カテゴリー: 特集
公開日 2017.09.29
人口増加と経済成長が進むアジアの貨物量は増大傾向にある。2010年の世界のコンテナ荷動き(1億7700万TEU:Twenty-foot EquivalentUnit、20フィートコンテナ換算)のうち、約3割(約5000万TEU)は東アジア域内におけるものだったという記録がある。
SEAN域内のコンテナ流動を見ると、シンガポールとインドネシア、マレーシア間の動きが多く、海上輸送航路はシンガポールを中心に張り巡らされていた一方で、コンテナ以外の貨物を含めた実際の貨物は、インドネシア、タイ、マレーシアといった産業集積を持つ国々の間を中心に動いていた。製造業は現地およびASEAN域内での調達率を上げており、域内での部品、製品のやりとりは今後さらに増えていくことが予想される。
ASEAN域内の海上輸送を見た時、マレーシアのクラン港を基点にした場合、シンガポール、バンコクまでは比較的短時間で輸送されているが、ハノイやマニラまでは航路によっては10日以上を要することがある。インドネシアのタンジュン・プリオク港を基点とする場合も、マニラ、ハノイまでの輸送時間が比較的長く、バンコクまでもマニラ、ハノイと同等の時間がかかることがある。
多くの船会社がグローバルハブとして位置づけている、アジア最大のハブ港であるシンガポール港は、ASEAN域内の主要港向けを含め、航路数が多い(なお、タイのレムチャバン深海港は、インドネシアのタンジュン・プリオク港、ベトナムのハイフォン港との間の物量が多い)。
他方、ASEAN各国における日系物流事業者の現地法人数をみるとタイが最も多く、次いでシンガポール、インドネシア、マレーシア、ベトナム、ラオス、カンボジアの順となっている(タイ、フィリピン、マレーシア、インドネシア進出日系企業数は2001~13年度の12年間で1.8倍に増えている)。
日系海運事業者の現地法人数ではシンガポールがASEAN最大の進出国だが、タイにおいては貨物運送事業者、倉庫事業者などが大きな割合を占めている。これはタイが日本の製造業にとって、東南アジア最大の生産集積地となっているためだろう(図表2)。
2030年には、ASEAN主要6ヵ国の中間層が1.3億世帯(14年時点で0.8億世帯)まで大幅に増加することが見込まれる。これに伴い、EC(電子商取引)の普及拡大など消費形態の変化や、食生活の多様化が始まっており、今後はアジア新興国においても、宅急便サービスやコールドチェーン物流といった、高付加価値な物流の需要が高まることが予測されている。
この状況に対し、日本政府は、①アジア地域を中心とした物流網のより一層の円滑化・効率化、②日系物流業者のアジア地域への積極的な海外展開などを下支えすることで、成長するASEAN諸国とともに発展していきたい考えだ。
国土交通省が策定している2017年度~20年度の「総合物流施策大綱」では、ASEAN地域における連結性強化に向けたインフラ整備、NACCS(入出港する船舶・航空機および輸出入される貨物について、税関そのほかの関係行政機関に対する手続および関連する民間業務をオンラインで処理するシステム)の海外における活用などによる、輸出入手続きの近代化・効率化、越境通行の促進、パレットなどの標準化・リターナブル化された物流資機材の国際的な利用促進など、物流のシームレス化への積極的な取り組みを織り込んでいる。
物流に関する技術やノウハウを持つ日本にとって、ASEAN諸国の膨大な物流需要は大きなビジネスチャンスだ。日系物流業の成長と、ASEAN諸国の社会や経済の発展に貢献することを目的に、日本が培ってきた高品質なコールドチェーン物流サービスなどを国際標準化し、現地での普及を図ること。外資規制の緩和に向けた働きかけや官民ファンドの活用により、物流システムのソフト面・ハード面での展開を支援することで、物流の高付加価値化を目指す。
17年1月には、「日タイ物流政策対話及びワークショップ」がバンコクで開催され、日本とタイのコールドチェーン物流に関する取り組みについて情報交換などが行われた。保冷配送サービスについては、ヤマトホールディングスが提供する「クール宅配便」サービスの概要と、現在策定に向けて取り組んでいるPAS規格(公開仕様書)についてタイ側に説明され、タイにおけるコールドチェーン物流の重要性、および同サービスを提供する物流事業者のサービス水準の向上に向けて取り組むことが相互確認された。
また日本政府は、「日ASEANコールドチェーン物流ガイドライン」の策定を目標に、人材育成やパイロット事業を行うほか、同時にコールドチェーン物流機器の普及促進も行い、ワークショップなどを通じて冷凍・冷蔵技術や保冷機材の紹介も推進していく計画だ。17年10月にシンガポールで開催が予定されている、「日ASEAN交通大臣会合・次官級会合」で、新たな物流プロジェクトとして「日ASEANコールドチェーン物流プロジェクト」の承認を目指している。
ASEANに海外展開する日本企業のサプライチェーンのグローバル化が進む中、特にコールドチェーンに関しては、進出国によっては十分なシステムやインフラが構築されていないケースが存在している。コールドチェーン物流は食の安全性の低下、輸送段階における食料廃棄率の高さなど、健康面や経済面の問題への影響力が大きい。そこで、「日ASEANコールドチェーン物流プロジェクト」では、コールドチェーン物流を担う物流事業者(倉庫やトラックなど)の冷蔵冷凍保管、輸送技術のレベルアップを推進し、現地における質の高いコールドチェーン物流の構築を目指す。
国・地域によっては物流事業者間で過当競争が起きる恐れがあるが、差別化や競争優位の創出も期待されている(図表3)。
このほか、官民一体のビジネスモデル展開を目的にした「アジア物流パイロット事業」の推進では、ASEAN域内の物流が抱えている課題、具体的にはインドネシア~ASEAN大陸諸国間を結ぶ、海陸の輸送ネットワークのリードタイム短縮、ミャンマーの港湾と内陸主要都市間において増大する、輸送需要に対応する効率的な輸送システム構築(現在はトラックにより輸送されている)、メコン域内の国境における煩雑な通関手続きなどの解決が求められていることから、このパイロットプロジェクトでは、ASEAN域内における海陸一貫輸送の迅速化、ミャンマー内陸輸送の貨物鉄道へのモーダルシフト、メコン域内陸クロスボーダー輸送の円滑化―をソリューションとしてイメージしているという。
また物流人材育成や、グリーン物流(※)の普及・浸透を図るべく、ASEAN諸国間の協力・連携を促す政策間対話も進んでおり、ASEAN戦略的交通計画2011―2015(ブルネイ・アクションプラン)におけるグリーン物流の取り組みを促進するため、ASEAN側からの支援要請に基づき、「日ASEANグリーン物流専門家会合」も開催されている。
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THAIBIZ編集部
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