過去・現在から展望を見据える タイの自動車産業事情

過去・現在から展望を見据える タイの自動車産業事情

公開日 2016.03.22

自動車産業のハブとなるには

〝タイの産業高度化に向けた日タイ共同政策提言〞では、タイが①製造拠点からの近接性、②将来有望なメコン地域の中心に位置する、③政府関係省庁と優遇政策・規制などに関して対話がしやすいという理由から、日本企業にとって非常に有望な研究開発拠点候補であるとしている。実際、先述のワークショップで発表した企業含め多くの企業が、開発拠点機能強化のためのタイへの投資を実施・計画しており、さらにタイ人を中心とした開発を行うための人材育成計画を策定し始めている。

NESDB、タイ科学技術省、在タイ日本国大使館、ジェトロ・バンコク事務所の4者が、タイの次なるステップは飛躍的に製品開発力を向上させることであるという認識を共有し、そのためには①タイで製品開発を行うための試験・評価機関の改善、②グリーンテクノロジーの促進、③タイにおける製品開発のための人材育成、およびCLMVの活用が必要不可欠であるとした。
また、4者はタイの自動車産業の重要性を共有し、タイが①製品開発・自動車試験ハブ、②ピックアップトラック・ハイブリッド(HV)・電気自動車(EV)生産ハブになるために、協力していく意思を示した。また、タイが自動車産業のハブになることは、タイの産業競争力強化に重要であり、ハブ化を進めることは、①製品開発ノウハウの蓄積、②日系企業からの研究開発関連の投資呼び込み、③マーケットニーズにあった開発力の向上、④価格競争力の向上、⑤人材育成の促進のために有益であるとの認識も共有したとしている。奨励された方向性は以下の通り。

―製品開発、自動車試験・評価ハブとなるため

―ピックアップおよびHV/EV生産ハブとなるため

―人材育成ハブに向けた協力

財政措置の面では、研究開発予算の増加および資金活用が産業の高度化および人材育成に不可欠であり、基礎・高等教育システムを通して十分な研究者の数を確保することが公的部門の重要な役割であることを共有した。

中長期的なタイの産業高度化プラン策定のため、4者は自動車部素材・サービス業・農業など、より幅広い分野において、関係省庁、日系企業や大学とともに継続的な対話を行う重要性を認識した。
「日タイ共同政策提言が策定された後、15年11月にタイ国立自動車試験場についてタイ政府が予算の承認を行ったこと、また、同月にR&D試験車の輸入税・物品税(従前、中古車扱いで高い関税が課されていた)の免除が閣議決定されたことなどの成果を挙げる
ことができました。同年10月には、佐渡島大使がタイ工業省次官補やBOI顧問といった政府高官を横須賀の自動車試験施設へ招聘したほか、同年11月に日本自動車研究所(JARI)とタイ工業省が製品開発や自動車試験・評価ハブ、人材育成などといった分野で協力していくとしたMOUを締結しました。ここでいう人材とは、産業技術者(エンジニア)を指し、タイ人技術者が少しずつでも自らデザインや設計・図面などが行えるよう育成することを目的としています。また、民間でも開発拠点強化が促進されており、ホンダがアユタヤ工場横に自社テストコースを設立(同年11月着工)、日産が大型R&Dセンターをバンコクに開所(16年上旬にも稼働予定)するといった動きがあります」(図表2)。

arayz toukshu mar 2016

国際基準の国立自動車試験センター設立に向けて

2015年11月、ソムキット・チャトゥシーピタック副首相が訪日した際、タイ工業省とJARIがタイ国立自動車試験センター設立に向けた自動車人材育成のMOCに署名した。また16年1月、JARIは専門家をタイに派遣(日本経済産業省、日本自動車工
業会(JAMA)も同行)し、設立予定地の訪問などを行った。訪問の際、タイ政府から「この試験センター設立はMRA(国際基準)の促進にも沿った試みで非常に重要。早期に日本と協力しコンセプトデザイン・レイアウト設計を完成させる必要がある」との反応があったという。

「自動車試験センターは衝突実験設備に、約5kmの大規模テストコースなどを備えた大型評価施設です。マレーシアには既にこのような試験センターがあり、タイやインドネシアは試験車を持ち込んでテストを行っていますが主要な製造拠点から遠く、効率が非常に悪い。タイの地政学上、優位な立地を生かして試験センターを設立すれば、インドからの試験車持ち込みなども見込めます。この施設は国立で設立されるため共有施設となり、自動車メーカーだけでなく、自前で評価施設を設けられない部品メーカーも製品テストをタイで行うことができるようになります。タイ日本政府としては、初期段階で重要なのはコンセプトデザインやレイアウト設計において、日本企業の意向が反映される構造にすることだと考えています。せっかく試験センターが設立されても、利用企業に取って使いやすく、実施される試験が国際基準に沿っているものでなければ意味がありません。この19項目の試験すべてがタイで可能になれば、シングルマーケットに近づいていくASEAN自動車市場で、タイは強い影響力を持つことができます。質の高い〝自動車試験施設マスタープラン〞を作ることができれば、タイ政府の考えるAASEANの自動車試験ハブ構想と合致させられます。また、将来的な拡張を想定しておくこと、また、セキュリティ・秘
匿性についても確実に担保できるものであることが非常に重要です」。

自動車産業はタイの産業クラスター政策で、スーパークラスターに指定されている重要産業だ。インドやインドネシアといった自動車生産国が台頭してくることは、年間300万台生産を目指すタイにとっては驚異となる。タイと日本、そしてCLMVが同じ方向を向いてASEANでの存在感(プレゼンス)を高めていけるかが鍵となる。

在タイ日本国大使館
177 Witthayu Road, Lumphini, Pathum Wan, Bangkok 10330
02-207-8500
http://www.th.emb-japan.go.jp

THAIBIZ編集部

Recommend オススメ記事

Recent 新着記事

Ranking ランキング

TOP

SHARE