現場力を向上させる グローバル競争を勝ち抜くITソリューション

現場力を向上させる グローバル競争を勝ち抜くITソリューション

公開日 2014.10.27

タイの拠点から見たSCM

タイには相当数の日系企業が進出していますが、まだまだ個々の販売現場・生産現場という役割を担っているのが大多数かと感じています。しかしながら、その現場で日々認識されている問題や課題は、上記の通り「入口」や「先読み」に影響を受けています。それにも関わらず、進出時の役割定義の現状から、生産工場は安い労働力で高い品質を担保し確実に供給を行う事を重視する、販売会社は予算達成を重視する、ということだけに終始していることが現実のようです。
タイの今後を見据えた場合、AECなどの国家レベル・リージョンレベルでの施策による大きな経済活動環境の変化が起きる事が分かっています。実際、既にタイ周辺国への進出(タイ・プラスワン)を始めている企業も存在しています。また、日本からの生産移管が益々進み、生産量のさらなる増加も見込まれます。加えて、特に自動車関連業界ではタイに研究開発拠点を持つ流れも見られます。また、タイは地理的にASEANの中心地域にあるというメリットを持っており、各種製造業へのパーツサプライという面でも相応の企業が既に揃っていると言えます。昨今ではアジアハイウェイ構想などの恩恵もあり、ロジスティクスの質向上もめざましく、「経済圏」を認識した方針を打ち出す必要性があります。
こういったさまざまな要因が絡みタイがASEAN地域の中心となっていく可能性を秘めている状況の中で、これからのタイは生産・販売の現場という役割から、タイの周辺国をまとめるコントローラーとしての役割を担う事が考えられます。日本の本社が海外の拠点を統括しコントロールしてきたように、タイもASEANの中にある生産・販売拠点を統括し、調整を行う可能性を持っているのです。

arayz oct 2014 tokushu

 

ITソリューションの活用

SCMに関するITソリューションには、さまざまなものが存在します。ERP (Enterprise Resource Planning )、SCP(Supply Chain Planning)、BI(Business Intelligence)、DWH(Data Warehouse)、在庫管理、需要予測、生産スケジューラー、EDI( Electronic Data Interchange)、など列挙した場合に相当な数となります。したがって、求める効果を期待して導入するには、何をどの順で導入すべきかに悩まれる企業が多いようです。
近年SCMに関するITソリューションの動向としては、計画系ツールであるSCPと生産現場支援に関する話が目立つように感じています。前者は、グローバルに散らばる複数拠点での販売・生産・調達のバランスを計算し、需給調整業務を助けるモノになります。後者は、ウェアラブル機器やタブレット機器などによって、生産現場や営業現場での業務効率化を手助けするモノです。そして、現場とITの距離がより近づき、シームレスかつリアルタイムにその場で使えるようになってきていることが、以前からの「IT専門家の為のIT」と比べた変化として大きい点と言えます。
SCPツールは主にコントロールする組織、つまり、今までは本社組織が使うものでした。しかし、インメモリ技術や画面・機能に関する使い勝手の向上により、生産現場や販売現場での活用が進んできています。
例えば、生産制約(ラインキャパシティや現在庫など)の情報をインプットし、販売からの要求に対して応えられるのかどうかをシミュレーションするといった、今までは生産スケジューラーで行っていたことも、軽く速く簡易的に行えるようになっているのが特徴です。
生産現場支援ツールは主に現場で用いられるものであり、生産現場での指図書をタブレットや電子的な「メガネ」で目の前に表示し、組み付けや作業の手順をリアルタイムに切り替えて指示するようなことも可能となっています。販売現場でも、タブレットにその場で引合い情報を入力し、3Dでイメージ図を作り、顧客との確認を終え、確定ボタンを押すとその場で受注伝票を発行し、必要な部材が社内の基幹システムへ電送する、といったことまで可能となっているのです。
また、こういったITソリューションの導入・利用形態もさまざまなものが出てきており、「クラウド」といったITを「サービス」としてインターネットを通じて提供するものなどと組み合わせることで、今までと違った使い方やスピードを実現することができるようになってきています。クラウドの場合、初期投資は低いものの利用料という形で毎月一定額を払い続ける仕組みであり、ローカル企業としても投資し易いものの、グローバルのITについては、本社で一括投資し配賦基準に則って本社から子会社へ請求した方が最適なのか、グローバルの各拠点でどういうニーズがあがっているのか、本社として現場へどのようなサポートができるのか、などトータルに現状を把握して評価し優先順位を付けて実行する事も大切です。本社はもちろん他拠点とも連絡を密に取り、現場の改善につながる取り組みを素早く確実に実行できるよう進めて頂ければと思います。
一方で、このようなITの発展に伴う恩恵が広まる中で明るみになってきた別の問題があります。それは、ITソリューションを扱う「人」そのものに関する事です。現場に対して単にITというツールを提供するだけでは、ITによって自分の仕事が無くなるのではとの懸念が生まれたり、今の仕事のやり方を変える事や習熟する事を嫌がったり、高まったスキルを元にして転職するなど、ITツールを導入しなければ起きなかった別の問題が発生するのです。特に人材の流動性が高いアジア各国の現場では、これによって人材流出の懸念が増してしまっては本末転倒です。
さまざまな企業が懸念している人材の利活用と流動性の問題はITという観点やより高みを目指す為のSCM実現においても存在しており、ITツールやSCMという考え方を導入・活用する事の目的や効果と各人材への期待を明確にしてから進めることが必要になります。そして常に重要な人材を「惹きつけ」・「引き上げ」・「引き留め」られるような人事制度設計の整備が新たなSCM実現という観点でも急務であると言えます。
タイの現場においては日系企業の進出に歴史があることから、優秀で引き留めておきたい人材には既に価値ある経験が溜まってきており、彼らのキャリアプランと企業のビジョンの整合を図ることが、新たな取り組みをする為の準備として合わせて求められるでしょう。

arayz oct 2014 tokushu
株式会社クニエ マネージング・ダイレクター
田中大海氏

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THAIBIZ編集部

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