産業集積、消費市場としてのタイ+1 CLMVの基礎知識&最新事情

産業集積、消費市場としてのタイ+1 CLMVの基礎知識&最新事情

公開日 2016.04.29

ラオス編

arayz apr 2016

農業国からサービス産業・工業国へ

かつては人口の8割近くが農業に従事し、GDPの40%以上を占める時期があったが、近年ではサービス業が約37%、工業が約31%、農業が約26%(2012年、ラオス統計局)と、サービス産業と建設を含む工業で、GDPの70%近くを占めるほどになった。この背景には、外資を中心とした金融機関や小売部門の成長、外国人観光客の増加、情報通信サービスの拡大などに加え、銅・カリウムなどの資源エネルギー部門が成長したこと。また、11年1月からEUの一般特恵関税規則(GSP)が緩和されたことや、人件費が比較的低い水準にあること。さらに、縫製業を中心に10年前後からチャイナ+1、近年ではタイ+1として進出する日系製造業の進出が増えるに連れ、それらの企業を支援する物流会社や建設会社などが進出を始めている状況がある。

インフラ・労働力・市場進出メリットとデメリット

中国雲南省から流れる、メコン川支流の豊富な水資源と山地を活かした水力発電用のダム開発が進んでいることから、ラオスの電気料金は周辺国に比べて安い。現在、80以上の電源開発プロジェクトがあり、周辺国に電力を輸出する「東南アジアのバッテリー」として期待されている。
その一方で、ラオス国内で製造される製品はわずかで、自動車や機械部品、日用品、食品の大半を輸入に頼っている。そのため貿易赤字が続いており、国内産業の育成が課題だ。ラオス政府は製造業を中心に外資企業を受け入れることで、国内の産業育成および雇用創出を目指す方針を示している。最低賃金はCLMVではミャンマーに次ぐ安さ、全人口に占める20歳未満の人口が約50%と若さも売りだが、人口が周辺国に比べて少なく、質の向上が急務となっている。
以前は首都・ビエンチャンでさえも入手できる製品の種類や質が豊富とはいえなかったため、週末はタイで消費を満喫するビエンチャン市民が多かった。近年は、自動車の販売台数も着々と増加、消費者市場としての魅力も増してきている。また、外資の小売・卸売業はこれまでラオス市場への参入が規制されていたが、13年2月2日の世界貿易機構(WTO)加盟や、15年のASEAN経済共同体(AEC)発足を契機に、サービスセクターの自由化が進んでいる。

堅調な経済成長

8%台を記録してきた経済成長率は、14年には隣国タイ経済の不調と政府の財政赤字健全化に伴う支出削減で7.5%程度に減速。15年も政府の財政赤字削減策の継続で6.4%に減速したが、16年は財政赤字の縮小、インフレ率の低下、7.0%の成長が見込まれている(図表2)。

arayz apr 2016

15年4月、法定最低月額賃金が90万キープ(約112米ドル)へと大幅に上昇したものの、経済特区の整備も進み、ラオスの生産拠点としての魅力は高まっている。
国道の舗装や川幅の広いメコン川の新規架橋といった交通インフラや、タイとべトナムへのタイ車両乗り入れ開始など制度面の整備も進んでいるが、内陸国であるため、原料や部品、製品の輸送に掛かる時間や運送コストなども含め、あらゆる面から現在の状況と総合的に比較し、事業の可能性について十分に検討する必要がある。

ラオスへの投資規制と奨励制度

ラオスでは商工省および計画投資省、国家経済特区委員会が投資促進を担う。
外国企業が投資を行う場合は、一般事業、コンセッション(開発権)事業、経済特区における事業の3形態があり、それぞれの投資促進を商工省、計画投資省、国家経済特区委員会が担っている。
投資形態としては、100%外資所有企業と外資と内資による合弁企業、法人設立を伴わない現地企業との事業協力の3種類。最低投資額については、合弁事業における最初の資本金は総投資額の30%以上、登録資本は10万ドル以上であること(駐在員事務所設立を除く)となっている。
ラオスの内国産業を保護するため、サービス産業については外資の参入に消極的な面があったが、WTOに加盟して以降は緩和に向けた政策を進めている。また、AECでは全155分野のうち128分野を対象に、加盟各国がASEAN域内企業からの出資を段階的に自由化していく動きがある。直近では、これまで外資の参入が認められていなかった、卸売業および小売業について、2015年5月発布の政府文書をもって門戸が開かれたことが大きな動きだ。登録資本金額など条件付きではあるが、最大で外資100%でも進出が認められるようになった。なお、外資100%での進出が現状認められていない事業については、ラオス国籍投資家(ラオス企業)との合弁が必要で、合弁の際にはパートナーとの契約条項および信頼関係が重要となる。
奨励業種に関しては、外資にのみ適用される業種はなく、外資・内資ともに農業、工業、手工芸、サービス業、加工業への投資が奨励されている。これら奨励事業は投資奨励法施行令第119号(11年4月20日付)において、優先順位に基づき3段階に分類される。優先順位は政府における重要テーマ、貧困削減への寄与度、住民の生活環境の改善度合い、インフラの建設、人材開発、雇用創出の度合いなどを基に定められている。優先される事業には、統合型農業、畜産、油脂植物の栽培、植林、出版・印刷、ラジオ・テレビ放送、ソフトウエア開発、コンピューター・関連機器の製造、通信機器の製造、植物由来の医薬品・化学品の製造加工、発電施設の建設・設備の製造、食品加工、衣料品製造など206業種が指定されている。
投資奨励法第4条では、国家安全保障に関わる事業、短期的・長期的に環境に甚大な悪影響を与える事業、公衆衛生および国民文化に好ましくない影響を与える事業以外のすべての分野への投資を奨励するとされ、同第49条では農業、工業、手工芸およびサービスセクターへの投資が奨励されている。合わせて、第8回国家社会経済開発計画2016〜2020(ドラフト)には、近代技術を用いた加工業への投資の促進が明記されている。
また、同施行令で定められる鉱山、発電、通信衛星、放送、運輸、商業・公共施設建設、
インフラ建設、金融、観光、農業などのコンセッション事業についても投資優遇措置が
供与される。
各種優遇措置においては奨励業種と同様、外資のみに適用される投資優遇措置はない。ラオスにおける投資に対する優遇措置として、①事業の優先順位および投資地域による法人税免税、②関税および税に関する優遇、③医療・教育分野における優遇、④経済特区での事業における優遇、⑤大規模投資における土地利用権に関する優遇―がある。
事業の優先順位3段階に加え、社会経済インフラの開発度合および地理的条件によってラオス全土が3地域に分類されている。すべての投資事業は、投資地域3つに加え、そこから3段階の事業優先順位レベルに分けられた9分類のどれかに該当することとなる。該当する分類によって期間の異なる法人税免税措置が供与される。

日本・外務省ウェブサイト
www.mofa.go.jp/mofaj/area/myanmar/
日本貿易振興機構(ジェトロ)ウェブサイト
www.jetro.go.jp/world/asia/mm/
世界貿易投資報告 2015年版(ジェトロ)
ビエンチャンスタイル(ジェトロ・ビエンチャン事務所)

ラオスの経済特区(SEZ)

ラオス国内には11ヵ所(2015年時点)の経済特区があるが、ラオス政府は20年までに25ヵ所のSEZを設立し、5万人の雇用を創出する計画を示している。
日系製造業などが多く入居しているのは、インフラが整備されているビエンチャンのビタパークSEZとサワンナケートのサワン・セノ(サワンパーク)SEZ。また、15年に開発許可を与えられたばかりのパクセー・ジャパン中小企業専用SEZは、日系の中小企業(SME)に特化したSEZで、すでに日系企業6社が進出、操業を開始している。
それぞれのS E Z において投資優遇の内容は異なるが、SEZに入居すると、法人税などの免除および減税、法人設立手続きのワンストップ対応などの優遇を受けることができる。

arayz apr 2016日本アセアンセンター、ラオス計画投資省が2016年3月に主催した「ラオス経済・投資
セミナー in バンコク」では、サワン・セノSEZ、パクセー・ジャパン中小企業専用SEZの担当者が工業団地紹介を行った

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THAIBIZ編集部

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