タイ農業の「稼ぐ力」を向上! サイアムクボタの挑戦

THAIBIZ No.161 2025年5月発行

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    タイ農業の「稼ぐ力」を向上! サイアムクボタの挑戦

    公開日 2025.05.09

    農業初心者への支援で「担い手育成」も カセートイーノの挑戦

    カセートイーノによる支援活動の様子(写真提供:サイアムクボタ)

    タイの農業が抱える課題の一つとして「高齢化に伴う後継者の不足」が挙げられる。2022年に設立した、クボタ、SCG、サイアムクボタによる合弁会社「KasetInno Company Limited(以下、「カセートイーノ」)」は、既存農家への生産性向上支援に加え、新規就農者に向けた農業経営や技術支援のプログラムを展開することで農業の担い手育成にも注力している。同社の事業内容や昨今の農業トレンドについて、同社のナンタポーン・アンスクントーン社長に話を聞いた。

    KasetInno Company Limited
    Managing Director ナンタポーン・アンスクントーン 氏

    1996年にサイアムクボタに新卒入社。26年間にわたり調達、品質保証、サプライチェーンマネジメントと部品事業を担当した後、2022年にKasetInno(以下、「カセートイーノ」)の設立に伴い同社のマネージング・ディレクターに就任。

    労働力の減少と生産性の低さが課題

    サイアムクボタに20年以上勤務した後、新会社カセートイーノの社長に就任したナンタポーン氏。長年農業分野に従事した経験から、タイの農業は「労働力の減少と生産性の低さという2つの大きな問題を抱えている」と指摘する。

    「現在タイの農家は、平均年齢が約59歳と高齢化が進んでおり(図3)、農業部門に新規参入する人の数も減少している。

    出所:サイアムクボタ提供資料に基づきTHAIBIZ編集部が作成

    また、周辺国に比べて生産性の低さも大きな課題だ。米やキャッサバ、サトウキビなどの輸出上位の作物を見ると、タイの生産量は他の主要輸出国に比べて極めて低いことがわかっている。

    例えば、キャッサバは1ライ(0.16ヘクタール)あたりの生産量が約30%も低い。知識、管理、プランニング、技術などの側面から生産性を高める必要があるとともに、農業の担い手育成にも注力しなければならない」と、同氏は警鐘を鳴らした。

    カセートイーノのソリューションサービス

    このような農業課題の解決に貢献するため、カセートイーノは3つのソリューションサービスを提供している。

    1. 農業ソリューション支援

    生産性向上を希望する農家や農業未経験者を対象とした、農業コンサルティングサービス。具体的には、プランニングから、農場の設計、土地開発、農場の手入れまでアドバイスを提供。顧客は約100人、所有する土地での農業を希望する都市住民が中心だ。

    2. FMSプラットフォーム

    ファーム・マネジメント・システム(FMS)プラットフォームアプリケーション「K-iField」を運営している。農家は、このアプリにのデータや農業活動に関するデータを入力することにより、過去の実績からの傾向評価などのデータ分析を行い、より正確な農業計画を立てることが可能だ。アプリユーザーは約4,000人にのぼり、農業への最新技術の活用にメリットを見出すスマート・ファーマーが多い。

    3. Eコマース

    農機のスペアパーツなどを販売するプラットフォーム「クボタ・ストア」および、農作物や加工品を販売するプラットフォーム「Kaset Sook」を運営している。

    ナンタポーン氏によると、農業の立ち上げから運営、農作物の販売まで一気通貫して支援できることが同社の強みの一つだ。特に主要顧客である都市住民に向けたコンサルティングサービスを通じて、農業に取り組む際のハードルを下げ、初心者でも効率よく農業を始められる環境を整えることで、農業の担い手育成にも繋がっているという。

    目的に応じた緻密なプランで成功率を上げる

    農家経営の中でも最重要とされるプランニングについてナンタポーン氏は、「まず、顧客が農業に取り組む目的を明確化することが大切だ。余暇のためなのか、利益のための投資なのかを理解し、状況に合わせて適切な農作物を選ぶ。

    さらに、実際に農業を行う前に、投資計画や育てる農作物の市場探しなど、全体的な見通しを把握する必要がある。その後にようやく、農場の設計に進むことができる」と説明。

    農場の設計においては、「顧客が農業用に使用したいと考える土地は荒地であることが多いため、土地の開発や適切な水管理計画、水源の確保、過去5〜10年間の降雨量のチェックなどが必要だ」という。

    カセートイーノによる支援活動の様子(写真提供:サイアムクボタ)

    同氏は農家経営支援の成功例として、ノンタブリー県に土地を所有し、ドリアンの栽培を希望していた顧客の事例を紹介した。同顧客が持つ土地は河口に近く、汽水域(淡水と海水が混ざりあうエリア)の問題があったほか、長い間作物が植えられていない荒地でもあったという。

    同氏は「当社は水管理計画や土壌改良などをサポートした。現在、ドリアンの栽培を始めて2年になるが、生育状況は良好だ。ただ、ドリアンは実がなるまで6〜7年を要する。その間に副収入源としてグアバやバナナなどの作物を栽培することも提案した」と説明した。

    農業に関心を持つ若者が増えている理由

    昨今、都市住民の中で、農業に関心を持つ若者が増えているという。ナンタポーン氏によれば、きっかけは新型コロナウイルスの流行だ。ロックダウンをはじめとする行動の制限により、都市部で働く人々が地元に戻り、農作業をするようになった。コロナ禍が明けた後も、都市に戻らず地元で農業を続けようと決めた人も少なくないという。

    同氏は「若い世代の農家に尋ねたところ、労働負荷を軽減でき、生計を立てられる土地があれば、農業を始めるのはそれほど難しくないと感じていることがわかった。さらに、Eコマースでの農作物販売などオンラインの市場も若者にとっては身近であることも、農業に興味を持つ若者が増えている理由の一つだろう」と、最近のトレンドについて語った。

    新世代の顧客を増やし、農業の担い手を育成していく

    カセートイーノでは、日本製の機械や日本の技術を導入するほか、日本人の専門家と共にタイの農業の発展に向けた研究を行っているといい、日本との強固な協力関係も特徴の一つだ。

    カセートイーノによる支援活動の様子(写真提供:サイアムクボタ)

    ナンタポーン氏は今後について、「約40万人いるサイアムクボタの顧客のうち、50%にわれわれのプラットフォームを利用してもらいたい。特に新世代の顧客を増やしたい」と抱負を語った上で、「水管理、特に地下水管理について本格的に研究し、同分野の知見を持つ会社としての地位確立を目指す」と、野心的な目標も明かした。

    最後に同氏は「農業で最も重要なのは、経験だ。知識だけがあっても、実践力がなければ意味がない。私はサイアムクボタ勤務時代に培った農業の経験とノウハウを最大限に活かして、農家への支援を行っている。引き続き、より効率的な農業に向けた支援で農業の担い手を育成していきたい」と、力強いメッセージでインタビューを締め括った。

    THAIBIZ編集部

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