、賞与の計算元となる“基本給”の範囲、解釈
〈労働福祉委員会の要求事項〉
・医療保険
・プロビデントファンド
・勤続報奨
・社員寮、住宅手当
・社員旅行
・運動会
・ソンクラン、新年のパーティ等
・派遣社員の福利厚生
企業は、一人でも社員を雇っていると社会保険に加入しなければなりません。保険料は本人と会社が5%ずつの合計10%。現在は月給の上限が1万5000バーツですので、各々750バーツの支払いです。しかし、バンコクのオフィスで働く場合、労働者の月給は1万5000バーツを超えていることのほうが多いでしょう。
また、この1月から上限が2万バーツになり負担が増えると言われていますが、給付の改善がどこまでされるかは疑問という声もあります。給付内容は、健康保険(傷病、障害、出産、死亡)、老齢年金、失業保険の3つです。
健康保険は、指定の病院でしか使用できないため、利用しない人のほうが圧倒的に多い傾向です。そこで会社は福利厚生の一環として別途保険に加入しているケースがあります。
老齢年金は積み立て式で、180ヵ月以上加入している場合、受給直近の60ヵ月の平均給与の15%が支給されます。老後を過ごせるほどの金額ではないため、日系企業は福利厚生として確定拠出型プロビデントファンドを採用しているところもあります。
今年から100人以上労働者がいる会社はプロビデントファンドに加入し、月給の3%で運用するよう義務付けられる方向です。ゆくゆくはすべての会社に採用させるようです。
失業保険は、会社都合の退職の場合、給与の50%(給与基準は最高1万5000バーツ)が最長180日間給付されます。自己都合または契約満了の場合は、給与の30%(給与基準は最高1万5000バーツ)が最長90日間給付されますが、1年間に複数回の申請を行う場合は併せて180日が限度です。
ちなみに、日本とタイでは社会保障協定が締結されていないため、駐在員は日本とタイの双方で社会保険に加入しなければなりません(取締役は原則未加入)。
前出にあるように、タイにおいて就業規則はタイ語で作成します。日本人が就業規則を変更する意思決定をしたとしても、タイ語に翻訳しなければなりません。その間にニュアンスが変わることがあります。
ニュアンスが違うことに気づかず運用してはじめて、日本人とタイ人のルール・基準の解釈にズレがあるということも起こり得ます。またタイでの労働でありながら、うっかり日本の法律で解釈したがゆえに、裁判で負ける事例もあります。
このように、言語・解釈の違いは大きな壁の一つです。例えば、英語で書いてある契約書を英語が苦手な人間が無理に理解しようとしても間違えるのが目に見えています。その場合は翻訳を社内外に任せて自分が理解できる言語で確認することです。今まで労務経験のない人が労務の書類を見ても内容の解釈が難しいうえに、他言語となればなおさらでしょう。まずは、自分が咀嚼できるまでハードルを下げることです。
個別の労務対応、労働組合対応などは一時的な判断で終わる内容ではなく、人、モノ、金すべてに紐づくため経営全体の話につながります。案件を決定するにあたっては、短期的・長期的にどのような影響を与えるかも検討しなければなりません。このような環境にありながら、駐在員の多くは「一人ですべて兼務」しており、抱え込んでいるのが現状ではないでしょうか。選択肢として、社内でも社外でも良いので相談できる人をつくることをお勧めします。日ごろからできる準備の一つかと思いますので、いざという時のためにも人脈を築いておいてください。
※次のページからは弁護士の目線で解雇の正しい扱い方を解説する。
Bridge Note (Thailand)Co., Ltd. President
長澤直毅氏
社会保険労務士、米国公認会計士(inactive)
社会保険労務士法人の代表社会保険労務士としてアジア各国での就業規則、雇用契約書作成、労務監査を対応。2012年よりインドネシア・ジャカルタ駐在。2013年にタイ・バンコクに駐在。2016年にBridge Note (Thailand) Co., Ltd.を立ち上げ、バンコクに常駐してタイでの労務管理、解雇にかかる対応、労働組合、従業員・福祉委員会の対応にかかる相談、人事制度作成時の相談、会 計・税務その他経営に関する相談、会計ソフト導入支援などを行う。
THAIBIZ編集部
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