
カテゴリー: ビジネス・経済
公開日 2018.06.26
小学校教師とプロの格闘家、2人の話ではない。一人の人生の軌跡だ。松本氏は親族そろって教師という家庭に育ち、自身も小学校教師の道を選んだ。子供の可能性を引き出す教育、人が成長する喜びを感じながらもふと思った。私は自分の可能性に目を向けただろうか、本当はやりたいことがあるのでは――。
そう思うと居ても立っても居られない。そんな時、アブダビの王子が主催する格闘大会に日本人が出場すると知り、生で見たくてたまらなくなった。もともと体を動かすのが大好きな性分。ピンとくるものがあった。アブダビ大会では3分で負ける人もいた。「この数分に掛けるなんて、すごい」。しかも選手は松本氏より年下の人ばかりだった。「帰ったら同じリングに立ちたい」と心の底からの衝動にかられた。
「今まで変わりたいと思っていてもできない理由を探して逃げていました。もう自分が自分を裏切ることはしたくないと思ったんです」。とはいえ突拍子のないことでもあり、まずは30日間連続してランニングを続けられたらジムに入ろうと決めた。それから1年後、プロの格闘家としてデビューしていた。
リングで対峙する相手を前に、殴られる恐怖などはないと言う。「そんなことよりも、自分がちゃんとできるか、逃げ出してしまうのではないかという恐怖がありました。それを克服するのは練習のみで、自分が自分にO.K.を出すまで練習しました」。
最後の試合は、下馬評では絶対勝てないと言われていた相手だった。ところが見事に勝利。「練習でもベストの気持ちで練習できていました。自分が自分を認められた瞬間です」。自分にも勝利したことで満足した。
ムエタイの練習でタイには馴染みがあった。日本の冬は古傷が痛むこともありタイでの生活を模索していた。その時に巡り合った仕事が工場のマネジメントだった。簡単なタイ語しか分からない自分を採用してくれたことに疑問を感じた松本氏は思い切って採用の理由を聞いた。すると3Kに耐えられそうとの答えが返ってきた。
現場の仕組みを学び、現場のタイ人を指導する。「彼らはプラスとマイナスの概念もありませんでした。数が増える、減るから教えるので小学校の子供を相手にしているようでした。でもとても素直で、腑に落ちれば改善しますが習慣になるまでは時間がかかります。ここからはしつこく言い続けなければならないので、こちらも忍耐が必要です」。苦労もありそうだが、「出来なかったことが、出来る喜びを共にできるので楽しいですね。
それに彼らの『やらない、できない』理由を聞いてみると私たちでは気づかなかった真実がみえてきて勉強になります。現場を改善するために日本人とやり取りするほうが大変ですよ(笑)」と笑えるけど笑えない話にも目を背けない。
リングの外からヤジを送るのではなく、現場に入り込んで一緒に改善するというシンプルながも人間力が試される仕事。リングを工場に移し、教育者と格闘家の顔をのぞかせる。

THAIBIZ編集部


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