カテゴリー: 対談・インタビュー, ビジネス・経済, スタートアップ
公開日 2024.06.17
2022年11月に開催されたスタートアップイベント「ロック・タイランド#4」に登壇した超急速充電・長寿命バッテリーの独自技術を開発する日系スタートアップ企業ナチュラニクス(Naturanix)が今年2月からタイ・バンコクで同技術の社会実装を、電動バイクのリースサービスの形でスタートさせた。タイでは4輪車の電動化の急進展が注目を集める一方、今でもバンコクなどタイの都市部の日常生活に不可欠な交通手段になっているバイクタクシーなど2輪車の電動化は遅れている。そこに果敢に挑んでいるナチュラニクスの金澤康樹最高経営責任者(CEO)にインタビューした。
(取材・5月21日、聞き手・増田篤)
目次
愛知県豊田市の出身で、小さい頃からトヨタ自動車のモノ作りを体験させてもらっていた。大学進学の際も電気自動車(EV)に関心を持っており、当時日本でEVの研究をしていたのは島根大学と慶応大学だけだったので、2008年に島根大学総合理工学部に入学、博士後期課程まで在学した。研究テーマはまさに急速充電性能を持ったバッテリーパックと従来の安価なバッテリーパックを組み合わせた時の長寿命化だった。同課程在学中の2015年に、すでにできていた長寿命化システムの社会実装を急ぐ狙いでナチュラニクスを立ち上げた。
タイとの接点はタイ工業省工業振興局(DIP)に島根県庁から出向されていた方から、2021年に「タイで電動化とバッテリーが盛んになってくるので一緒にやりませんか」と誘われたことが始まりだ。そして在日タイ大使館の仲介もあり、日本貿易振興機構(ジェトロ)の「アジアDX促進事業」に応募し、2022年9月に採択された。同事業でのプロジェクトは今年1月に終了した。
ナチュラニクス(Naturanix)という社名は「nature」と「electronics」の掛け合わせで、「自然とエレクトロニクスが共存する世界を実現する」ことをビジョンに掲げている。
タイで電動バイクのリース事業を開始するに当たり、2023年10月にタイで駐車場管理サービスを手掛ける「JOWIT GLOBAL」をローカルパートナー企業とし、合同出資会社「WINDEE INTERNATIONL(WDI)」を設立した。そしてこのWDIが、タイの電動バイク最大手「DECO」からバイクを調達し、そこにナチュラニクスが開発したバッテリーを搭載している。バッテリーは交換式(スワッピング)で、ジェトロのADX事業の支援を得て、ナチュラニクスの充電技術と、JOWITのDX技術を融合させた「交換式バッテリーステーション」も完成している。
電動バイクリース事業は今年2月14日にタイ政府関係者も招待してローンチイベントを行った。当社の事業モデルは、バイクはリース(2年・3年・4年・5年より選択)、バッテリーはレンタルとしており、バッテリーは長寿命を活かし、「8年間メンテナンスフリー」としている。リース期間満了後も安価な月額でバッテリーステーションの継続利用(バッテリー交換)ができるため、バイクタクシー運転手の生活向上に寄与できると考えている。
当社が提供するバッテリーは今までDecoが使っていたバッテリーとは全く違う。今、中国で主流になってるのはリン酸鉄リチウムイオン電池(LFP)だ。タイのような高温地域で使うと寿命が一気に落ち、1年半とか2年ぐらいでもう使用できなくなってしまう。
4輪車ではテスラように、水を回してバッテリーを冷却している。あれだけ体積があるからバッテリーをちゃんと冷却できる。しかし、われわれが対象とする2輪車は、そもそも水を回すという機構が搭載できない。われわれのキー技術は、温度環境に対して耐性がある最先端デバイスを国内外の企業と共同開発を行って組み合わせ、バッテリーパックに実装することだ。
われわれが今、取り扱っているのは、開発済みの最短15分で充電が完了するマンガン酸リチウム・バッテリーパックで、今回のタイでの電動バイクのレンタルバッテリーに使用している。
バッテリービジネスでは、自然環境を考慮し、これまでの大量生産/大量消費ではなく、少量生産/少量消費を目指し、良いものをずっと長く使う時代を作っていきたいと考えている。これからはモノ作りも単純な「もの売り」ではなく、サービスを付加することで、もの作りの人たちにも長く恩恵が受けられるようなモデルの構築をすすめていきたい。
われわれは2027年までに、電動バイクのレンタル台数目標を5000台に設定するとともに、充電ステーションを200カ所に設置することを目指している。販売も考えてはいるが、売り切りにするとイニシャルコストが高くなってしまう。当面は売るのではなくレンタルで提供していきたい。
フードデリバリー系は巨大資本なので、先ずはわれわれの親しい企業を対象にスタートし、ある程度、知名度を上げた後でアプローチをしたいと考えている。
当面は個人事業主を含むB2Bが中心になると考えている。B2Cは短期レンタル市場がメインと想定され、われわれのビジョンに共感される一般消費者が増えてくれば、事業者向けとは違う形での提供を検討したい。
THAIBIZ編集部
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