カテゴリー: 特集
公開日 2017.09.29
ASEANの中でも、タイとCLMV(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)を中心に〝陸のASEAN〟と呼ばれるGMS(Greater Mekong Subregion:大メコン経済圏、中国の一部を含む)は、2億3000万人が暮らす巨大な経済圏だ。特に労働賃金の高騰と少子高齢化が進むタイは、生産年齢人口の多い周辺国を巻き込み、GMS全体で経済発展を遂げていくことが必要不可欠だと言われている。
このような背景もあり、近年は陸路による国際貿易が活発化を見せている。国をまたぐ幹線道路の整備という物理的なインフラに加え、制度面のインフラでもAEC(ASEAN経済共同体)の取り組みにより、関税障壁についてはかなりの分野で撤廃済みだ。しかしながら、通関などの非関税障壁の分野では後述する課題もまだ多く残っている。
現在、GMSは経済回廊(Economic corridor)と呼ばれる主要道路によって結ばれている。〝ヒト・モノ・カネ〟が動く大動脈としての役割を担う経済回廊は、①ベトナム・ダナンからラオスとタイを通り、ミャンマー・ヤンゴンまでを結ぶ「東西経済回廊」、②中国雲南省とタイを結ぶ「南北経済回廊」、③ベトナム・ホーチミンからカンボジア・プノンペン、タイを結ぶ「南部経済回廊」―の3つで、すべての経済回廊はタイを経由する。③の南部経済回廊は、タイ・カンチャナブリーから国境を越えて、ミャンマー・ダウェーまでを繋ぐ道路の開発が進められている最中だ。ダウェーでは大規模な工業団地や深海港の開発が進められており、この道路と港が完成すれば、東南アジア東側のゲートウェイがあるベトナムから、インドや中東、アフリカ方面へのゲートウェイとなる西側のミャンマーまで、陸路で一直線に結ばれることになる(図表1)。
《南部経済回廊》
南部経済回廊には2つのルートがあり、バンコク~プノンペン・ルート(タイ・アランヤプラテート~カンボジア・ポイペト経由)は主に商用ベースで活用されている。労働賃金が高騰するタイでは、部品生産など生産工程のうち労働集約的な部分は労働コストの低いカンボジアの工場で行い、タイの工場で完成品に組み立てる生産分業を行う企業も見られる。
カンボジア工場の拠点としてはプノンペンのほか、タイとの国境にあるポイペトSEZ(経済特区)が選ばれるケースも近年増えてきている。また、このルートはカンボジアの市場を目指す企業がタイから商品や原材料を輸送する目的でも使われている。
アランヤプラテート・ポイペト国境は、カンボジア側の道路(タイ国道5号線)が片側1車線で生活道路との区別が無く、追い越し時の危険が懸念されていたが、主要道路については再舗装やバイパス整備が少しずつ進められている。
これまで輸送トラックの相互乗り入れができず、国境で積替えを行う必要があったが、2012年6月より両国の覚書により不要となった。ただし、積替え不要のライセンス数に制限があったため、16年のGMS代表者会議で相互乗り入れを拡大していく方針が決定された。これを受け、タイ側は500台(貨物、旅客含む)に越境通行許可を与えることを取り決めた。
もうひとつの南部経済回廊である、タイ・ハートレーク~カンボジア・コッコン経由のバンコク~プノンペンルートはタイ湾沿岸の道路で結ばれている。
このルートは特に、バンコク~レムチャバン港~コッコンの区間と、シハヌークビル港~プノンペンの区間(カンボジア国道4号線)が活用されている。前者はコッコンSEZに入居する、ポイペトのケースと同様にタイとカンボジアで生産分業する製造業となる。後者はシハヌークビル港を利用して輸出入を行う、プノンペンの企業がメインの利用者だ。
南部経済回廊のうち、プノンペン~ホーチミン・ルート(カンボジア・バベット~ベトナム・モックバイ国境経由)は基本的に片側1車線だが、商用として活発に利用されている。プノンペンで製造したものを日本やアメリカ向けに輸出する、あるいはベトナムからプノンペンに消費財を輸送する目的が多く見られるほか、国境地域(バベット地区)の拠点で製造したものをホーチミンから輸出入させるケースも増えているという。
《東西経済回廊》
バンコク~ハノイ間の物流では、従来レムチャバン深海港とベトナムの北部地域を結ぶ海上輸送のルートがメインだった。しかし、東西経済回廊を利用した陸上輸送が可能になったことで、リードタイムが海上輸送の約半分以下に短縮された。これまではハノイからバンコク向けの貨物が少なくバンコクからの片荷状況が続いていたが、ハノイからの二輪車や電気・電子部品輸出が増えつつある。
11年に第3メコン架橋(タイ・ナコンパトム~ラオス・カムアン)が開通したことで、直線距離で比較すると07年開通の第2メコン架橋(タイ・ムクダハン~ラオス・サバンナケット)を通るルートからさらに短縮された。タイ・ラオス・ベトナムの三国間を結ぶルートでは、ラオスのトラックを活用して同三国間の一貫輸送サービスを提供する動きもある。
バンコク~ヤンゴン・ルートにおいては、15年にミャンマー側国境のミャワディーからヤンゴンを結ぶコーカレー間にバイパスが開通した。南部経済回廊においても、バンコクからダウェーに抜けるルートの開発が計画されてはいるものの、ミャンマーでは道路舗装や拡張といったハードインフラの整備が必要なところがまだまだ多い。タイ国境間での車両の相互乗り入れ、税関の開庁時間の延長、一方通行などの制限の緩和、税関手続きの簡素化も急務となっている。
このほか、ハノイ~中国・広州間にも陸上輸送ルートがあるものの、ハイフォン港~香港港を直行で結ぶ海上輸送ルートの便数拡大やコスト低下から需要はそれほど高まっていない。陸上輸送は海上輸送よりも輸送コストがかかるのに、所要時間が変わらないことも、需要が伸びない理由として挙げられる。また中国からベトナムへ運ぶ物量に対し、ベトナムから中国への物量が極端に少ないといった片荷問題も抱えている。
GMS内で行われる陸上輸送において、隣接する二国間の協定を包括的に整備する枠組みとして、「越境交通協定」(以下、CBTA:Cross Border Transportation Agreement)が2003年に批准された。
大きくは、国境での手続きをひとつの窓口で完結させるための〝シングルウィンドウ〟および、国境を越える時に輸出国と輸入国で各々行われる検査を共同で行い、1回で完結させる仕組み〝シングルストップ〟の「通関検査に関する規定」と「貨物と旅客の国際輸送に関する規定」の2つからなり、17の付属文書と3の議定書の合計20の文書から構成されている。
ただし、CBTAには、各国の国内法との兼ね合いや通関手続きの電子化などの障壁がまだ多く残っており、完全な実現はまだ先となりそうだ。これが実現すれば、各国境での手続きにかかる時間も手間も短縮され、利便性が向上されると期待されている。
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THAIBIZ編集部
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