THAIBIZ No.154 2024年10月発行なぜタイ人は日系企業を選ぶのか
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公開日 2024.10.10 Sponsered
「日本企業はタイ人からそっぽを向かれている」という現状理解はすべて正しいわけではない。「人材を育てながら、ビジネスで勝つ」という日本企業の強みに今一度立ち返りたい。
「タイ人に選ばれる」ことに取り組んで結果を出している企業の取り組みポイントを整理すると、「①理念を強みに据えた経営(Philosophy)」「②長期目線に立った能動的採用(Recruiting)」「③ 熱心さと継続性のある教育(Development)」「④明確な基準に基づいた評価制度の設計と運用(Evaluation)」、そしてすべての起点となる「⑤ リーダーの決断と行動(Initiative)」の5点に集約される。それぞれの実行のポイントを端的に説明しよう。
理念の共有が会社の軸となる。長年培ってきた歴史や文化は、目に見えない競争優位である。たとえ新規参入会社が同じようなコピー商品を作れたとしても、歴史や理念までは模倣できない。優秀な従業員は決して報酬だけでは会社を選ばず、特にZ世代と呼ばれる若い世代ほど、社会や顧客、従業員に対する姿勢をよく見ている。そうした企業姿勢が本質的なエンゲージメント(帰属意識)に影響するのだ。
まずは、会社の歴史や今後のビジョン、そしてスタッフに順守してほしい行動指針をしっかりと整理しよう。それをタイ語で、双方向に、粘り強く伝える。そうすることで組織へのロイヤリティが高まり、主体的に動く組織が作られていく。
採用は日系企業の弱点であり、最も意識を強めねばならない領域である。今、日系企業には人材が集まりにくくなっている。SNSなどの活用も積極的に行い、自社の魅力を広めていかない限り、いくら面接を頑張っても良い人に出会うことができない。採用も営業と同じで、どんどん市場に出ていかないと人材獲得競争に負けてしまうと心得るべきである。
採用をタイ人HRに任せっきりにしてはいけない。よく「A級人材はA級人材を採用するが、B級人材はC級人材を採用する」と言う。自分が知らないうちに、優秀人材を選考から落としてしまっている可能性があるのだ。採用は経営トップ自ら優先順位高く関与していくべき領域である。たった一人の優秀人材の採用が会社を変えることもあるのだ。
教育は日系企業の得意技ではあるが、海外拠点においては手薄になりがちである。毎年、組織の課題を議論し、テーマをタイ人HRとともに考える。外部セミナーに参加させておしまいではなく、必ず業務で実践してもらい、社内発表などでアウトプットを確認する。タイ人と日本人が一緒に成長する意識を持つことも重要であり、日本人が育つ姿勢を見せずしてタイ人は成長しない。
また、教育成果の7割はOJTから来ると言われる。つまり「仕事が人を育てる」のである。タイ人社員に毎年、同じ業務をやらせてしまっていることはないだろうか。仮に定型的なミッションであっても、毎年新しいテーマを与えて違った角度から業務に取り組んでもらう。そうした「仕事の与え方」の工夫で、モチベーションや成長スピードは大きく変わるはずである。
評価制度の変革は、社員の感情に影響しやすく、またすぐに効果が出づらいため、腰を据えて取り組む必要がある。まずは年功要素を廃した等級制度を用意し、若手人材に向けてキャリアアップの可能性を示すことが必要だ。評価は年にできれば2回、成果面と行動面を加味して行い、評価結果をできる限り透明性高く昇給に反映させる。
なお、こうした制度は既に導入はされているが運用が上手くいっていないという企業が非常に多い。タイ人は人間関係に波風を立てることを苦手とする人が多いため、評価に中心化傾向が起こったり、フィードバックを怠りがちである。こうした運用の不備を放置せず、粘り強くリマインドし、是正を図っていく必要がある。ここには残念ながら魔法は無く時間がかかるが、3年程度も経つと徐々に定着する傾向にある。
最後に、リーダーの決断と行動(Initiative)が重要である。上記に書いたようなことは、「頭ではわかっている」「時間があればやれるのに」ということばかりだろう。通常業務に加えて実行するにはそれなりの時間とエネルギーを要する。また、予算確保や企画承認のために、従業員や本社との間で起こる様々な軋轢も乗り越えなければならない。そんな大変なことにわざわざ取り組まずに数年間を過ごした方が、私たちの人生は幸せかもしれない。
しかし、厳しい言い方をすれば歴代リーダーたちが先送りをしてきた結果が、今の状況なのかもしれない。もし、現在と未来のタイ法人の社員を幸せにしたいのなら、一人一人のリーダーが強い意志を持ち、勇気を持って改革に取り組む覚悟を持たなければならないと私は思う。
上記5つの項目の頭文字をとると、「PRIDE(誇り)」となる。これを日系企業復活のための「PRIDEモデル」と呼びたい。今は、海外の人々から「日本は大好きだが、日本企業には勤めたくはない」と思われている状況である。しかし、日系企業には新興企業より秀でた資産がまだ沢山ある。そうした強みに目を向け、変えるべきを変えていけば「選ばれる企業」になることは可能である。なお、「海外拠点変革アクション・チェックシート」では会社の現在地を知ることができるので、是非活用してみてもらいたい。
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「辺境から変革は起こる」と言うように、海外拠点だからこそ変えやすいことも少なくない。本社を変える方がよほど大変である。「世界で存在感を失う日本企業」というストーリーをここタイで終焉させ、再び存在感を放っていけるような取り組みを少しでもスタートしたい。
本記事は「日系企業」を主語として議論を展開してきたが、本来的には主語は「日系企業全体」ではなく「自分の企業」である。タイは米中に続く世界3位の日系企業数を誇り、その数は5,000社以上とも言われるが、その数は今後減ることはあっても増えることはないだろう。かなりの数の企業が淘汰されていく。あなたの企業がタイ人から選ばれなければ、10年後も存続しているとは限らない。
「タイ人は人につく」とよく言われる。ゆえに常に考えるべきは、自分は「あなたと働きたい」とタイ人から思われるリーダーか、を自問することだ。「世界を平和にしたいのなら、まず自分の家族を愛しなさい」と言ったマザーテレサではないが、自分のチームメンバーに全力に向き合わずして、組織や社会を変えることはできない。
私自身も、優秀なタイ人メンバーに失望されないよう、毎日必死で向き合っている。マネジメントとは、つまるところ「自分と部下の成長競争」である。日本人上司が努力し成長しているのなら、優秀なタイ人部下はその人の元を離れようとはしないだろう。私たち一人一人が魅力あるリーダーとして輝いていけば、その先に明るい未来はある。そう信じて、皆さんと一緒にタイと日本のより良い未来を作っていきたい。
中村 勝裕 氏 著書
THAIBIZ No.154 2024年10月発行なぜタイ人は日系企業を選ぶのか
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株式会社アジアン・アイデンティティー 代表取締役
中村 勝裕 氏(愛称:ジャック)
愛知県常滑市生まれ。上智大学外国語学部ドイツ語学科卒業後、ネスレ日本株式会社、株式会社リンクアンドモチベーション、株式会社グロービス、GLOBIS ASIA PACIFICを経て、タイにてAsian Identity Co., Ltd.を設立。「アジア専門の人事コンサルティングファーム」としてタイ人メンバーと共に人材開発・組織開発プロジェクトに従事している。
リーダー向けの執筆活動にも従事し、近著に『リーダーの悩みはすべて東洋思想で解決できる』がある。Youtubeチャンネル「ジャック&れいのリーダー道場」も運営。
人事に関するお悩み・ご質問をお寄せください。
「タイ人事お悩み相談室」コラムで取り上げます!→ [email protected]
Asian Identity Co., Ltd.
2014年に創業し、東南アジアに特化した人事コンサルティングファームとして同地域で事業を展開中。アジアの多様な人々を調和させ強い組織を作るというビジョンの実現に向けて、"Asia is One”をスローガンに掲げ、コンサルタントチームの多様性や多言語対応を強みに、東南アジアに展開する日本企業を中心に多くの顧客企業の変革をサポートしている。
◇Asian Identityサービスサイト
http://asian-identity.com
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