ASEAN自動車産業の変革

THAIBIZ No.148 2024年4月発行

THAIBIZ No.148 2024年4月発行タイで成功する日系企業デンソーのWin-Winな協創戦略

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ASEAN自動車産業の変革

公開日 2024.04.10

当社ローランド・ベルガーには、米中関係が悪化した2018年頃から中国系自動車OEMの仕事が増えた。ここ2~3年、中国系OEMのタイ進出が話題となったが、水面下では我々が支援してきたケースも多い。そこから得た知見も、コンフィデンシャリティに抵触しない範囲で情報共有していきたい。

THAIBIZ創刊に向けて

THAIBIZ創刊号ということで、「ASEAN自動車産業の変革」という直球テーマで寄稿したい。我々は戦略コンサルティングファームとしては唯一欧州(ドイツ)を出自としていることもあり、自動車関連での売上がグローバルの中で最も大きい。旧ArayZでは、意図的に消費財や小売等の非自動車トピックを寄稿してきたが、その背景は「自動車以外もやれる」ということをマーケティングしたかったからである。だが、THAIBIZの第一号では、改めて我々の最大の強みである自動車をテーマに書こうと思った次第だ。

ASEAN自動車産業の変革

本号では我々の視点としてASEAN自動車産業の変革テーマを4つ提示する。誌面の都合上、今回はそれぞれをイントロダクションに留め、今後、随時その詳細について触れていく。


■SDV(Software Defined Vehicle)

タイ含めたASEANの自動車産業では目下、EV化が話題である。だが、我々はSDVがEVに匹敵する変革をもたらすコンセプトだと考える。最大のインパクトは自動車製造・販売の収益構造が大きく変わることだ。我々の試算では、SDVを軸とした自動車ビジネスでは、従来型自動車ビジネスと比べ原価率が10%ポイント、広告宣伝費率が3%ポイント下がると見ている。合わせて13%ポイントの利益率差がもたらす意味は非常に大きい。これだけの差がつけば、価格戦略含めた戦い方の柔軟性は大幅に高まる。SDVはTeslaがリードするコンセプトであるが、BYD等の中国OEMも追随しているため(図表1)、近いうちに中国からASEANにも持ち込まれる可能性は十分にある。

■サーキュラーエコノミー

欧州では2021年に自動車サプライチェーン全体でのサーキュラーエコノミー促進策としてCatena-Xが発足した。サプライチェーンのあらゆる側面でのデータや工程を統一化しようというイニシアチブだ。これによって、例えば車両や部品のリバースロジスティクス精度が高まる。また、各部品の必要供給量が下位サプライヤーに至るまでより正確に見える化され、需給バランスが適正化される。同様の取り組みをASEANでも発足させようという議論は最近よく聞く。この検討が進んでいけば、ASEAN自動車産業におけるサプライチェーンにも相応のインパクトを与えるだろう。

■中古車オンラインプラットフォーム

新車販売に依存し過ぎず、バリューチェーン全体での収益化を目指すべき─いわゆる「自動車バリューチェーンビジネス」というコンセプトであるが、既に聞き飽きた感も強い。その一方でASEANでは自動車バリューチェーンビジネスは確立しているとは言えない。中古車領域はバリューチェーンを一巡させるための重要なパーツであるが、ASEANでは青空市場売買がまだ大半を占めており、リセールバリューの安定性が課題としてあった。しかし、今では中古車オンラインプラットフォームが進み始めたことで、リセールバリューの安定性も担保されつつある。中古車領域の確立は自動車バリューチェーンの「出口」が確保されることだ。ASEAN自動車産業にとってその意義は大きい。

■オートファイナンス

上記の中古車プラットフォーム成熟で、販売金融における与信の考え方も変わってくる。よりアグレッシブなファイナンスであったり、新車だけでなく中古車に対する販金のハードルも下がる。また、タイトルローンといった、車両を担保とした融資もしやすくなり、コンシューマーファイナンスの幅も拡がる。自動車を含めた金融アクセスがASEAN消費者の中でもより高まることは、当然ながら購買力・購買意欲の向上に繋がる。ASEANの自動車購買はひとつ上のステージに移行すると言っていいだろう。

日系企業に対する想い

冒頭でもお伝えしたとおり、我々は中国勢への支援も多く行ってきた。その中で彼らのASEAN進出に対する本気度を目の当たりにしてきた。そして、そんな彼らを既に受け入れるメンタリティがASEAN消費者にあることも痛感してきた(図表2)。

私個人としては一人の日本人としてその状況に対して強い危機感と複雑な想いを抱いている。日系企業が創ってきたASEANの自動車産業を壊されたくはない。しかし、ASEANの国々が更に飛躍していくためには、自動車産業の変革は必須だ。

この葛藤を解消する唯一解は、日系企業が自らが創ったASEAN産業を破壊し、そして自らで新たなエコシステムを創り出すことだろう。私はそのための支援を厭わないつもりだ。

THAIBIZ No.148 2024年4月発行

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Roland Berger Co., Ltd.
Principal Head of Asia Japan Desk

下村 健一 氏

一橋大学卒業後、米国系コンサルティングファーム等を経て、現職。プリンシパル兼アジアジャパンデスク統括責任者として、アジア全域で消費財、小売・流通、自動車、商社、PEファンド等を中心にグローバル戦略、ポートフォリオ戦略、M&A、デジタライゼーション、事業再生等、幅広いテーマでのクライアント支援に従事している。
kenichi.shimomura@rolandberger.com

Roland Berger Co., Ltd.

ローランド・ベルガーは戦略コンサルティング・ファームの中で唯一の欧州出自。
□ 自動車、消費財、小売等の業界に強み
□ 日系企業支援を専門とする「ジャパンデスク」も有
□ アジア全域での戦略策定・実行支援をサポート

17th Floor, Sathorn Square Office Tower, 98 North Sathorn Road, Silom,
Bangrak, 10500 | Bangkok | Thailand

Website : www.rolandberger.com

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