カテゴリー: 自動車・製造業
公開日 2016.09.28
情報通信機器に限らず、すべての「モノ」がインターネットにつながることで、企業のビジネスモデルや消費者の生活スタイルが変わる「IoT」(Internet of Things)。
自動化が進む製造現場でもIoT導入が進められているというが、そもそも「IoT」が定義するものとは何なのか。
また、導入が製造業のビジネスモデルをどのように変えていくのかー。
野村総合研究所タイの岡崎啓一社長に話を伺った。
『モノ』をインターネットと接続してデータの送受信を行い、そのデータを蓄積、分析するところからセキュリティに至るまで、IoTの技術は多岐にわたり、既に製造業をはじめ、農業、小売業、金融業、医療業、エンターテインメント業など、さまざまビジネスシーンで利用されている。
「IoTに『これ』と呼べる明確な定義はありません。強いて言うならば『人を介在させずにIT接続されたもの全ての総称』であり、人や企業によって、各々のイメージが存在しているので、一種のバズワードとして捉えた方が良いかもしれません。IoTという言葉が世に知られるようになり始めたのは2000年ぐらいからだと言われていますが、当時はRFIDと呼ばれる、バーコードやチップを用いてモノを識別・情報管理する技術に使われていました。今では製造業界をはじめ、スマートシティやスマートフォン、クラウド、家電など、さまざまなところでIoTという言葉が使われています」。
「製造業におけるIoTには、大きく二つの流れがあります。ひとつはドイツの『インダストリー4.0』で、もうひとつはアメリカの『インダストリアル・インターネット』です。インダストリー4.0はドイツ政府が主導となって、国内製造業の競争力を維持するためにITで工業オペレーションの効率化を行い、それを標準化、グローバル・スタンダードとすることで、ドイツの技術、アーキテクチャを世界に拡大することを目的としています。
アメリカのインダストリアル・インターネットはGeneral Electric Company(以下、GE社)が、自社規格のネットワークとアーキテクチャベースの産業向けIoTを確立すべく提唱、自社製品としてITやクラウド関連サービスを提供しています。
GE社は発電用ガスタービン製品のリペアやメンテナンスのため、回転機の軸の動作状況を『軸の振動』を情報として収集、予兆保全に取り組んできました。これを航空機用ジェットエンジンの軸のブレ幅の計測に応用。リアルタイムで大量に送られてくる情報をIT・クラウドを介して収集・分析し、軸がぶれることでトラブルにつながるジェットエンジンの故障予知などに役立て、さらにこの技術は汎用機械設備、水力タービン、ドリリング、パルプ/製紙機械などにも応用展開しています 」。
将来の課題に対して技術的観点から提言を行っている、ドイツの研究機関『ドイツ科学技術アカデミー(acatech: National Academy of Science and Engineering)』がインダストリー4.0のアドバイス、サポートする役割を担っているが、このドイツ科学技術研究アカデミーが2013年に発表した『インダ ストリー4.0ワーキンググループ報告書』によれば、インダストリー1.0が蒸気機関の活用、インダストリー2.0が電力を活用した分業体制、インダストリー3.0がロボットを活用したオートメーションであると記されている。インダストリー3.0とはPLC(プログラマブル・ロジック・コントローラー)という制御デバイスを用いてロボットを制御することであり、ロボットとその制御によるオートメーション化の部分だけでは、インダストリー4.0とは呼べないということになる 。
インダストリー4.0とは、ネットワーク・サイバー空間と現実世界の融合、『 CPS(Cyber Physical System )』であり、サイバーはインターネット経由でアクセスするクラウドに設けられた巨大なデジタル空間、フィジカルは現実の物理空間を指す。現実世界(フィジカル空間)にある多様なデータ(ビッグデータ)を収集、仮想世界(サイバー空間)で解析、シミュレーションなどを行うのだ。
CPSはデジタルツインとも呼ばれ、フィジカル空間でのモデルをサイバー空間に構築(コピー)し、フィジカル空間から送られてくるビッグデータをサイバー空間で分析、製品や部品の3次元設計図だけでなく、企業活動のモデルまでも可視化、構造を含めてシミュレートし、フィジカル空間での事象の最適化と制御を行うことができる。つまり、サイバー空間でフィジカル空間の動きを再現することができるということだ。逆にフィジカル空間では、サイバー空間からのデータを用いて3Dプリンターやロボットが作業を行うことも可能となる。
「IoTでメーカーのひとつひとつをシステムの一部として応用する戦略が、ドイツ主導のインダストリー4.0です。その目標の一つに『無(省)人化工場』の実現があり、これに合った規格策定となっています 。また工場のみならず、開発・調達・物流など、メーカーの全機能の効率化を視野に入れた仕組みづくりが、2020年を目処に推進されています。『ファクトリー・オートメーション(FA)』が工場内部の機器を結び、工場内の制御を行うことを言うのに対し、インダストリー4.0のIoTは、工場および国をもまたいで機器を制御、つなぐイメージです。
インダストリー4.0では、あらゆる機器を『インダストリー4.0ネットワーク』に接続し、ERP(統合基幹業務システム)から直接ひとつひとつの生産機械・モノの流れが把握できることで、データ移転が進むと思われます。また、労働/資本集約的行為は新興国に任せ、ドイツ自身は生産システムのコアとなる設備や技術を生み出す『マザー工場』化を目指す仕組みになっていることから、『産業ブロードバンド』や『産業IoT』を通じ、産業ビッグデータ化された生産ノウハウが、メーカーから生産システムサプライヤに移転しかねません。インダストリー4.0による『自動工場』、『規格作り』の過程で、プレーヤー間の関係にどのような変化が生じていくのか注目する必要があります」(図表1,2)。
次ページ:メーカーの「水平分業化」と「サービス化」が進んでいく
THAIBIZ編集部
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