タイにおける日系企業の脱炭素化対応 〜地球環境戦略研究機構(IGES)ウェビナーより〜

タイにおける日系企業の脱炭素化対応 〜地球環境戦略研究機構(IGES)ウェビナーより〜

公開日 2024.04.08

地球環境戦略研究機関(IGES)は3月13日、在タイ日本国大使館、環境省との共催で「タイにおける脱炭素経営への第一歩~Toward Green and Sustainable for Thailand and Japan」と題するオンラインセミナーを開催した。環境省は環境インフラの海外展開に取り組む民間企業や自治体などを後押しするために2020年9月に「環境インフラ海外展開プラットフォーム(JPRSI)」を設置。今回のウェビナーもJPRSIの枠組みで、脱炭素経営をテーマにタイの気候変動対策や企業による実際の取り組み事例の紹介などを行った。ここでは、JETRO(ジェトロ)などが実施した在タイ日系企業の脱炭素化対応に関する調査結果を中心に報告する。

脱炭素化の取り組み、大企業と中小企業で大きな差

セミナーの【セッション1】のテーマは「脱炭素を取り巻く状況について」で、まず、IGESのバンコク地域センター(BRC)の市原純所長が、世界や日本の気候変動対策や脱炭素動向の概要を解説。続いてタイ天然資源・環境省の気候変動・環境局(DCCE)のディレクター、ナリーラット氏が、タイの気候変動対策に関する制度や政策、特に2065年までに温室効果ガス排出を「ネットゼロ」にする目標に向けたロードマップなどを紹介した。

続いてジェトロ・バンコク事務所のバンコク研究センター(BRC)所長の川田敦相氏が「タイにおける日系企業の脱炭素化対応」について報告。川田氏はまず、「タイ進出日系企業の脱炭素化対応がどの程度進んでいるのかに関する情報は限られている」とした上で、ジェトロやバンコク日本人商工会議所(JCC)が実施したアンケート調査から、①どのような取組状況にあるか②具体的取り組み内容は何か③取り組む動機・理由は何か④取り組み上の課題は何か-を探ったという。

まず、①の在タイ日系企業が脱炭素化に何らかの取り組みをしているかとのジェトロ調査では、「既に取り組んでいる」と回答した企業は全体で2021年の28.4%、2022年の33.7%から2023年には36.2%と増加傾向が続いている。この既に取り組んでいるとの回答の業態別では製造業全体が42.0%だが、うち大企業が67.7%なのに対し、中小企業は29.6%にとどまり、当然ながら大企業と中小企業の取り組みの差は大きい。一方、非製造業で既に取り組んでいると回答した企業は29.5%と製造業に比べ大幅に少なかった。また取り組む予定はないとの回答は全体で、2021年の43.4%から、2023年には29.0%まで低下している。

脱炭素化の理由のトップは本社からの指示

続いて、②の具体的な取り組み内容はとの質問(検討中含む、複数回答可)では、2022年度は「省エネ・省資源化」が65.5%と最も多く、前年度の62.3%から上昇。2位は「再エネ・新エネ(太陽光、風力、水素等)電力の調達」で47.6%(前年度36.3%)、3位は「環境に配慮した新製品の開発」で26.7%(同27.0%)、4位は「調達先企業への脱炭素化への要請」で26.4%(同11.7%)、5位は「エネルギー源(熱、輸送、燃料等)の電力化(建物電化、EV導入等)」で16.9%(同12.7%)―の順となっている。

また、③脱炭素化に取り組む理由(複数回答可)については2021年8~9月時点のジェトロ調査で最も多かったのが「本社(親会社)からの指示・勧奨」で52.3%だった。以下は「進出国・地域の中央・地方政府による規制や優遇措置」が31.8%、「取引先(日系)からの指示・要望」が28.8%、「取引先(非日系)からの指示・要望」が9.6%、「投資家からの要望」が6.6%、「消費者からの要望」が6.0%だった。

そして、④取り組み上の課題は何かとの質問(複数回答可)では、JCCの日系企動向調査(2022年下期)を引用し、回答が最も多かったのは「コストを価格に転嫁できない」が44.2%(前年同期39.9%)だった。以下は「取り組むための専門知識や人材、ノウハウが不足している」が41.2%(同36.7%)、「コストに見合う効果が見込めない」が35.9%(同38.6%)、「どのレベルまで対応が必要なのか分からない」が35.9%(同34.5%)、「優先順位が低い」が13.0%(同12.8%)の順だった。

最終財メーカーの取り組み進む

BRCの川田所長は、これらの主にジェトロ調査部によるアンケート調査結果を紹介するだけでなく、自身でタイ進出日系製造業者に対する対面やオンラインでの聞き取り調査も行い、その結果も報告した。調査期間と調査対象者数は2022年2月~11月が20社、2023年8月から2024年1月には8社(うち5社は再訪)にインタビューした。

2022年度の各社へのインタビュー内容は、「脱炭素化の取り組みとしてどのようなことを実施しているか」を聞いた上で、温室効果ガス(GHG)排出量の算定・報告の基準である「GHGプロトコル」で設けられている区分「スコープ1~3」に基づき、最終財・中間財メーカー別、大・中小規模別、業種別に脱炭素化対応を分析。2023年度は再訪した企業から、前回インタビュー時との比較で、どの程度対応に進展があったかをヒヤリングしたという。

2022年のヒアリング(製造業20社)では、①最終財メーカー7社はすべて「既に取り組んでいる」、かつ大半が「さらに」取り組む予定ありと回答②中間財メーカーは13社中、「既に取り組んでいる」が11社、「取り組んでいない」が2社。中小企業は「さらに取り組む予定はなし」や「今のところ取り組む予定はなし」が多かった③輸送機械・同部品メーカー8社はすべて「既に取り組んでいる」と回答④金型部品メーカーは「さらに取り組む予定はなし」、「今のところ取り組む予定はなし」だった。

CO2排出削減の取り組みは「スコープ2」から

そして、GHGプロトコルのスコープ別分析では、「スコープ2(他社から供給された電気、熱蒸気の使用に伴う間接排出)」での削減を20社中19社が取り組んでいるとし、多くの企業がスコープ2から着手していることが分かった。具体的には「工場内の証明のLED化」に17社が取り組んでいるほか、「屋根据え置き型太陽光パネル」を13社が設置していたという。

一方で、「スコープ1(自社でのCO2直接排出)」の排出削減では、20社中16社が取り組みをしておらず、最終財メーカー7社中、取り組み済みが2社、取り組み中が1社)にとどまった。具体的には「ボイラー燃料を化石燃料からバイオマス燃料(もみ殻、ウッドチップ)」に変えた食品会社があった。一方、中間財メーカーは13社中、12社が取り組みなしだった。さらに、「スコープ3(スコープ2以外の間接排出)」の削減では20社中16社が取り組みなしと回答し、静観する向きが多かったと分析している。ただ、スコープ3での取り組みでは「サプライヤーへの脱炭素化要請」と答えた輸送機械メーカーがあったという。

川田氏は最後に今回の調査結果のまとめとして、「スコープ1では一部大企業で本格的な対応、取り組み事例もあったものの、未着手が多く、スコープ3も本格的な着手事例は少数だった」と指摘。取り組み理由については「日本本社や取引先からの要請がメインだが、一方、中小中間財メーカーの多くは本社側から脱炭素化要請も無く、喫緊の課題と捉える向きが弱い」とした、また、取り組み上の課題として「コスト負担や費用対効果が望めないとの認識が多い」と強調した。

工場の省エネ、そして乾電池リサイクル

今回のセミナーの【セッション2】では、タイで活躍する企業の気候変動対策促進に向けた事例紹介が行われた。最初に海外環境協力センター(OECC)の加藤真理事が登壇し、「横浜市・バンコク都の都市間連携」と「バンコク都のエネルギーアクションプラン」について紹介した後、日本の環境省が推進する「二国間クレジット制度(JCM)」について改めて解説した。

JCMの基本概念
「JCMの基本概念」出所:OECC

民間からは、トヨタ・ダイハツ・エンジニアリング・アンド・マニュファクチャリング(TDEM)で環境担当副社長を務めた後、タイで起業し、政府環境関連プロジェクトや企業向けソリューション提供を行っているACT TO ZEROの代表取締役、石本義明氏が「工場カーボンニュートラルを目指す省エネ対策の進め方」をテーマに講演。在タイ工場の現状について、再生可能エネルギーが購入できず、再エネ証券が割高な現状を踏まえ、「まずは徹底的な省エネ、CO2削減が最優先課題だ」と訴え、対策として「間接エネルギーの無駄をなくす」「エネルギーのジャストインタイムを目指す」ための具体的な方法を詳細に説明した。

在タイ工場におけるカーボンニュートラルシナリオ
「在タイ工場におけるカーボンニュートラルシナリオ」出所:ACT TO ZERO

続いて、パナソニックグループで乾電池生産を手掛けるパナソニック・エナジー・タイランド(PECTH)のドライバッテリー部門ディレクターの佐々田雅夫氏が登壇。タイ国内の乾電池市場ではパナソニックが8割を占めると紹介した後、環境訴求商品の開発販売、2021年度にはPECTHが東南アジア地域では始めて社内認定のCO2ゼロを宣言するなどの環境活動、さらにタイでコンビニエンスストア「セブン-イレブン」を展開するCPオールとの乾電池リサイクルでの協業を報告した。乾電池リサイクルの課題については「当面は回収後の輸送コスト、流通スキームの確立」「タイ政府と連携したタイ国内で消費される乾電池すべてを対象としたシナリオを検討」などを挙げた。

THAIBIZ編集部

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