社会課題からビジネス機会を創出する CSV事業戦略

社会課題からビジネス機会を創出する CSV事業戦略

公開日 2017.01.09

事業創出のポイントと重要な留意点

社会課題起点の事業創出には、ソーシャルへの影響力が大きいNGOなどの国際機関をステークホルダーとして巻き込むことが肝になる。しかし、時にNGOは企業にとって大きな脅威となる場合もある。
ニューヨークに本部を構え、世界100ヵ国以上に支部を持つ世界自然保護基金(WWF)は、世界最大規模の気候変動分野のリーダー的NGOだ。北米を中心に世界中で環境意識の高い会員を有し、総会員は500万人とも言われている。WWFは2011年に発表した『THE ENERGY REPORT』において、全世界で再生エネルギー100%の実現が可能との見解を示して以降、政策提言・企業への再生エネルギー導入提言を強化。気候変動への取り組みを点数化した企業の温暖化対策ランキングを作成し、外部に公表している。企業はランキングで下位に位置してしまうと、「環境に優しい」イメージが強制的に破壊されうる。

同様に気候変動分野で大きな存在感を放つのが、アムステルダムに本部を構えるNGOのGREENPEACEだ。彼らは2010年にFacebookがデータセンターを石炭火力で賄うとの情報を受けると、脱温暖化・原発推進のため100%再生エネルギー調達を要請する〝COOL IT〟キャンペーンを開始し、1日8万件以上のキャンペーン支援コメントを同SNS上に発信するネガティブキャンペーンを展開した。Facebookはキャンペーンを終了させるために、再生エネルギー100%を宣言している。

このような脅威に対して欧米のグローバル企業では、企業の説明責任・透明性を高めるためにNGOを含めた社外ステークホルダーとの対話を実施、NGOを巻き込んだ活動を行うことでバッシングリスクを軽減している。さらに、協働関係を構築することで持続的な事業を創出できる可能性がある。

「イギリス・オランダのユニリーバ社は『持続可能なパーム油のための円卓会議』(RSPO)で、WWFとともに『持続可能なパーム油』に関する認証制度を作り、デファクト(事実上の業界標準)化しながら認証基準に合う森林を先行確保、サプライチェーン上の競争優位性を構築しました。認証制度ができた時には、ユニリーバはすでに認証パーム油の調達に成功しており、認証パーム油が調達できていない企業に向けてはバッシングが強化されました。
また、認証パーム油の供給量はRSPOがコントロールすることができたことから、圧倒的に供給量が足りない状況が生まれ、調達競争が激化。RSPOの主導とNGOの焚きつけにより、競合企業が不利になるような環境を生み出したユニリーバは〝持続可能な調達〟をキーワードに掲げて社会課題解決の取り組みを実施したことになりますが、社会奉仕活動に留まらず、事業の競争優位性構築につなげたことにもなります(図表5)。

ユニリーバはこのほかにも、破壊的な漁の蔓延で漁獲量が激減したタラの価格高騰により利益が低下、一企業では対処しきれず産業消滅による事業継続リスクを抱えていました。そこで『種の絶滅危機』、『海洋生態系の破壊』というキーワードでWWFを焚きつけ、サステナブルな事業/社会を脅かす共通のリスクとして、ルール形成機関を設立、『MSC認証(海のエコラベル)』という認証制度を作成します。
アメリカ小売大手のウォルマートなどに、調達するすべての水産物をMSC認証品にするよう義務化を働きかけ、MSC認証取得への推進を怠ると市場からの撤退を余儀なくされるような優位性を構築したのです。MSC認証取得は乱獲リスクの回避にもつながりました(図表6)。

ウォルマート社もまた、『サステナビリティコンソーシアム』を構築していて、単に〝環境に良い〟ではなく廃棄物ゼロ、ゼロエミッションなどへのコミットを先行して提唱するとともに、世界のサプライヤーなどを巻き込んだコンソーシアムで、調達や店舗の概念の変革を自らリードしています」。

欧米先進企業に学ぶ持続可能な事業創出への道

社会課題を事業創出につなげる場合、大まかに次のような流れとなる。
①事業案の見極め→②下地作り(ロビーイング、競争力確保)→③NGO・国際機関の巻き込み→④民意の焚き付け→⑤優位な環境作り(業界改革)→⑥社会還元(再分配)→⑦持続可能な事業へ

ここに政府機関が入っていないのは、政府機関は予算を付けることができるが、予算には期限があり持続可能な事業を創出するのには難しい点があるからだ。②・③を成功させるためには 、経済損失の見える化、資金提供、人材交流(送り込み・受け入れ)、課題意識の植え付け、場づくり(団体組成)などのキーワードが絡んでくる。

「社会課題起点の事業創出においては、NGO・国際機関の巻き込みが最も重要になります。欧米先進企業では外部アドバイザーにNGO関係者が名を連ねていることも多く、彼らを活用していくことで、前出の2事例のようにルールを作り、社会課題の解決とともに市場競争の優位性が生み出せます。日本企業では報道関係、一般消費者、取引先・顧客、株主・投資家に向けて発信する広報活動が多く見られますが、NGOに目を向けているケースはまだ多くありません。一方で欧米先進企業のは広報部門は、共に事業を行うパートナーにもなり得るNGOの巻き込みに注力しています。世界のNGOは専門分野・影響力が多岐にわたりますので、各企業には解決すべき社会課題に対して最適なNGOを選定して 〝社会イノベーション〟となるCSV事業戦略を実践していただければと思います」。


望月治成
米国系戦略コンサルティングファームでの約6年間の経験を経て、2014年にデロイトトーマツコンサルティングに参画。2015年よりDeloitte Consulting Southeast Asiaに出向。戦略ファーム経験を元に、海外事業・新規事業・M&Aなどの戦略テーマから、組織設計・営業改革・業務改善などのオペレーションテーマまでの幅広い経営テーマに精通。東南アジアにおいては、参入戦略のみならず、投資先/パートナー選定・進出形態策定・収支計画策定・業務設計などの、より事業に入り込んだコンサルティング経験を有する。

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THAIBIZ編集部

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