中華系企業の台頭と日系企業の事業機会〜フィジカルAI編(前編)

THAIBIZ No.177 2026年9月発行

THAIBIZ No.177 2026年9月発行タイ宇宙産業に商機はあるか いま、民間企業が動くべき理由

この記事の掲載号をPDFでダウンロード

最新記事やイベント情報はメールマガジンで毎日配信中

中華系企業の台頭と日系企業の事業機会〜フィジカルAI編(前編)

公開日 2026.09.10

「次なる時代のフロンティアはフィジカルAIにあり」。 今年7月、NVIDIAの創業者兼最高経営責任者(CEO)であるジェンスン・フアン氏が来日し、日本の人工知能(AI)インフラ構築やフィジカルAIの社会実装に関する提携が相次いで発表された。AIはアプリケーションを越え、工場や空港などの現場で動き始めている。こうしたフィジカルAIの最前線の一つとして実は見落としがちなのが、東南アジアだ。

東南アジアは、中華系企業の主戦場

バンコクのスワンナプーム空港で清掃ロボットやパトロールロボットを展開しているタイ企業Metthier(SKYグループ傘下の施設管理会社)は、次の一手として搭乗支援人型ロボットの導入を発表した。提携相手は、人型ロボット市場で世界首位のAGIBOT(智元機器人)だ。

フィジカルAIは、デモから量産、特定業務での稼働へと社会実装のステージが段階的に進みつつあり、中華系企業が「China to Global戦略」で海外展開を進める主戦場の一つが東南アジアである。本稿は二部構成とし、前編では人型ロボット、後編では自動運転のテーマを扱う。

ステージはショーケースから実用へ

Smart Analytics Globalの調査によれば、2026年上半期の世界における人型ロボット出荷台数の約97%を中華系企業が占め、人型ロボットの出荷台数約1万9,100台のうちAGIBOTとUnitree(宇樹科技)2社で合計1万4,000台以上を占める。

現在の人型ロボットの需要は、研究・教育・イベント、案内業務、工場・物流拠点の特定工程から立ち上がっている。中華系企業の人型ロボットの特徴は、導入価格を下げ、業界や業務特化型で現場に置き、データの収集・分析・改良のサイクルを速く回せる点にある。その証に、北京で開催された世界ロボット運動会では、人型ロボットが100メートル走でウサイン・ボルトの記録を超えるなど、昨年を大きく上回る性能向上が確認された。中国政府も今年6月に、人型ロボットについて、製造、検査、保守、倉庫物流、飲食・小売、医療・介護、安全生産、災害対応を重点分野に指定した。中国における人型ロボットの導入例を用途と成熟度で図表1に整理する。

図表から分かるのは、人型ロボットの実用化が「用途ごと」に進んでいることだ。中国政府は、今年末までに代表的な現場で人型ロボットの実証・常態配備を目指す。定型作業ごとに成功率、稼働時間、安全性、社会実装の採算性を高める段階といえる。

タイは「産業実装の場」、シンガポールは「制度実証の場」

東南アジアにおける人型ロボットの動きとして、まずAGIBOTとタイのGULFグループの提携がある。GULFは今年3月にAGIBOTと戦略提携し、小売拠点での接客や発電施設にて24時間巡回を検討することを発表した。両社はタイに合弁会社(JV)を設立し、タイ現地のデータ収集・運用、AIモデルの訓練、導入サービスを担う。ロボット本体のタイへの輸入だけでなく、学習と運用を現地の事業に織り込む点が重要である。

さらに、冒頭のタイ企業Metthier、タイの上場IT流通企業COM7、AGIBOTの3社でサービス業向け人型ロボットのJV設立を計画中と報じられ、Metthierがサービス現場を提供し、COM7が導入・保守を担い、AGIBOTがロボット本体と運用ノウハウを供給する形だ。タイは、観光や施設管理、エネルギーといった具体的な現場を持つ「実装の場」になりつつある。

一方、中国の車載LiDAR大手Hesaiの共同創業者らがシンガポールで立ち上げたSharpaは今年5月に、シンガポール科学技術研究庁(A*STAR)、政府系機関であるJTC、配車サービスを展開するGrabとの連携を発表し、港湾、商業施設、物流などで検証を進めている。特に「手」の精緻な操作技術で評価を得ており、NVIDIAの参照設計Isaac GR00Tにも同社のハンド「Wave」が採用された。AGIBOTもシンガポールでは通信大手SingtelとRaaS(サブスクリプション型提供)を計画し、警備大手Certisとチャンギ空港で実証予定と報じられている。

東南アジアにおいて、タイは産業実装の場、シンガポールは制度実証の場という役割が見えてくる。中華系企業は人型ロボットの単体販売ではなく、現地パートナーとの産業・社会実装、データの収集・分析を通じた運用・サービス提供を志向している。

日系企業への示唆

実装ステージで見れば、人型ロボットは中国国内ではすでに展示や実証のステージを越え、工場ラインでのタスク実用が始まっている。Sharpaの技術実証やGULFとのJV、MetthierとのJV計画のように、東南アジアは人型ロボットの入口に立ち、本格運用はこれからといえる(図表2)。

中華系企業のChina to Global戦略により、中国国内と東南アジアの社会実装スピードの差は縮まりつつある。今後、タイでは施設、空港、発電所、小売などで実証が広がるとみられる。一方で、中国国内のロボット訓練データは輸出規制を受ける可能性が高く、東南アジアでは現地環境に即した訓練データを別途蓄積する必要がある。フィジカルAIでは、精密な製造能力に加え、現場データとソフトウェアを活用し、改良サイクルを高速に回す力が企業の競争優位性となる。日系企業も、日本での実装後に東南アジアへ展開するのではなく、タイでの産業実装やシンガポールでの制度実証を日本市場と並行して進める重要性が高まるだろう。

※ 本文中の意見にわたる部分は私見であることをご了承ください。

>>本連載「M&Aの基礎」の記事一覧はこちら

Senior Consultant Strategy / M&A

劉 佳潔 氏Liu Jiajie

経営コンサルティング、インターネット戦略、IoT 新規事業立ち上げ、起業など幅広い経験を持つ。中国企業の調査・分析を強みとし、日本・中国での実務経験を経て、2023年から東南アジアデロイトで日系企業を支援。


Deloitte SR&T (Singapore) Co., Ltd.|Director, Strategy / M&A, TMT Industry

渡辺 敏弘 氏

新卒でデロイトトーマツコンサルティングに入社し、ハイテク・TMT業界中心に戦略策定やM&A支援を担当。2020年よりDeloitte Thailand事務所へ出向し、東南アジアの日系TMT業界をリード。
E-mail:toswatanabe@deloitte.com

Deloitte SR&T (Thailand) Co., Ltd.

デロイトタイの日系企業サービスグループ(JSG)では、多数の日本人専門家を抱え、タイ人専門家と共に、タイにおけるあらゆるフェーズでの事業活動に対して、監査、税務・法務、リスクアドバイザリー、フィナンシャルアドバイザリー、コンサルティングサービス等を日系企業のマネジメントの皆様に提供しています。

Website : https://www2.deloitte.com/th/en.html

THAIBIZ No.177 2026年9月発行

THAIBIZ No.177 2026年9月発行タイ宇宙産業に商機はあるか いま、民間企業が動くべき理由

この記事の掲載号をPDFでダウンロード

最新記事やイベント情報はメールマガジンで毎日配信中

Recommend オススメ記事

Recent 新着記事

Ranking ランキング

TOP