CP(Charoen Pokphand)グループ

ArayZ No.121 2022年1月発行

ArayZ No.121 2022年1月発行危機における経営 ~未来への進路を描くために、人間性を取り戻す~

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CP(Charoen Pokphand)グループ

公開日 2022.01.07

タイをはじめとするアジア各国で絶大な影響力を持つ財閥系コングロマリット。足元のコロナ禍、東南アジアを代表する企業の勢力図や経営方針はどのように変化しているのか、RCEPを見据えた域内での競争力向上をどのように実現させようとしているのかなど、本連載では解説していく。

今回はタイ最大財閥のCPグループを取り上げる。

Charoen Pokphandグループ企業概要

cpグループ

業種:食料品、通信、小売 等
設立:1921年
グループ会社:200社以上(世界21ヵ国)
従業員数:延べ36万人
総売上:630億米ドル(2020年)

基本情報

コンビニエンスストアのセブンイレブンやスーパーマーケットのロータス、食料品卸売のマクロなど、タイに住む人なら誰もが知っているであろう店舗を展開するタイ最大の民間企業CPグループは、1919年に中国からやってきたChia Ek ChorとChia Seow Hui兄弟が、21年に開業した小さな種の輸入店舗Chia Tai社から始まった。

今は農業・食品だけでなく小売、メディア・通信、IT、不動産、自動車、製薬まで、様々な分野でその存在感を発揮する巨大多国籍コングロマリットへと発展した。現在の中核事業は大きく分けて食品、小売、デジタルの3つ。原点である農業・食品分野においては動物飼料事業で世界1位、畜産事業で世界第4位、養鶏事業では世界6位など世界有数の企業に成長している。

主要分野で寡占化が進展、タニン氏の手腕で拡大

CPグループは新型コロナウイルスが顕在化し、各社が投資について様子見の傾向を強める中でもスピードを緩めることなく、各分野で積極的な投資を敢行。2020年の大手小売Tesco社のタイ・マレーシア事業の買収(推定106億米ドル)、21年は通信分野における業界3位のdtac社との合併(推定約75億米ドル)など大型アライアンスを次々と実現させている。

CPグループ発のユニコーン企業※1も21年に誕生した。「TrueMoney」のサービス展開を手掛ける電子決済サービスのアセンドマネー社である。CEOのスパチャイ氏肝いりの事業で、すでにASEAN域内6ヵ国に展開。同グループにとってもアジアの金融プラットフォームにおける成長ドライバーとして位置付けられている。

※1 ユニコーン企業:企業評価額が10億ドル以上で設立10年以内の非上場のベンチャー企業を指す

CPグループがタイのみならずアジアを代表するコングロマリットへと成長した背景には、中興の祖であるタニン氏(現グループ上級会長)の優れたビジネス手腕がある。

1970年に2代目として25歳という若さで次期トップに抜擢されて以降、同グループは国際化および事業の多角化に成功する。タニン氏はForbesの世界富豪ランキングで103位(2021年)につけるタイ一の富豪である。

 

垂直統合で事業拡大、アジアの厨房へ

CPグループ拡大のポイントは垂直統合、中国事業、実力主義である。

まず1点目の垂直統合については、農業から始まり食肉処理、食品加工、小売、レストランチェーンなど、川中・川下に事業を有機的に繋げ、市場における存在感を高めてきた。

今日ではタニン氏自ら自社ポートフォリオを「世界の厨房」と例えるほどの多様性を誇るが、垂直統合の過程でマイルストーンとなったのは、1988年にアメリカのセブンイレブン社からライセンスを受け展開したコンビニ事業である。

自社製品を販売する販路を手に入れた点はもとより、グループ内に開発、調達、物流、マーケティング等の組織を置いて最大限活用しながら、本事業の食品加工事業のノウハウを生かしてタイ人の好みに合わせた食品を開発し、本業との相乗効果も高まった。

特定地域に集中して展開するドミナント戦略により年500~800店舗の勢いで拡大を続け、現在1万2000店舗とセブンイレブンブランドでは日本に次ぐ世界で2番目の数を誇る。日系消費財メーカーからも〝CPなしではビジネスがままならない〟と言わしめるほど、小売市場で圧倒的な存在感を有する。

開放直後に中国進出、柱に成長

2点目については、中国が1978年に改革開放政策に舵を切ってすぐに着手した中国事業が挙げられる。79年に外資企業として初めて中国に進出し、中国で外資企業に付与される営業許可証の番号は「00001」。

タニン氏自身、初代総帥エークチョー・チエンワノン氏の生まれ故郷である中国市場への投資には思い入れがあり、習近平国家首席とコンタクトができる数少ないアジアのビジネスパーソンと言われる。既にCPグループにおける中国事業は全体売上の36%と大きなウエイトを占める。

近年は中国中信集団公司(CITIC)、伊藤忠グループとの提携が話題となった。2014年に業務・資本提携を組んだCPグループと伊藤忠商事は、15年に中国最大のコングロマリットであるCITICへの約20%の出資を公表した。

両グループが折半出資した投資規模は約100億米ドルであり、日本企業による最大級の中国国営企業への投資として注目された。 CITICへの出資については様々な説があるが、当時の共産党政権が促進する国有企業の国際化の観点からCPグループに声が掛かったものの、当時は単独での大型資本参加は荷が重く、日泰の大型提携に繋がったという構図が想定される。

後継は三男、実力主義を徹底

CPグループファミリー構図

3点目の同グループで貫かれる実力主義の徹底については、17年に公表された3代目への後継が例として挙げられる。

それまでケーブルTV関連会社と中国事業を中心にキャリアを積んできた長男スパキット氏(現会長)と、Trueを中心とした通信事業を担当してきた三男スパチャイ氏(現CEO)で後継者レースがなされていたと想像される。

アジア通貨危機の際、True事業の倒産危機を乗り越え、着実に経営者として実績を積んだスパチャイ氏がトップとして妥当と判断されたのは、今後の企業経営におけるデジタル化の加速への期待も含まれていたと思われる。

スパチャイ氏の影響からか、同氏の長男コラワッド氏もわずか17歳の時に、Ekoというビジネス用コミュニケーションアプリを開発するスタートアップを創業。伊藤忠商事含む大手数社から3000万米ドル程度の投資を受け、起業家としてのDNAを継いでいる。

タニン氏自身も創業者の四男から抜擢をされている。足元で第4世代の経営参画も見られるようになっており、今後の権限移譲がどのように進むかについても興味深い。

企業理念は国、地域社会、そして自社に利をもたらす「3 Benefit」。同社の幹部養成も兼ねた教育機関Panyapiwat Institute of Management(PIM)でのカリキュラムには風水なども含まれているが、今後ともアジア的な価値観を大切にしつつ、世界レベルの財閥としてステップアップを志向すると考えられる。

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MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.
Managing Director

池上 一希 氏

日系自動車メーカーでアジア・中国の事業企画を担当。2007年に入社、2018年2月より現職。バンコクを拠点に東南アジアへの日系企業の進出戦略構築、実行支援、進出後企業の事業改善等に取り組む。

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三菱UFJリサーチ&コンサルティングは、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)のシンクタンク・コンサルティングファームです。国や地方自治体の政策に関する調査研究・提言、 民間企業向けの各種コンサルティング、経営情報サービスの提供、企業人材の育成支援など幅広い事業を展開しています。

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