ArayZ No.136 2023年4月発行ASEAN-EV市場の今〜タイ・インドネシアEV振興策および主要自動車メーカーの戦略〜
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カテゴリー: ビジネス・経済
連載: SBCS - タイ経済概況
公開日 2023.04.10
2022年のタイの自動車生産台数は188万台。コロナ前の19年の201万台には届かないものの、20年が143万台、21年が169万台だったことを考えると順調に回復してきている。さらにタイ工業連盟(FTI)が1月24日に発表した23年の生産台数の見通しでは195万台になるとのこと。半導体不足などの問題はあるものの、いよいよビジネスが正常化してきている。
ところで、タイで生産されている車のうち、22年には100万台が輸出された。今回、注目したいのはその輸出先がどこか、という点である。実は、金額ベースで乗用車の21.0%およびピックアップ(トラックやバスも含む)の38.9%がオーストラリア向けとなっており、共に輸出先国で1位だ。2位は乗用車ではベトナムが10.4%、ピックアップではフィリピンが8.8%となっていることから、オーストラリアは断トツの1位といえる。タイの自動車産業にとってオーストラリアは“一番のお客さん”なのだ。
意外に思った方も多いのではないだろうか。
この背景には05年1月に発効したタイ・オーストラリア自由貿易協定(FTA)がある。この協定により、タイで生産された自動車に対するオーストラリアの輸入関税が撤廃された。さらに、この時点でオーストラリアは日本、韓国、中国といった他の自動車生産国とFTAを締結していなかった。
これらの国とFTAが発行されるのは遥か後で、日本とは15年1月、韓国とは14年12月、中国とは15年12月だった。この間、タイは他国と比べて関税分有利であったため、オーストラリア向け輸出競争力を有していた。このため、多くの自動車メーカーがタイをオーストラリア向けの輸出拠点とした。結果、現在ではオーストラリアで販売されているピックアップトラックのトップ6モデルが全てタイ製という状況だ。
もちろんオーストラリアでも自動車生産は行われていた。しかし小さい市場規模、高い製造コストに加え、FTAの発行もあり17年までに全ての自動車メーカーが撤退した。撤退した企業の多くは生産をタイに移管している。オーストラリアがタイを含むFTAで得たものは主に農産品と鉱物資源の海外市場。代わりに自動車製造産業を自国から失った。痛みは伴ったであろうが見事な産業転換ともいえる。
こういった歴史的背景もあり、タイの自動車産業の重要な市場となっているオーストラリア。
タイの経済のためにも時々、オーストラリアの経済状況をチェックしておいた方が良いかもしれない。
国家経済社会開発委員会(NESDC)によると、2022年通年の経済成長率は前年比+2.6%だった。2023年の成長率見通しについては、+2.7~3.7%と予測発表。外国人観光客の回復等がプラスに作用したが、輸出需要の減少等により東南アジアの中では低い伸び率にとどまった。
国家経済社会開発委員会(NESDC)が2月19日に発表した速報値によると、2022年通年の経済成長率は前年比+2.6%で21年の同+1.6%から加速。しかし、22年第4四半期の成長率は前年同期比+1.4%で、前期(同年第3四半期)の+4.5%から大幅に鈍化した。観光客数の回復がプラス要因だったが、主に欧米向け輸出が振るわなかった。NESDCは23年について前年比+3.0~+4.0%と予測していたが、今発表で+2.7~3.7%に下方修正した。22年第4四半期の失業率は1.15%で、前期の1.23%からさらに改善し、新型コロナ前の水準に近づいた(19年第4四半期は0.98%)。
タイ工業連盟(FTI)の発表によると、23年1月の産業景況感指数(TISI)は前月比+1.3ポイントの93.9で、新型コロナ前以来43ヵ月ぶりの高水準を記録した。FTIは内需拡大、消費財の好調、観光セクターの大幅回復、中国の水際対策緩和による対中輸出の増加等が景気回復に良い影響を与えていると指摘した。一方で、マイナスの影響として輸出量の減少、エネルギー価格の高騰、世界各国でのインフレによる景気減速等をあげた。
タイ商務省の発表によれば、22年の輸出額が前年比+5.5%の2,870.7億米ドル、輸入額は同+13.6%の3,031.9億米ドルで、いずれも過去最高を記録した。一方で、貿易収支は▲161.2億米ドルと大幅なマイナスとなった。22年12月単月では、輸出額が前年同月比▲14.6%の217.2億米ドル、輸入額が同▲12.0%の227.5億ドルでどちらも3ヵ月連続前年同月比で減少した。
盤谷日本人商工会議所(JCC)は1月31日、22年下期日系企業景気動向調査の結果を発表した。22年11月29日~12月23日にかけて会員企業1,627社を対象に調査を行い、508社(回答率31.9%)から回答を得た。同調査によれば、22年下期の業況感(DI値:業況が「上向いた」と回答した数から「悪化した」と回答した数を差し引いた値)見通しは21で、プラスは維持したものの22年上期の27からプラス幅は縮小した。また23年上期の見通しについては、インバウンドの増加による経済への好影響や原材料不足解消等の期待から28へと伸長した。
タイ投資委員会(BOI)は22年の投資申請統計を発表した。新規申請額は6,646億バーツで、前年比+38.8%となった。申請件数は同+41.4%の2,119件だった。産業別申請額では、サービス・インフラが最も多く2,013億バーツ、電子・電気機器が1,333億バーツ、機械・金属加工が1,322億バーツと続いた。このうち、タイ政府が重点産業とする「Sカーブ産業」に対する新規申請額は、前年比+40.0%の4,687億バーツだった。
観光・スポーツ省は1月23日、22年の訪タイ外国人旅行者が1,115万3,026人だったと発表。前年比26倍となった(新型コロナ前の19年は3,980万人)。国別ではマレーシアからが最多で、2位がインド、3位がシンガポールだった。日本は13位。また、22年12月の訪タイ外国人旅行者は224万1,195人だった。今年1月に中国がゼロコロナ政策による制限を撤廃したことにより、23年はさらなる外国人旅行者の増加が見込まれる。
プラユット首相は、2月21日の閣議で3月初旬の下院解散の方針を伝えた。選挙は下院解散から45~60日の実施が憲法103条で定められており、先に選挙管理委員会が示していた5月7日が投票日となる見通し。ウィサヌ副首相が示した選挙日程によると、5月7日に総選挙、7月初旬に選挙結果公表、7月下旬に新首相指名、8月上旬に新政権発足となる。また、下院解散後は、新政権発足まで現在の内閣が選挙管理内閣として政権を担う。しかし新たに予算措置が必要となる事業の閣議承認等はできず、次期政権に委ねられる。
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Executive Vice President and Advisor
長谷場 純一郎 氏
奈良県出身。2000年東京理科大学(物理学科)卒業。日本貿易振興機構(ジェトロ)入構。山形事務所などに勤務した後、2010年チュラロンコン大学留学(タイ語研修)。2012年から2018年までジェトロ・バンコク勤務。2019年5月SBCS入社。2023年4月より現職。
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Mail : [email protected]
URL : www.sbcs.co.th
SBCSは三井住友フィナンシャルグループが出資する、SMBCグループ企業です。1989年の設立以来、日系企業のお客さまのタイ事業を支援しております。
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