急激に進む中国EVメーカーのタイ進出

ArayZ No.142 2023年10月発行

ArayZ No.142 2023年10月発行なぜタイ人は日系企業を辞めるのか?

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急激に進む中国EVメーカーのタイ進出

公開日 2023.10.09

タイの自動車市場は長年、日系の牙城であった。しかし、2022年から中国の自動車メーカーがEV製造を見据えたタイ進出を相次いで発表するなど状況が大きく変化してきている。すでに報道されているだけでも比亜迪(BYD)、長安汽車(Changan)、広州汽車(Guangzhou)、東風汽車(DFSK)が自社工場を建設して進出し、奇瑞汽車(Chery)、上海通用五菱汽車(Wuling)、合衆新能源汽車(Hozon)は委託生産またはそれに近い形で参入するとされている。

これら以外に中国系メーカーとしては、すでに進出・生産開始済みの上海汽車(SAIC)、長城汽車(GWM)の2社があることから、少なくとも6社、多ければ9社以上がタイで自動車を製造することになりそうだ。

この急激な中国系メーカー進出の背景には、中国市場が飽和してきたことで各メーカーが海外市場に目を向けたこと、ASEANの中でのタイの地理的優位性、米中貿易摩擦(チャイナ・デカップリング)、タイ政府のEV普及・投資優遇政策といった複合的な要因が挙げられる。

特にタイ政府のEV普及政策では1台あたり最大15万バーツの補助金が出るほか、贅沢税の位置付けである物品税の引き下げ、自動車税の引き下げ、といった時限措置が設けられている。しかし、これらの恩典を受けたメーカーは輸入台数に対して、次の比率でタイ国内生産の義務を負うことになる。24年12月31日まで輸入台数1に対して国内生産1、25年12月31日まで延長する必要がある場合には輸入台数の1.5倍の国内生産が必要とされている。これらの条件を満たせない場合、補助金は返還しなければならず、さらに7.5%の金利を支払わなければならない。

まさに飴と鞭を使い分けたような政策であるが、結果として現在タイで販売されているEVの価格が下がり、販売台数が急激に伸びる結果になった。2021年には2千台に満たなかったEVの登録台数が22年に約1万台になり、23年は7月時点で3.7万台にまで急伸した。この調子だと2年連続で前年比5倍になりそうだ。

EV登録車をメーカー別にみるとトップ5のうち4社が中国系メーカーとなっている。自動車全体におけるシェアも中国系メーカーの合計は1割近くに達しており、結果として一部の日系メーカーのシェアの減少につながっているように見える。

タイ国内の自動車販売台数は80万台程度であり、既存メーカーに加えこれだけのメーカーが参入すれば飽和してしまうのは間違いない。このため、各社ともタイをASEANや右ハンドルの国向けの輸出ハブと考えている模様だ。

いま進出計画が発表されている中国系メーカーのタイ生産が本格化するのは25年以降。その時、日系メーカーはどのように太刀打ちするのだろうか。

寄稿者プロフィール
  • 長谷場 純一郎 プロフィール写真
  • SBCS Co., Ltd.
    Executive Vice President and Advisor
    長谷場 純一郎

    奈良県出身。2000年東京理科大学(物理学科)卒業。日本貿易振興機構(ジェトロ)入構。山形事務所などに勤務した後、10年チュラロンコン大学留学(タイ語研修)。12年から18年までジェトロ・バンコク勤務。19年5月SBCS入社。23年4月より現職。

SBCSは三井住友フィナンシャルグループが出資する、SMBCグループ企業です。1989年の設立以来、日系企業のお客さまのタイ事業を支援しております。

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2023年7月〜8月 経済・政治関連トピック

タイ国家経済社会開発委員会(NESDC)の8月21日発表によると、2023年第2四半期の経済成長率は前年同期比+1.8%で、今年第1四半期の同+2.6%から大きく減速した。第2四半期の伸び率は、東南アジア主要6ヵ国中5番目(伸び率の高い順からインドネシア、フィリピン、ベトナム、マレーシア、タイ、シンガポール)だった。部門別では農業が同期比+0.5%、非農業が同+1.9%で、非農業のうちサービス業が同+4.1%(うち宿泊・飲食は同+15.0%)、工業が同▲2.1%だった。

経済

タイ工業連盟(FTI)の発表によると、2023年7月の産業景況感指数(TISI)は前月比▲1.8ポイントの92.3で、過去10ヵ月での最低水準を記録した。FTIは政治的空白の長期化や輸出額の大きな減少、家計債務の増加等が消費者心理を冷やしていると指摘。また、業種別では45業種中21業種が上昇。企業規模別では、小規模企業が前月比+1.2ポイントの95.9、中堅企業が同▲2.0ポイントの97.3、大企業が同▲4.4ポイントの84.3だった。小規模企業は、14ヵ月連続の上昇となった。


タイ投資委員会(BOI)による7月10日の発表によると、2023年上半期の投資申請件数は前年同期比+18%の891件、申請額は同+70%の合計3,644億バーツ(103億米ドル)だった。このうちFDIは同+33%の507件、申請額は同+141%の3,040億バーツだった。投資国別では首位が中国の132件、615億バーツで、2位がシンガポールの73件、591.1億バーツ、3位が日本の98件、353.3億バーツだった。中国は主に電子部品製造、日本は主に電子部品や自動車部品の大型投資だった。投資産業別では、首位が電気・電子機器の106件、1,600億バーツ(前年同期比7倍)で、プリント基板、ICおよびウエハーテスト等への大規模投資が含まれ、中国からの移転が大きく影響した。


不動産情報センター(REIC)によると、バンコク首都圏の今年第1四半期の住宅販売戸数は前年同期比▲29.1%の21,291戸、販売総額は▲22.0%の1,058億バーツだった。種類別では、低層住宅(一戸建て住宅やタウンハウス等)の販売戸数は+5.1%の1,581戸、販売総額は▲0.02%の695億9,900万バーツと横ばいだった。しかしコンドミニアムは、販売戸数が▲48.9%の9,710戸、販売総額が▲45.2%の361億6,900万バーツと大きく減少。また、第1四半期の住宅全体の新規供給戸数は2万1,680戸だった。


新首相が選出され政治と経済の方向性が明らかになったことで、タイの株式市場は回復の兆しを見せている。8月23日の議会投票でセター氏が過半数を獲得し首相に選出されたことを受け、SET指数は2.22%上昇した。7月から8月にかけては、新政権樹立とFRBの利上げにおける不確実性により、タイ株式市場は動きの少ない横ばいに推移した。政治の方向性が明確になるにつれ、国内外の投資家の信頼は徐々に回復すると予想される。


タイ商務省事業開発局によると、年初7ヵ月における高齢者介護分野における新規事業登録件数は、前年同期の57件から+17.5%の67件だった。一方で、事業規模が比較的小さかったことから、同期間の登録資本総額は昨年同期から2,870万バーツ減少(▲23.4%)の9,370万バーツとなった。

政治

8月7日に第二党のタイ貢献党が前進党による連立協議から離脱し、タイ誇り党や国民国家の力党等の計11党での連立に移行。8月22日にタイ貢献党のセター・タウィシン氏が首相立候補として推薦された。首相選出投票の結果、両院の賛成票が過半数を超え、セター氏が第30代の首相に正式任命された。


タイ政府観光庁(TAT)は、2023年7月の訪タイ外国人数は前年同月比2.2倍の249万人で、中国人が前年同月比16.1倍の410万人で1位になったと発表した。前月までは13ヵ月連続でマレーシアが1位だった。2位はマレーシアの37万人、3位は韓国の15万人だった。今年7月までの累積では、前年同期比4.8倍の1,540万5,334人となった。


5月タイ政府観光庁(TAT)によると、今年上半期にタイに訪れた日本人旅行客は32万6,300人だった。対して、同期間に日本を訪れたタイ人旅行客は49万7,700人。これを受け、2023年の日本人観光客目標を50万人超に設定している同庁ユタサック総裁は「初めての観光赤字」と表現した。いち日本人からすると、日本人よりタイ人が裕福になってきており、日本がどんどん「安い国」になってきつつあるのを感じる。バーツ/円レートもついに1バーツ4円を突破し、街中の飲食店・小売店もどんどん値上げ。訪れたタイ通の友達はみんな「タイは高くなった」と口を揃える(SBCS藤本)。

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長谷場 純一郎 氏

奈良県出身。2000年東京理科大学(物理学科)卒業。日本貿易振興機構(ジェトロ)入構。山形事務所などに勤務した後、2010年チュラロンコン大学留学(タイ語研修)。2012年から2018年までジェトロ・バンコク勤務。2019年5月SBCS入社。2023年4月より現職。

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