カテゴリー: 対談・インタビュー, 特集, 食品・小売・サービス
連載: 在タイ日系企業経営者インタビュー
公開日 2024.04.22
フリースやヒートテック、ウルトラライトダウンなど次々と大ヒット商品を生み出すユニクロ。その人気は日本国内に留まらず、世界中でファンを増やし続けており、今や海外の店舗数、売上ともに日本国内を上回っている。ユニクロ・タイランドの若桑芳長CEOに、海外でも躍進を続けるユニクロ流の事業戦略や、これまでのタイでの取り組みなどについて話を聞いた。
<聞き手=mediator ガンタトーン>
若桑CEO:2002年に新入社員としてユニクロに入社、店舗の代行者(店長の業務の代行ができる社員)としてキャリアをスタートしました。店長とエリアマネジャーを経験した後、2009年にフランスの旗艦店・パリ オペラ店の新規オープン時に日本からの応援が必要となり、5名のエリアマネジャーが選ばれ、その一人として初めて海外に派遣されました。その時の経験からユニクロの海外での大きな可能性を感じ、その後2010年から1年半、米国で働くことで多くの貴重な経験を得ることができました。帰国後は日本で再び店長や営業部長を務め、その後ロシアにCOOとして駐在し、そして、タイには2020年に着任しています。
若桑CEO:ユニクロでは、店舗がお客様との最も重要な接点であり、良い店舗をつくり続けることがブランド価値を高め、ひいては事業を拡大する上で極めて重要だと考えています。そのため、店長として成果を上げた人、つまり良い店舗を運営できる人が各国の経営責任者としてチャレンジするという社風が根底にあります。実際にほとんどの国の経営者は、店舗での経験が豊富な人員で構成されています。
若桑CEO:日本でグローバル旗艦店の店長を務めていた時、社長の柳井が店舗を度々訪れていました。その時に柳井と会話をする機会が多く、経営トップが実際に店舗やお客様を見て現場を基軸に一つ一つの判断をスピーディに実施する姿を目の当たりにし、お客様を中心に全てのビジネスを組み立てることの意味を直接学びました。その経験が今も経営判断に生かされていると感じています。
若桑CEO:コロナ禍は苦戦しましたが、逆にユニクロのビジネスモデルのおかげでお客様に貢献できたストーリーもありました。タイのお客様は、主にショッピングモールでの買い物が中心です。ユニクロは、日本でロードサイド店舗を数多く展開しており、タイでも同様の店舗を9店まで増やしていましたが、コロナ禍で一時的に、ショッピングモール・ロードサイドを合わせ、タイ国内の全店舗が閉店を余儀なくされました。しかし、独立型のロードサイドの店舗は、ユニクロが独自に防疫対策を講じれば、お客様の安全を確保できるため、再開の可能性が提案されました。このアイデアはタイ人の店長から出され、社内関係部署にも確認し、実際に一部の店舗を再開することができました。ショッピングモールなどほぼ全てのお店が閉鎖されていた中で、ユニクロで服を買う楽しみを提供できたことに、お客様からも感謝の言葉をいただきました。これは、ユニクロのビジネスモデルであるロードサイド店と、現地メンバーの活躍があったからこそ実現したと感じています。
若桑CEO:海外と日本での評価ポイントは多少異なりますが、すべての人々に良質な服を届けるというユニクロの「LifeWear(究極の普段着)」コンセプトは、世界中で浸透してきています。例えば、50色展開の「無地カラーソックス」は、すべてのマーケットで支持されているアイテムですが、日本ではモノトーンの白や黒が人気である一方、パリでは赤や黄色などの明るい色が好まれており、「高品質な商品が手頃な価格で、しかも豊富な色展開で選べる」という点が支持されていることがわかります。
ユニクロは、服に個性があるのではなく、あくまで人々の個性を引き立てるための部品としてのモノづくりをしています。このようなアプローチが、世界各国の人々からユニクロの価値を高く評価されていると信じています。
若桑CEO:ユニクロは、いかに社会と共存・共栄していくかを常に考え実行しています。タイでも地域社会への貢献を重視し、さまざまな取り組みを行っています。例えば、タイ北部の山岳地帯では、毎年寒さで100名近くの人々が亡くなっています。昨年は、従業員やお客様と協力して合計約5万着の服を集め、慈善団体と連携して寄付を行いました。こうした活動を含め、地域社会に貢献していくことが大事だと考えています。
また昨年は、ユニクロ セントラルワールド店のリニューアルオープンに合わせて、タイ初の「RE.UNIQLO STUDIO(RE.ユニクロスタジオ)」を開設しました。RE.UNIQLO STUDIOは、世界10カ国以上で展開しており、リサイクルやリペア、リメイクなどを通じて、お客様に服への愛着を深めてもらい、サステナビリティの重要性を理解しながら、ファッションを楽しんでもらうことを目指しています。セントラルワールド店のRE.UNIQLO STUDIOの利用件数は、世界でも上位となっています。タイのお客様は、サステナビリティに高い関心をお持ちですので、この活動を通じて我々の企業姿勢をしっかりと伝えていきたいと考えています。
若桑CEO:ユニクロはグローバルなアセットを活用しながらも、現地のニーズに合わせた店舗作りやマーケティング戦略を推進しています。タイのお客様にも身近に感じてもらえるよう、現地のインフルエンサーであるローカルアンバサダーを通じて、プロモーション活動を行っています。その際もユニクロと同じマインドや志を持ったパートナー選びを心がけています。
また、COO、CFOを含む経営陣は日本人ですが、その他の経営チームにはタイ人も多く、彼ら・彼女らが意思決定を行なっています。マーケティング部門のトップも、タイのニーズとユニクロのLifeWearの価値を理解するタイ人が担っています。店舗づくりにおいては、「個店経営」を重視し、地域のお客様との関係を大切にしています。店舗運営の責任者である店長はほぼ100%現地メンバーが担い、より地域に密着した店舗作りを目指しています。
若桑CEO:グローバルに事業を展開しているユニクロは、人材育成面でタイ社会に貢献できると考えています。多くのタイ人社員が海外でのキャリアに興味を持っており、これまで英国やフランス、香港、日本、マレーシアなど多くの国でチャレンジするため海外転勤しています。今年はさらにカナダにも派遣される予定です。当社では、世界でのチャレンジを通じて成長し、グローバルでリーダーシップを発揮する人材を育成するとともに、将来タイに戻ってきて、タイをリードする人材に育ってもらいたいと考えています。そのためにこのような戦略的な人材育成を行なっています。
若桑CEO:タイでは2011年の初出店から、お客様のご支援と従業員の努力により、68店舗まで拡大することができました。今の状況に甘んじることなく、今後も意欲的に事業を広げていきたいと考えています。また、従業員がユニクロを通じて世界で活躍するビジネスリーダーに成長できるよう、育成にも力を入れると同時に、お客様にもさらなる価値と、共感いただけるようなサービスをご提供していきたいと考えています。
THAIBIZ編集部
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