製造業の流れが変わる3Dプリンター大解剖! 具体的な用途、導入のメリットとは?|ALTECH

製造業の流れが変わる3Dプリンター大解剖! 具体的な用途、導入のメリットとは?|ALTECH

公開日 2015.03.09

具体的な用途は?導入のメリットとは?3Dプリンターをさらに解剖!

ものづくりの世界に3Dプリンターが入ることで、具体的に何が変わり、プラスとなるのか。金型・治具業界に与える影響とは?陶山氏が見てきた、3Dプリンター先進国・アメリカでの実用例から紐解いてみよう。

3d printer
アルテック株式会社 取締役 執行役員 デジタルプリンタ事業部長 陶山秀彦氏

Q.3Dプリンターの登場で、金型がなくなる可能性もあるのでしょうか?

A.まず、従来の金型がなくなる、ということはありません。今後大きな変化がある可能性はありますが、それも今すぐということはないでしょう。
現在は試作品への用途が多い3Dプリンターですが、業界の流れは金型や治具製造など最終製品を製造するDDM市場へ移行しており、今後もDDM市場の需要は増加が見込まれます。2015年の時点で試作品市場が約3300億円、DDM市場は約920億円と予測されていますが、21年にはDDM市場はさらに38%増加し、約4600億円までに市場は伸びることが予測されています(下図参照)。

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DDMは多品種・小ロットの最終製品製造に向いています。仕様にもよりますが、生産量が500〜600個で良いものを製造する場合、金型を作る手間とコストを比較するとDDMが優位です。
例えば航空機は、自動車などと比べると全体の製造数が少ないですよね。航空機メーカーのボーイングやエアバスでは、人の目に触れない内側のパーツや屋根裏の配線ラックでDDMとして使われています。素材も堅牢かつ非常に耐熱性のある「ULTEM1010 」などの新製品が年々登場しており、なかにはISO認証の取得を得た素材もあります。
製造業にとって、納期は非常に重要です。アルミやステンレスなどの金属を掘削して形成する金型に対し、積み重ねる3Dプリンターは形成に掛かる時間が短い。よって、量産用の金型を試作する際、外注試作と3Dプリンター出力、2つの方法を比べても、開発期間にかかる時間とコストは3Dプリンターが優位です。短時間で形にして確認できるため、設計ミスの早期発見に繋がるほか、モデルチェンジへの対応力もアップします。今後、サービスビューローなどのオンデマンド生産利用の機会が増えれば、ストックスペースの制約から解放されるなどのメリットも出るでしょう。
治具に関しては、複雑な形状のものにも対応が可能、また金属から軽量化できるというメリットが生きてきます。改善、改良のためのアイデアが時間とコストを掛けずに具現化できるので、作業の効率化にも繋がるはずです。

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金型と3Dプリンターでは成形の方法が異なりますので、設計方法と省エネのポイントに関しても、異なる留意が必要になります。まず、金属は掘削ですから、削る箇所が少ないほど手間が省けますよね。対する3Dプリンターは積層ですので、素材の分量が少ないほど時間とコストが省けます。治具を作る場合は強度を保ちつつも、やはり金属を使用した場合とは異なる、3Dプリンター用の新しいデザインが求められます。
当社のタイ現地パートナー会社においては、産業・加工機械の製造工場に3Dプリンターを設置し、金属製治具・受具の代わりに3Dプリンターで成形したABS樹脂製の治具・受具を使用するという取り組みを行っていただいています。
同社では金属治具・受具を外注で製作していたものを、3Dプリンターで内製化したことで納期の短縮に成功しました。コストに関しても、金属用の設計図を3Dプリンターで出力した場合で10%ダウンすることが分かり、金属用のものではなく3Dプリンター用の設計(デザイン)にすることで、さらに20%以上のコスト削減を目指しています。
また、さらに同社では冶具・受具に限らず、3Dプリンターと日本の高い加工技術を組み合わせることで、3Dプリンターや従来の加工技術のみでは不可能だった「新しいものづくり技術」をタイで確立させようと取り組んでいます。金型で大量生産するほど数量を必要としない製作や、金属より製品に傷をつけにくいプラスチック製の治具・受具など、用途に応じた個別の製品設計をしています。

3d printer右:3Dプリンターで成形した治具。オレンジ色の部分には堅牢素材「ULTEM9085」を使用している
左:3Dプリンターで成形した金型から作られた部品

Q.DDM先進国と言われるアメリカでは、どのようなシーンで3Dプリンターが使用されているのでしょうか?

A.世界の3Dプリンター導入シェアでトップを占めているのは欧米で、アメリカが40%であるのに対し、日本は10〜15%に留まります。さらにタイでのインストールに関してはまだこれからという段階です。
3Dプリンターの導入、そしてDDMに関しても、アメリカに比べると日本とタイは遅れを取っています。アメリカで導入されている主な業界としては、前述の航空機関連、自動車関連(欧米、日系どちらも)、農業用機械、医療機器関連など産業界が挙げられるほか、NASAもヘビーユーザーとして有名です。オバマ大統領は2012年の演説で「3Dプリンターによってアメリカに製造業の第2次産業革命を起こす」と発言しており、教育機関にも設置、授業で取り入れることを促しています。これにより3D-CADのオペレーター年齢は低下の傾向にあり、次世代の産業界を担う人材が育成されています。
年々機種が増え、低価格化が進んでいることから、家庭用品も導入が進んでおり、オリジナルのタブレットホルダーや食器など、100万種類以上の3D-CADデータがダウンロード、自宅でプリントできる著作権フリーサイト(www.thingiverse.com)も登場し、裾野が広がっています。

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アメリカでの浸透が早く、日本が遅れを取っている要因のひとつに、高度な技術が生み出す品質への妥協なきこだわりという、合理的思考に必ずしも一致しない文化があるかもしれません。もちろんこれが日本の産業界の強みであり、美徳でもあると思うのですが、同時に、決断力とスピードが求められる場合は弱みにもなり得ます。素早く低コストで機能を十分に果たせるものを、見えない所で使うのであれば、便利なものを使えば良いというアメリカの合理的な考え方も、グローバル競争においては時に必要です。
試作品やデザインモデルはR&D機関やデザインセンターで作られることが多いため、日本でも3Dプリンターはこれらの部門には導入されていても、製造現場で導入されていない、というケースが見受けられますが、アメリカでは部門を越えて3Dプリンターが設置、活用されていました。このような両部門の相互関係も重要で、製造現場が3Dプリンターの勝手を掴めれば、必要な治具をその場で作り出すことができ、作業効率はアップします。
アメリカの某自動車エンジン工場では、ストラタシス社FDM方式最大の機械である『Fortus 900』が24時間体制で稼働しています。新しく開発されたエンジンの組立ラインで、干渉をチェックするためのサンプルとして使用されたり、水漏れのテストを行うためのゴムを作る際にも、サンプルの金型を作るどころか、そのものを3Dプリンターで出力してしまうという手段も用いられており、活用方法は自由自在だと感じさせられましたね。工員が作業しやすいよう、自身で工具やパーツを収納するケースも作っていました。

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出力素材の硬さが確認できるサンプル

Q.タイをはじめ、東南アジア諸国でも3Dプリンターは浸透しますか?

A.日本では、2014年に経済産業省が中小企業の研究開発支援として補助金制度を設けたことも後押しし、中小企業でも産業用3Dプリンターを導入する企業が増加しています。この目的には3D-CADオペレーターとなる人材を育成する目的も含まれており、日本政府も新たなツールを取り入れた、今後のものづくりへ向けて準備を進めています。
約9000社にまで増えているという在タイ日系企業(※)のうち、約2500社が製造系企業と聞いており、市場開拓へのポテンシャルは十分あります。日本で設計された3D-CADのデータをタイへ送ることが可能なため、DDMで利用すれば輸送費や輸入関税、製造スペース確保のリスクも小さく済ませることができます。タイ以外ではインドネシア、ベトナムからも引き合いがあり、ジャカルタにはすでに営業所が、ホーチミンでも会社設立の準備が完了したところです。
収縮する日本市場に比べ、東南アジア、なかでもタイ市場が持つ可能性は高いと感じています。
※2014年10月時点で、タイ商務省事業発展局に登記する在タイ日系企業数は8890社に上回った(ジェトロ・バンコク事務所発表)

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高精細・高速・多機能なPolyjet方式の「Connex」シリーズ
アルテック社ではプロフェッショナル用3Dプリンターを販売

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THAIBIZ編集部

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