タイの労務 -就業規則から解雇まで-

ArayZ No.73 2018年1月発行

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タイの労務 -就業規則から解雇まで-

公開日 2018.01.18

労働組合と労働福祉委員会

タイには労働組合と労働福祉員会があります。労働組合を結成するには10人以上の発起人が必要です。結成にあたり、参加する労働者を不利益に扱うことはできません。

一方、労働福祉員会は50人以上の労働者を雇用する会社に設置の義務があり、主な目的は労働者の福祉、福利厚生について会社に意見を提出することなどです。

両者の決定的な違いは、労働組合にはストライキ権がありますが、労働福祉委員会にはないことです。しかし、残業に関しては労働組合に加入していなくても個人で拒否できます(前出※参照)。

そのため労働福祉委員が会社と交渉するときに全体の総意として残業を拒否することが実際にあります。「うちは労働組合がないからストライキはない」と安心はできません。労働組合はストライキの可能性、労働福祉委員会からは残業拒否の可能性があるので、それを見越した在庫管理や顧客への影響を考慮する必要があります。

〈労働組合の要求事項〉

・昇給率
・昇給、残業代、賞与の計算元となる
“基本給”の範囲・解釈

〈労働福祉委員会の要求事項〉

・医療保険
・プロビデントファンド
・勤続報奨
・社員寮、住宅手当
・社員旅行
・運動会
・ソンクラン、新年のパーティ等
・派遣社員の福利厚生

社会保険

企業は、一人でも社員を雇っていると社会保険に加入しなければなりません。保険料は本人と会社が5%ずつの合計10%。現在は月給の上限が1万5000バーツですので、各々750バーツの支払いです。しかし、バンコクのオフィスで働く場合、労働者の月給は1万5000バーツを超えていることのほうが多いでしょう。また、この1月から上限が2万バーツになり負担が増えると言われていますが、給付の改善がどこまでされるかは疑問という声もあります。給付内容は、健康保険(傷病、障害、出産、死亡)、老齢年金、失業保険の3つです。

健康保険は、指定の病院でしか使用できないため、利用しない人のほうが圧倒的に多い傾向です。そこで会社は福利厚生の一環として別途保険に加入しているケースがあります。

老齢年金は積み立て式で、180ヵ月以上加入している場合、受給直近の60ヵ月の平均給与の15%が支給されます。老後を過ごせるほどの金額ではないため、日系企業は福利厚生として確定拠出型プロビデントファンドを採用しているところもあります。今年から100人以上労働者がいる会社はプロビデントファンドに加入し、月給の3%で運用するよう義務付けられる方向です。ゆくゆくはすべての会社に採用させるようです。

失業保険は、会社都合の退職の場合、給与の50%(給与基準は最高1万5000バーツ)が最長180日間給付されます。自己都合または契約満了の場合は、給与の30%(給与基準は最高1万5000バーツ)が最長90日間給付されますが、1年間に複数回の申請を行う場合は併せて180日が限度です。

ちなみに、日本とタイでは社会保障協定が締結されていないため、駐在員は日本とタイの双方で社会保険に加入しなければなりません(取締役は原則未加入)。

最後に

前出にあるように、タイにおいて就業規則はタイ語で作成します。日本人が就業規則を変更する意思決定をしたとしても、タイ語に翻訳しなければなりません。その間にニュアンスが変わることがあります。ニュアンスが違うことに気づかず運用してはじめて、日本人とタイ人のルール・基準の解釈にズレがあるということも起こり得ます。またタイでの労働でありながら、うっかり日本の法律で解釈したがゆえに、裁判で負ける事例もあります。

このように、言語・解釈の違いは大きな壁の一つです。例えば、英語で書いてある契約書を英語が苦手な人間が無理に理解しようとしても間違えるのが目に見えています。その場合は翻訳を社内外に任せて自分が理解できる言語で確認することです。今まで労務経験のない人が労務の書類を見ても内容の解釈が難しいうえに、他言語となればなおさらでしょう。まずは、自分が咀嚼できるまでハードルを下げることです。

個別の労務対応、労働組合対応などは一時的な判断で終わる内容ではなく、人、モノ、金すべてに紐づくため経営全体の話につながります。案件を決定するにあたっては、短期的・長期的にどのような影響を与えるかも検討しなければなりません。このような環境にありながら、駐在員の多くは「一人ですべて兼務」しており、抱え込んでいるのが現状ではないでしょうか。選択肢として、社内でも社外でも良いので相談できる人をつくることをお勧めします。日ごろからできる準備の一つかと思いますので、いざという時のためにも人脈を築いておいてください。

※次のページからは弁護士の目線で解雇の正しい扱い方を解説する。

Bridge Note (Thailand)Co., Ltd. President
長澤直毅氏
社会保険労務士、米国公認会計士(inactive)

社会保険労務士法人の代表社会保険労務士としてアジア各国での就業規則、雇用契約書作成、労務監査を対応。2012年よりインドネシア・ジャカルタ駐在。2013年にタイ・バンコクに駐在。2016年にBridge Note (Thailand) Co., Ltd.を立ち上げ、バンコクに常駐してタイでの労務管理、解雇にかかる対応、労働組合、従業員・福祉委員会の対応にかかる相談、人事制度作成時の相談、会 計・税務その他経営に関する相談、会計ソフト導入支援などを行う。

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THAIBIZ編集部

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