カテゴリー: ビジネス・経済
連載: 経済ジャーナリスト・増田の眼
公開日 2022.09.27
日本の岸田文雄首相が訪問中のニューヨークで、新型コロナウイルスの水際対策について、10月11日から入国者上限規制を撤廃、個人旅行を解禁、短期滞在ビザを免除すると発表したことで、タイでも訪日旅行再開への期待が一気に高まっている。新型コロナウイルス流行の収束をにらみながら日本政府はこれまでも入国者上限の拡大や団体旅行の解禁など外国人の入国規制を徐々に緩和しつつあったものの、添乗員同行、ビザ取得、陰性証明の提示など制約が多く、タイの人々の多くは訪日旅行を見送ってきた。今回の緩和でようやくコロナ前のような日本旅行熱が復活し、日タイのリアルな交流が本格的に再開されるのだろうか。
タイ人の訪日旅行者数が目覚ましく増え始めたのは2012年からで、2013年7月からタイからの短期滞在(15日間)の入国ビザが免除され、増加に弾みがついた。日本政府観光局(JNTO)の統計によると、タイからの訪日旅行者数は2011年が14万4969人で、2012年に26万0640人に急増した後、2013年は前年比74%増の45万3642人、2014年も同45%増の65万7570人と急増ペースが続き、2018年に113万2160人と初の100万人乗せとなった。そして2019年に131万8977人と過去最高を記録した後、新型コロナウイルス流行で暗転する。2020年が前年比83%減の21万9830人、2021年は同99%減の2758人と水準まで落ち込んだ。
2021年2月以後を月次でみると、おおむね100~300人ぐらいで推移していたが、今年3月に2165人に急増した後、速報ベースで7月が4800人、8月が5100人まで回復しつつある。
こうした中でFeatureで紹介したように9月上旬に開催されたバンコク日本博の来場者数は過去2番目の水準となり、JNTOのブースにも約1万3500人が立ち寄ったという。
日本政府は、今年6月10日から観光目的の短期滞在の入国について旅行業者などを受け入れ責任者とする場合に限り認めたことに合わせ、入国者健康確認システム(ERFS:エルフス)を使ったオンライン申請を導入した。同サイトを見ると、受け入れ責任者に関する情報など記入項目10以上もある煩雑な仕組みであることが分かる。それでも今年7月以後、タイからの日本入国者数は急回復しつつある。
今年6月以後の日本政府の水際対策の緩和の過程では「今さら添乗員同行の団体旅行で行くか」「タイ出国時に新型コロナのPCR検査、陰性証明の取得の必要がある限り訪日旅行は見送りだ。直前の検査で陽性になったら、航空券代などが無駄になる」などの批判的な意見が多く、タイ政府の規制緩和と比べた日本政府の対応の遅さに不満の声が聞かれた。観光産業への依存度の違いが両国の対応の違いに反映されているのだろう。10月11日から短期滞在のビザが免除され、個人旅行が解禁されれば新型コロナ前の入国制度にほぼ戻ることになり、日本のインバウンド旅行関係業界もようやく息を吹き返しそうだ。
ただ17日付のバンコク・ポスト紙(経済1面)によると、タイ旅行代理店協会(TTAA)のジャルーン会長は、入国規制の緩和にもかかわらず、飛行機の座席数の制約や、台風などの天候要因もあり日本へのアウトバウンド市場は急激には増えないだろうと指摘した上で、「今年のタイ人旅行者数は10万人を超えない」との予想を明らかにした。結局、新型コロナ流行に伴い、航空会社が大幅にリストラを余儀なくされた影響がまだ続くということだ。
バンコク日本博を主催したジェイエデュケーションと、訪日外国人観光客のインバウンドPR会社バンコクポルタは今年6月上旬にタイ訪日旅行会社を対象にした日本旅行に関するアンケート調査を実施し、40社からの回答集計結果を8月1日に発表した。まず現在の営業状況に関する質問では「通常営業」が57%、「縮小して営業中」が20%、「完全在宅」が13%だった。観光再開後の旅行商品販売体制については「すぐに販売できる」が67%、準備を整えてから販売可能に」が33%だった。さらに販売開始時期については、「2022年6~8月」が54%、「2022年9~12月」が43%、「2023年1月以後」が3%だった。
販売を予定している商品の種別(複数回答可)についての質問では、①法人向けMICE(報奨旅行、会議、展示会)が83%と最多 ②スモールプライベートが80% ③家族向けが75% ④個人旅行(チケット、バスなど)が55% ⑤企画募集型が53%-などと続いた。旅行先は①北海道 ②関東 ③近畿 ④中部 ⑤九州―の順だった。
また、訪日観光再開後、新型コロナ前と同じ状況になる時期に関する質問では、「2022年後半」が65%、「2023年前半」が35%、「2023年後半以降」は0%だった。さらに観光再開後のペースについては、「大幅に増えるは5%」にとどまったものの、「増える」が45%と最も多く、一方、「減る」は35%、「同じぐらい」は15%となり、「全体としては楽観的」と分析している。
新型コロナのエンデミック(風土病)認定に伴う入国規制の緩和が日本より先行したタイでは、日本からのビジネス目的の訪問は着実に増えている。Featureで紹介した佐賀県の事例のように日本の地方自治体による特産品の販売促進、観光PRイベントも新型コロナ前のように活発になってきそうだ。10月21~23日にはチャオプラヤ川沿いの大型商業施設アイコンサイアムで、日タイ修好135周年を記念してタイと日本のソフトパワーを結集、TポップとJポップの国境を越えたコラボレーションのイベントとして「タイ・ジャパン・アイコニック・ミュージックフェス2022」が開催される予定だ。
過去2年半、新型コロナウイルス流行という現代人がほとんど想定していなかった災厄に見舞われた。コロナ後が「アフターコロナ」なのか「ウィズコロナ」なのかはまだよく分からない。個人的には、日本やタイで大半の人がマスクをしなくなる日が来るのかが関心事だ。先日、欧米中心にバックパッカーが集まるバンコクの有名観光地カオサンを久しぶりに歩いた。欧米からの観光客のほとんどが当然のようにマスクはしていない。驚いたのは観光客に料理屋や土産物を売る屋台のタイ人でもマスクをしていない人がかなりいたことだ。お客がマスクしていないからということか。一方、バンコクの繁華街、オフィス街は義務付けがなくなっても、大半の人がまだマスクを着用している。
THAIBIZ Chief News Editor
増田 篤
一橋大学卒業後、時事通信社に入社。証券部配、徳島支局を経て、英国金融雑誌に転職。時事通信社復職後、商況部、外国経済部、シカゴ特派員など務めるほか、編集長としてデジタル農業誌Agrioを創刊。2018年3月から2021年末まで泰国時事通信社社長兼編集長としてバンコク駐在。2022年5月にMediatorに加入。
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