カテゴリー: ニュース
公開日 2024.08.19
タイ憲法裁判所は8月14日、今年4月の内閣改造でタクシン元首相の汚職疑惑絡みで有罪判決を受けたピチット氏を首相府相に任命した人事に関連し、セター首相を失職とする判決を言い渡した。これを受けてタイ下院は16日に最大与党・タイ貢献党のペートンタン党首を新首相に選出。憲法裁は8月7日、王室に対する不敬罪の改正を選挙公約に掲げたことは「国家転覆」に当たるとして下院最大勢力の野党・前進党の解党を命じており、タイ政治の不安定さと民主主義の未成熟さを改めて国際社会に見せつけている。英エコノミスト誌8月17日号は、セター首相の失職について、「タイのmessy(乱雑な)政治」と表現し、ごく短い記事で報じている。
セター氏の失職については経済界からもさまざまな反響が伝えられている。15日付バンコク・ポスト(ビジネス1面)によると、タイ工業連盟(FTI)のクリアンクライ会長は、この判決はタイ経済、特に投資に大きな打撃を与え、政府の政策の継続性が懸念されるとし、「真にショックだ」とコメント。新規プロジェクトの投資の決断を遅らせている一部の投資家は、タイでの事業拡大を決めず、投資計画を周辺国にシフトさせる可能性は高いとの見通しを示した。
タイ政府の経済政策の最大の焦点となっているのは、8月から登録が始まった1万バーツのデジタル通貨(E-wallet)配布の行方だ。16日付バンコク・ポスト(1面)によると、タイ貢献党の実質指導者であるタクシン元首相が連立与党のリーダーらに、デジタル通貨政策は破棄されると伝えたとの一部報道を受けて、ジュンラパン財務副大臣は15日、デジタル通貨政策に関するいかなる変更も新内閣によって承認されなければならないと明言。同政策や他の主要プロジェクトの実行は遅れるだろうとし、タイ貢献党はデジタル通貨政策を続けるかどうかを決断する必要があるとの認識を示した。
一方で、セター前首相の失職がタイ経済に与える影響については冷静な見方もある。16日付バンコク・ポスト(ビジネス1面)は、タイ貢献党のデジタル通貨給付政策に関する不透明感にもかかわらず、アナリストらは政治的空白は予想より短くて済むだろうと指摘し、経済への影響を過大視していないという。KGIセキュリティーズのラックポン上級副社長は、2025年度予算の実行遅れは限定的だろうとする一方で、「デジタル通貨配布による刺激策の不透明感は強まっている」と述べた。また、メイバンク・セキュリティーズ(タイランド)の調査担当幹部のチャック氏は、2025年度予算は既に閣議承認済みであり実行が遅れることはなく、今年下半期には実行は加速されるだろうと指摘。「このイベント(セター前首相の失職)は、セター氏が政治家としては新人であり、政府における主要な政策推進者ではなかったため、経済や株式市場に対し、長期的には大きな影響はないだろう」との見方を示した。
8月中旬になって経済ニュースとして連日伝えられているのが中国製品の安値でのタイ流入であり、タイ政府はその対策に躍起となっている。8月14日付バンコク・ポスト(4面、ビジネス4面)によると、セター首相(当時)は15日の閣議で、商務省などに対し、中国製品のタイへの大量流入対策として免許や検疫、登録、支払い、品質管理などの対策を厳格化することで、疑わしい輸入を食い止めるよう指示した。同対策は、中小企業支援が目的で、財務省、デジタル経済社会省、工業省、保健省、タイ警察など他の政府機関と連携して8月までに実行されるという。
タイ政府は7月に従来は付加価値税(VAT)が免除されていた1500バーツ以下の製品を含め全輸入製品に7%のVATを課す措置を導入した。チャイ報道官は、「タイの民間部門から、違法でグレーな事業に関する不満が高まっている。これらの事業は電子商取引(EC)を通じて中小企業に影響を与えている。ECの取引額は最大1兆5300億バーツに達し、輸入製品の大量流入が続いている」と説明した。中国からの安価な製品の大量流入については、中国の電子商取引(EC)のPDDホールディングスが海外で展開する「Temu(テム)」がタイ市場にも参入したことで警戒感が一段と高まっている。
8月15日付バンコク・ポスト(3面)によると、中国の安値製品のタイへの大量流入は、ラオスと中国を結ぶ中速鉄道経由もあるという。同紙の記者らが14日にナコンラチャシマの市場の果物や野菜売り場を訪問したところ、多くの種類の中国産の農産物が安売りされているのが見つかった。これらの中国製品はラオス経由でタイの東北部にたった1日で輸送されているという。売られているのはリンゴ、ブドウ、ナシ、オレンジ、ブロッコリー、キャベツ、キノコ類などで、これらは地元商品より良く見え、大幅に安価だという。
THAIBIZ編集部
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