

公開日 2025.12.09
タイには、国境付近の山岳地帯を中心に、50万人以上の無国籍者がいると言われています。国籍を持たない人々は、就労や教育、医療へのアクセスが制限され、居住地域からの移動すら難しいという現実に直面しています。
一方、タイ政府は2024年10月、約50万人の無国籍者に居住権を付与する制度の導入を決定。しかし、その実現には莫大な資金と人的リソースが必要とされるなど、無国籍問題に終止符を打つためには、なお多くの課題が残されています。
こうした状況を受け、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)とmediatorは、10月15日に共催イベント「タイの無国籍問題に終止符を ─ 民間部門の役割」をバンコクのUnited Nations ESCAPで開催。タイ企業や日本企業などから70名を超える参加者が集い、問題解決に向けた民間部門が果たせる役割について多角的な議論が交わされました。


目次
UNHCRは、難民、庇護希望者、国内避難民(紛争などで家を追われ、国内で避難している人々)、帰還民、無国籍者を対象に、国際的な保護や緊急支援を行う国連機関です。タイでは1975年から活動を開始し、タイ政府に対して無国籍問題の解決策を模索するよう継続的に働きかけてきました。
イベントの開会挨拶では、UNHCRタイ事務所のニヴィーン・アルバート副代表が、「タイは、地域的にも世界的にも、無国籍問題の解消において模範的な取り組みを進めている」と報告。


タイ外務省国際機関局のピンスダー・ジャヤナマ局長は、「CSR活動の観点だけでなく、持続可能な経営を実現するうえでも、こうした社会課題への取り組みには投資価値がある」と述べ、民間部門の積極的な関与を呼びかけました。
基調講演では、ユニクロ・タイランドの若桑芳長CEOが、「2011年、アジアの企業として初めてUNHCRとグローバルパートナーシップを締結した株式会社ファーストリテイリングは、以来長期にわたり支援活動を行ってきた」と、UNHCRとの連携および活動内容について紹介。代表的な活動の一つである「PEACE FOR ALL」プロジェクトでは、著名人がデザインしたTシャツを世界中で販売し、これまで総額24億円の寄付金を集めたと報告しました。
同CEOは、「ユニクロ・タイランドは店舗に使用済み衣服回収ボックスを設置し、集まった計5万点の衣服を、必要とする1万9,000人以上に届けてきた」と、タイでの活動についても説明しました。
パネルディスカッションでは、内務省地方行政局登録管理部のスカンヤー・ディードゥアイチャット氏が、タイにおける無国籍問題の解決に向けた政府の具体的な施策と、その実施状況および課題について説明。「永住権およびタイ国籍の申請期間が従来から大幅に削減され、3ヶ月強で、合計9万9,399人に国籍または永住権が付与された。これは目標人数の20%以上に相当する」と報告しました。
続いてタイ雇用者連盟事務総長のシリワン・ロムチャトトン氏が、無国籍者の雇用可能性を示しつつ「無国籍者を雇用できることが知られていない」と、雇用主の認識不足を指摘。雇用主が無国籍者の雇用機会について理解を深められるよう、すべての関係機関と協力していく意向を改めて示しました。
UNHCRタイ事務所のキーアン・シャム氏は、タイにおける無国籍問題に対するUNHCRの役割と具体的な支援活動について解説し、「国籍や永住権の付与は、その人と家族の人生が変わることを意味する」と強調しました。
その象徴として、コーヒーブランド「Akha Ama」の創設者であるリー・アユ・ジューパ氏や、「Local Community Network」の代表であるミーファー・アーソン氏のように、元無国籍者がコミュニティのリーダーや起業家となる事例が示され、両者からも「国籍を得ることで自身の可能性が広がるだけでなく、社会に貢献することも可能となった」と経験談が語られました。


続いて、UNHCRアジア太平洋局の櫻井有希子氏が、民間部門を対象とした「日タイ無国籍者支援基金(Thai–Japanese Statelessness Fund)」の設立を発表。「タイの日本人コミュニティは非常に大きく、タイ社会への貢献方法を民間の皆さんと一緒に模索していきたい。2024年には、mediatorの呼びかけにより、タイ北部洪水復興支援金として日系企業3社から35万バーツが集まり、感謝している」と述べました。
同基金では約3,300万バーツ(100万米ドル)の資金調達を目標としており、集まった支援金は無国籍者が国籍や永住権を取得するための法的手続き支援に充てられます(図表1)。


参画企業募集の面で同基金に協力しているmediatorのガンタトーン・ワンナワスCEOは、「アユタヤ時代から『多様性受容力』を強みとするタイでは、外資企業が国際舞台でプレゼンスを高める機会に恵まれている」と訴求。さらに、「日本に長寿企業が多いのは、社会を含む『三方良し』の理念が昔から実践されてきたため」とし、「日本企業であれば、無国籍問題の解決に向けて共に取り組んでくれると信じている」と期待を寄せました。
本イベントの参加者からは、「仕事で培った知見を活かし、個人としても企業としても何かできることがあるのではないかと思った」「無国籍問題の深刻さを改めて実感した」「この問題に関心を持ち、具体的なアクションにつなげている民間企業の存在を知ることができた」といった感想が寄せられました。
無国籍問題の解決は、「誰一人取り残さない」という持続可能な開発目標(SDGs)の中核原則と直接的に関連しており、企業として協力することはSDGs推進への貢献にもつながります。
本取り組みにご賛同いただける企業の皆様からのご連絡をお待ちしております。


「日タイ無国籍者支援基金」に関するお問い合わせ
UNHCRタイ事務所
Amornsri Pattanasitdanggul(Ms.)
E-mail:pattanas@unhcr.org
UNHCRとmediatorとの取り組みについて、YouTubeでも発信しています。ぜひご覧ください。https://m.youtube.com/@THAI_BIZ


THAIBIZ編集部





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