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連載: タイ企業経営者インタビュー
公開日 2023.03.14
タイの水産加工・販売大手タイ・ユニオン(TU)は、ツナ缶など水産加工品の世界的なリーダーで、積極的なグローバル展開だけでなく、近年はスタートアップ企業への投資や、海洋などの環境対策も重視、ダウ・ジョーンズ・サステナビリティー・インデックス(DJSI)の構成銘柄に9年連続で選定されている。今号では、事業の現状と環境戦略などについてティーラポン・チャンシリ(Thiraphong Chansiri)社長に話を聞いた。
(インタビューは2月16日、聞き手:TJRI編集部)
ティーラポン社長:タイ・ユニオンは、1977年にサムットサコン県でツナ缶の製造を開始した。最初の20年間は主にツナ缶の製造・輸出で、拠点はサムットサコン県とソンクラー県の2カ所だった。その後、その他の水産物の缶詰や冷凍食品、ペットフードなどに事業を拡大し、現在では主力事業になっている。海外展開は1997年に米国で第3位のツナ缶ブランド「Chicken of the Sea」を買収したのが最初だ。その後、冷凍水産品の販売事業に拡大した。2010年には欧州でもツナ缶や缶詰製造に投資した。現在、タイをはじめ、ベトナム、アフリカ、欧州、米国などの世界各地に生産拠点を持ち、従業員数は4万4000人以上となっている。
ティーラポン社長:創業以来、当社は順調に成長し続けており、現在、年間売上高は1500億バーツ以上だ(2月20日に発表した2022年決算では売上高が前年比10.3%増の1556億バーツと過去最高だった)。また、コロナ禍の2020〜2021年は最も売上高が伸びた2年間で、特に都市部のロックダウンが厳しかった2021年は缶詰の需要が拡大し、売上高は大きく伸びた。高度化したサプライチェーンマネジメントにより、世界中の顧客に製品を提供することができた。
ティーラポン社長:変化したのは販売チャンネルだ。タイではデリバリーとオンラインショッピングが非常に拡大した。これはタイだけではなく世界中のどこでも同じだろう。
ティーラポン社長:ツナ缶など水産品の缶詰が当社の売上高の40%以上を占めている主力製品だ。続いて2位は冷凍エビで25%を占め、3位はペットフードの約15%となっている。また、調理済み食品や料理素材の事業にも投資し、ツナオイルをはじめ、カルシウム、コラーゲンなどの健康に関わるサプリメント事業が当社にとって重要な新規事業だ。さらに、世界中で注目されている代替たんぱく質の販売も始めた。
ティーラポン社長:当社はタイ国家イノベーション庁(NIA)とマヒドン大学と協力し、タイのフードテックのエコシステムである「スペース-F」プログラムの共同創設者として世界中からフードテックのスタートアップ企業をタイに誘致している。このプロジェクトは既に4年目で、タイ企業だけでなく外国企業にも投資した。さらに、フードテックのスタートアップ企業に投資するベンチャーファンドも創設した。総額は3000万ドルで、今まで約1200万ドルを投資し、満足のいく結果が得られた。
投資したスタートアップ企業の例としては、昆虫由来の代替タンパク質を開発する「フライング・スパーク(Flying Spark)」や、糖尿病患者向けの食材を製造するシンガポールの「アルケミー(Alchemy)」など。また、水産養殖場の管理に役立つ技術を開発するドイツの「ハイドロ・ネオ(Hydro Neo)」 とタイの養殖業者とのプロジェクトも支援した。
ティーラポン社長:大きな問題は市場のスケールアップとコストだ。例えば、昆虫由来の代替タンパク質はミバエ(Fruit Fly)の幼虫を密閉された環境で育て、プロテインパウダー(タンパク質の粉末)に加工して販売する。これを魚原料のプロテインパウダーの代替とする事業のコストはまだ高く、低コスト化が大きな課題だ。将来、もし魚プロテインパウダーのコストとほぼ同じにできれば、環境に配慮して水産資源の使用を削減したい人たちは昆虫タンパク質を選ぶと考えている。
ティーラポン社長:1992年に三菱商事、はごろもフーズとの合弁事業を開始したが、現在は三菱商事のみが約5%の株式を保有する事業になった。さらに、2009年にはニッスイとの共同出資でのツナオイル製造にも参入した。日本企業とパートナー事業を行った長年の経験から、日本企業、特に大企業は品質を重視し、また関係が長ければ長いほど、より良いパートナーになれることが分かった。現在、日本への輸出は売上高の約8%で、日本企業との新しい合弁事業も歓迎している。
ティーラポン社長:現在、健康志向のトレンドがとても高まっている。水産物にも健康志向の人のニーズに応えられる栄養素がたくさんあり、いつの時代も人気があると思っている。また、手軽に開けられる容器などの利便性向上も主要なトレンドだ。
そして、環境とサステナビリティー(持続可能性)が重要なトレンドだ。例えば、原材料の調達先や生産工程、サプライチェーン、環境配慮などに消費者の関心が高まっている。これから持続可能性は単なる選択肢ではなく必須な要素になるだろう。
ティーラポン社長:水産関連業界は環境を大切にしていない業界と思われていたため、2015年以来、持続可能性の取り組みを本格的に進めている。顧客に当社と製品を信頼していただき、同業他社との差別化を図るため、戦略として取り入れることにした。タイ・ユニオンは「Healthy Living, Healthy Oceans」を目指す「SeaChange®」戦略に基づき、監視可能な漁船で獲れたツナのサプライチェーンから調達する方法を採用、漁船の乗組員の労働環境を改善するなどの透明性を高める漁業を支援、人権に配慮した取り組みを実践している。
また、2021年2月には、海洋と海洋資源の持続可能性を支援する「ブルーファイナンス」の仕組みを活用するため、タイと日本でサステナビリティー・リンク・シンジケートローンの募集を行ったところ、大手銀行から目標額の2倍以上の融資申し込みがあり、大きな成功を収めた。
ティーラポン社長:タイ・ユニオンは持続可能な企業経営の指標である「ダウ・ジョーンズ・サステナビリティー・インデックス(DJSI)」に9年連続で選定され、2018、2019年には世界の食品業界の中で1位になった。また、外貨建長期発行体格付は日本格付研究所からタイ国債と同じレベルの「A-」を取得した。
また、私は現在、世界の大手水産会社10社によって持続可能な水産物の生産と健全な海洋環境を確保するために設立された「SeaBOS(Seafood Business for Ocean Stewardship)」イニシアチブの会長も務めている。SeaBOSには日本企業の「マルハニチロ」と「ニッスイ」、「極洋」の3社も参加している。
ティーラポン社長:海洋ごみ問題は世界的な問題だ。世界中の企業が注目しており、持続可能な社会の実現に向けて環境にやさしい代替素材の開発などに取り組んでいる。日本は持続可能性を重視する戦略があり、タイもバイオ・循環型・グリーン(BCG)経済モデルがある。そしてどの水産関連企業も、資源がなくなったら事業もなくなるため、水産資源を非常に大切に考えている。環境配慮の重要性を認識しているので、水産資源はまだ十分に残っていると思っている。
TJRI編集部
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