なぜ屋台はなくならない?屋台ビジネスの実態(前編)〜活気の裏に潜む問題〜

THAIBIZ No.177 2026年9月発行

THAIBIZ No.177 2026年9月発行タイ宇宙産業に商機はあるか いま、民間企業が動くべき理由

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なぜ屋台はなくならない?屋台ビジネスの実態(前編)〜活気の裏に潜む問題〜

公開日 2026.09.10

不況といわれるものの、バンコクなど人が多いエリアは活気がある。タイ人のおおらかな南国気質という面もあるし、人が集まるところに必ず「屋台」があるのも理由のひとつではないか。近年はSNSや動画配信などを活用することで小さな飲食店が大きく利益を出すケースが珍しくない。他方、屋台経営者は貧しい人が多いともいわれる。実際のところ、タイ屋台ビジネスはどんなものなのか。当事者たちに話を聞いた。

タイ屋台の原点は、このカオゲーン(日本でいうぶっかけ飯屋台)とする説が有力。

タイのストリートフード人気は依然高い

ストリートフードやナイトマーケットでの食事が観光の魅力のひとつでもあるのがタイだ。東南アジアの中でもその数が多い。

カシコン・リサーチ・センターが2025年5月にまとめているレポートでは、同年の市場規模予測が飲食店全体で5,620億バーツとなっている。下方修正したものの、前年比3%増だ1

このうち店舗型のストリートフード、すなわち食堂や定位置に構える屋台の市場は2,610億バーツとなっている。飲食業界の中でこのジャンルがもっとも大きく、前年比も4.7%増と予測されていた。フルサービスのレストランでさえ2,090億バーツ(前年比1.1%増)、ファストフードなどリミテッドサービス・レストランは920億バーツ(前年比2.7%増)という中で、ストリートフードの市場に需要があることがわかる(図表1)。

この数値には移動式の屋台やキッチンカー(フードトラック)は含まれていない。屋台や小規模の飲食店には未登録・未認可も少なくないので、店舗数や市場規模の実数がなかなか見えてこない。ただ、一説ではタイの飲食店総数の約65%が屋台であるともされる。いまだタイで屋台が目につくのは当然であろう。

タイ屋台文化の今と昔

タイの屋台はスコータイ王朝時代(13世紀初頭~15世紀中ごろ)にはあったとされ、アユタヤ王朝時代(1351~1767年)に徐々に増え、あたりまえになったのは現王朝ラマ5世時代、1800年代後半からという説が有力である。それまで昼食でさえ家に帰ってするものだったが、バンコクが発展する中で役所勤めや企業への就職が増え、勤務先近辺で食事をする必要が出てきたためだ。

1990年代まで首都バンコクには多くの出稼ぎ労働者が流入してきた。圧倒的な地域格差があり、東北部出身者は農閑期にバンコクに来てタクシー運転手などをすれば、なんとか家族を1年養えるくらい稼げた。彼らがバンコクで借りる安アパートに台所はない。屋台で買って食べることが前提になっているからだ。

『WIEGO』(Women in Informal Employment: Globalizing and Organizing)が2018年に公表したレポートでは、2016年に実施された調査で、毎日屋台を利用する消費者の60%は月収が9,000バーツ未満だった2。タイ国家統計局の調査によると、平均世帯収入は26,915バーツ(2015年)ほどの頃だ3

他方、タイ屋台は低所得者だけをターゲットにしたものでもない。WIEGOの同じ年のレポートでは、バンコクの調査対象者の87%が屋台などを利用し、65%が週に3回以上はそこでなにかを購入していた。ターゲットは幅広く、アイデア次第ではまだまだ魅力と需要のある業界ではある。

規制が多く、ビジネスとして期待薄とも受け取れるタイ屋台

タイ屋台ビジネスは問題点も少なくない。

近年はタイも物価高騰で屋台の値段設定も上がっている。2010年頃は米粉麺クイッティアオが1杯30バーツ前後だったのに、現在は50~60バーツだ。先のレポートによれば、要因はコスト高騰だ。人件費は約15%増、光熱費・公共料金+家賃は20%超の増加。さらに輸送費も上がったために食材費に関しては約35%も上がっている。

所得も上がっているのだから安易に値上げを考えたいところだが、タイ人に馴染みのあるストリートフード系はよほどの場合でなければ突出した値上げは不可能である。身近なものほど相場が根強く浸透していて、付加価値がない限りは誰も納得してくれないからだ。ある麺屋台の店主は、

「うちも60バーツにしているが、従業員給与や場所代、原材料などを差し引くと、1杯あたり20バーツも利益がない」

といった。屋台や食堂などストリートフード的なジャンルは店舗も小さく、ミニマムな固定費で経営しようと思えばできなくはない。しかし、さまざまな規制や経費が昔と異なり、今は屋台経営でも負担が大きくなってきている。

バンコク都庁は屋台を減らそうという政策を少なくとも2000年代初頭から始めている。90年代には貧困者層の現金収入対策という思惑が政府にあったものの、バンコクでは屋台出店エリアを限定する措置が採られるようになり、区役所による許可制になった。それが先の麺屋台店主のいう「場所代」、すなわち公道の使用料だ。これには近隣の清掃などの管理費が含まれ、地域によるが、先の麺屋台店主によれば月あたり2,000バーツほどかかる。

1杯20バーツの利益であれば、公道使用料を払うだけでも月間100杯は売らなければならない計算だ。休みなく働けば1日3〜4杯超を売ればいい。簡単そうではあるものの、場所が悪ければ案外に難しい。

90年代は20バーツ前後くらいだった屋台料理も今は60バーツくらいに。
2016年7月のシーロム通り。屋台が歩道をふさぐことをバンコク都庁は嫌ったといわれる。

清潔な街並みを維持するため、ゴミの費用も高騰中

公道の使用料もそうだが、ほかにすべての飲食店にかかる負担も今は別にある。ゴミ処理費用だ。

バンコクでは2025年10月に新料金が適用され、1日20リットル以下であれば分別すれば月額20バーツ、分別しないと60バーツとなった4。さらに飲食店では油脂などの廃棄物も出る。これは回収ごとに最大600バーツもかかる。地域によっては公道使用料にプラス300バーツほどで油脂廃棄が済むケースもあるが、利益をじわじわと圧迫するのは間違いない。

タイは調理師免許がなく、飲食店開業は食品取扱者の講習を修了していることなどが義務化されている。バンコク中華街で食堂を営むニットさんに、屋台ではなく固定費がよりかかりそうな食堂にした理由を訊ねた。

「タイでは屋台でも食堂でも認可を取る手順はほとんど同じ。冷蔵庫を使えない移動式屋台では売れる量が限られるし、そもそも許可を取ることが難しい」

屋台でも食堂でも、開業の申請・届け出を行う必要がある。私有地ならほかには地主の許可だけなので、開業は容易だ。公道での出店だと開業申請と同時に区役所・郡役場に屋台可能な公道の空きスポットを確認し、高い競争率の中で使用権利を勝ち取らなければならない。シーロム通りで30年も営業する屋台店主は、権利取得まで2ヶ月以上待った。

ただでさえ屋台開業が困難なのに、特にバンコクは向かい風が強い。2014年の軍事政権は、「バンコクの歩道を市民に返す」というスローガンのもと、それまで700カ所超あった屋台営業可能エリアをたった2年で500カ所も廃止したのだ。屋台エリアがさらに少なくなり、バンコクは屋台より食堂のほうが開業しやすい状況になってしまったのである。

調理をするニットさん。
タイの衛生関連の法令は日本と同じくらい厳しく、食器洗いのタライも複数用意しなければならない。

闇深い一面もあるタイ屋台ビジネス

タイ屋台営業可能エリアが縮小する中、屋台という職業の原点に立ち返る新たな基準も導入されている。新規制ではあるが、タイ国籍を有し、年間所得30万バーツ以下、低所得者向けの国家福祉カードを保有するなど低所得者だけが指定区域で屋台営業ができるということになったのだ5

しかし、これがどこまで正当に運用されているか疑問だ。

学歴社会のタイでは貧困者層は多くが高卒以下であり、資産も人脈もない人が大半だ。出店も直接区役所から権利を得られたなら、公道使用料が安ければ月額数百バーツ程度になる。

しかし、役所とのコネクションを持つ人物に複数の場所を事前に押さえられたら、又貸しという状態で借りるしかなくなってしまう。場所代が何倍にも膨れあがってしまい、在庫を持てない手押し車形態では1日に出せる利益もたかが知れたもので、赤字になることも考えられる。一方、貸し手としてはその人がいなくなっても、次の日には新たにやりたいという人が現れる。濡れ手で粟のスキームが完成しているので問題ない。

このように「屋台経営は儲からない」というタイ人の声もよくある。ただ、それは屋台とはいえコネもなく、飲食店経営ノウハウをひとつも知らず、悪手ばかり選んで失敗する人が少なくないからだ。簡単にできそうでも、多少の経営手腕は必要なのである。ある屋台経営者に聞いたところ、売上と利益をわかってない屋台経営初心者がよくいるという。

それは信じられないくらい単純な話だ。1,000バーツの売上を、店主がそのまま1,000バーツ儲けたと錯覚するだけのことである。経費、仕入れ費をすっかり忘れ、手にした喜びでなにか買ってしまったり飲みに出かけてしまったり。そして翌朝、市場での仕入れ資金がないことに気がつく。これであきらめてさっさと廃業するならいいほうで、市場にはもう少しがんばりたい人を狙う金貸しがいるという。

違法な金貸しや公道使用権の又貸しは毎日営業時間が終わるころに現れ、返済分を徴収する。翌朝だとまた売上を遣われてなくなってしまうので、多少でも現金を持っている営業終了間際に取り立てるのだ。こうして屋台は自転車操業になり、最後は大きな借金を抱える羽目になる。

こういった話題が先行して、屋台は儲からないというイメージができ、2014年からたった2年で1万7,000件の屋台営業許可が消滅したというが※2、社会問題として大きく取りあげられることがない。

それでも屋台は現在も、人々の食を支え、観光客を惹きつける存在である。厳しい環境下でどのように屋台をビジネスとして成立させるのか。後編では屋台の新たな可能性を探る。

手押し車など小さい屋台は公道での営業が厳しくなり、私有地などに入って客を待っている。

参考:

  1. ※1 カシコン・リサーチ・センター(2025年5月23日) ↩︎
  2. ※2 WIEGO「Street Vending for Sustainable Urban Development in Bangkok」2018 ↩︎
  3. ※3 タイ国家統計局(NSO)「タイ統計年鑑2016」 ↩︎
  4. ※4 バンコク都環境局(2025年4月11日) ↩︎
  5. ※5 バンコクポスト(2024年10月10日) ↩︎

髙田 胤臣 氏

タイ在住ライター。初訪タイ98年、移住2002年9月~。著書に『だからタイはおもしろい』(光文社新書)、『亜細亜熱帯怪談』『タイ飯、沼』(ともに晶文社)、『裏の歩き方』シリーズ(彩図社)などのほか、電子書籍をAmazon kindleより自己出版。書籍、雑誌、ニュースサイトで東南アジア関連の記事を執筆する。YouTubeチャンネル「バンコク・シーンsince1998│髙田胤臣」でも動画を公開中。

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