動き出したタイのEV奨励策EV3.5

THAIBIZ No.148 2024年4月発行

THAIBIZ No.148 2024年4月発行タイで成功する日系企業デンソーのWin-Winな協創戦略

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動き出したタイのEV奨励策EV3.5

公開日 2024.04.10

セター内閣は、2023年12月23日、国家電気自動車政策委員会(NEVPC : National Electric Vehicle Policy Committee)が決定したEVの包括的な奨励策EV3.5を承認した。EV3.0の補助金を受けられる車の登録が今年1月末に締め切られ、2月以降にEV3.5が実施された。本稿では、EV3.5の背景、制度の内容及び国産化条件などの注目点を説明する。

NEVPCの議長・組織変更が意味するもの

NEVPCは11の省庁、民間の業界団体、専門家で構成されており、官民の協力の下で、省庁横断的にEVの包括的な奨励政策を協議・決定・実施することを目的とする。NEVPCで特筆されるのは、包括的な奨励策を決めるNEVPCの議長、メンバーが、セター内閣で大きく変わった点だ。前回からのスパタナポーン副大臣兼エネルギー大臣からセター首相に議長が替わり、首相が自動車政策で先頭指揮を執ることを意味する。また、前回までは事務局(Secretary)が工業省とエネルギー省の次官であったが、今回からBOIの事務局長に替わった。事務能力の高い首相直属のBOIを使うことで、よりスピーディーに政策を決断・実施する、投資誘致活動を更に強めるという首相側の意思が読み取れる。

EV3.5とEV3.0の主な違い

EV3.5が新たに導入されたのは、財政的な制約の要因と、新規参入メーカーの要因の二つが挙げられる。一つ目は、2023年以降に、EV補助金への申請が9万台近くまで殺到し、現状のままでのEV補助金の継続が難しくなったこと。もう一つは、2023年末までの販売には間に合わず、2024年以降にEV投入を希望する新興中国メーカーや、韓国メーカーなどが陳情したとみられる。タイ政府としては、2030年までにEVの生産比率30%の達成を目指しており、より多くのEVメーカーの進出と現地生産を促したい。

EV3.0と3.5では、補助金の供与、物品税の12%から2%への削減、関税の最大40%の引き下げなど、奨励策の大枠は同じだが、EV3.0で先行投資した企業に配慮し、補助金支給の条件をより厳しくする。補助金の支給はEV3.0の15万バーツ(バッテリー出力35kwh以上の場合)から2024年は10万バーツ(50kwh以上の場合)、2025年には7万5,000バーツ、2026〜2027年には5万バーツまで引き下げられる計画である。生産条件としては、EV3.0では2022年〜2023年に輸入した場合、2024年にはその台数に対して1:1の割合で生産が義務付けられるが(2025年に生産する場合には1:1.5)、EV3.5 では2024〜2025年に輸入した場合に、2026年までに1:2の割合で生産が義務付けられる(2027年に生産する場合には1:3)。このような現地生産条件を満たすために、各社はEVの生産に投資しており、工業省の統計によると、2024年の生産能力は7社により48万6,000台に到達する見通しだ。

国産化条件

EV3.0及び3.5で注目されるのは、国産化要件である。2026年1月までに、バッテリーのセル、モジュール、パッキングのいずれかで生産開始が義務付けられている。バッテリーのセルを生産する場合には、その他部品の国産化義務はないが、モジュール、パッキングの場合は、2030年1月までに、PCUインバーター、2035年1月までに5品(図表1)のうち1〜2品目の国産化が義務づけられる。これは、電気自動車の場合、バッテリーが簡単なパッキングなどの組立のみであれば、高い付加価値を生まず、バッテリー以外の部品の国産化を図らなければサプライチェーンは拡がらないためである。

その一方で、タイは、インドネシアのように国産化率の目標は設けていない。インドネシアでは、EV販売のインセンティブを受けるためには、2030年までに80%の国産化が求められる。これはインドネシアではバッテリーのセルからの生産を重視しているからである。その一方で、タイでは保税特区(フリーゾーン:FZ)に進出し、タイ国内で販売する場合には、40%の国産化率の達成が必須となる。中国メーカーなど新規参入メーカーの多くが、中国本土から部材を無税で持ち込めるFZ制度を利用する見込みだ。FZの管轄は関税局であり、EV3.0、3.5とは別のスキームの下で運営されている。

これらの政策以外に、EV3.5では新たにバッテリーのセルの生産に対する優遇措置や、EVトラック・バスに対する補助金が発表されているが、紙面の制約から別稿で解説したい。

補助金の削減により、 今後激化する国内での EVメーカーの競争

EV3.5では、図表2のように、日系ではいすゞ1社のみ、中国系では4社が物品税局とMOUを締結している。EV3.0で補助金の支給を受けたメーカーでも、EV3.5の補助金も申請できることから、5社のうち4社が両方で締結している。EV3.5の補助金申請は2025年末まで受け付けることから、今後もまだ多くのメーカーが参入することが見込まれる。しかし、補助金は2024年の10万バーツから、2025年には7万5,000バーツ、2026年〜2027年には5万バーツまで引き下げられる。補助金の引き下げで、EV需要は欧州や米国のように一時的に減速する可能性があるなかで、EVメーカー間の競争が今後更に激化することが予想される。

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NRI Consulting & Solutions (Thailand)Co., Ltd.
Principal

山本 肇 氏

シンクタンクの研究員として従事した後、2004年からチュラロンコン大学サシン経営大学院(MBA)に留学。CSM Automotiveバンコクオフィスのダイレクターを経て、2013年から現職。

野村総合研究所タイ

ASEANに関する市場調査・戦略立案に始まり、実行支援までを一気通貫でサポート(製造業だけでなく、エネルギー・不動産・ヘルスケア・消費財等の幅広い産業に対応)

《業務内容》
経営・事業戦略コンサルティング、市場・規制調査、情報システム(IT)コンサルティング、産業向けITシステム(ソフトウェアパッケージ)の販売・運用、金融・証券ソリューション

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