不動産開発からテクノロジーへ変貌目指すWHA

THAIBIZ No.153 2024年9月発行

THAIBIZ No.153 2024年9月発行ヒットメーカーが語る!タイの外食産業必勝法

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不動産開発からテクノロジーへ変貌目指すWHA

公開日 2024.09.10

WHAグループはタイを代表する工業団地開発企業であり、日系企業との取引も深い。近年ではベトナムにて工業団地開発に進出するなど事業を拡大させている。本稿では、WHAグループの物流倉庫業から始まり、企業買収および提携を繰り返しながら成長してきた歴史と、AIによる物流効率化を中心としたデジタル事業を含む中核事業の今後の展望について解説する。

基本的な企業情報

タイで事業を営む日本企業、特に自動車製造会社をはじめとする製造企業にとってWHAグループは身近な存在である。同グループは主要事業の1つとして、タイ国内に12ヶ所以上の工業団地を開発・運営しており、内10ヶ所はEEC(東部経済回廊)に位置し、タイ進出時から現在に至るまで長い付き合いのある日本企業も多いだろう。

WHAグループは、事業を開始した2003年から20年間で、155億バーツの売上規模まで拡大した大規模企業グループである(図表1)。物流事業、工業団地開発事業、ユーティリティ&パワー事業、デジタル事業の4つを中核事業としており、2022年、2023年は全4事業で収益を伸ばし話題となった。WHAグループ会長兼CEOのジャリーポーン・ジャルコーンサクン氏は、グループの成功の理由について、次のように語った。

出所:同社HP、Annual Reportを基に三菱UFJリサーチ&コンサルティング作成

「まず、明確なビジョンを持つこと。そして最も重要なことは、良い戦略、適切なペースで歩むことを計画すること」。※1

※1 The Story Thailand 2023年6月12日、同氏へのインタビュー記事より引用

WHAグループのビジョンは、「WE SHAPE THE FUTURE」である。これは、投資家と産業にビジネスチャンスを創出する事業と産業ソリューションを開発、競争力を強化し、「タイを世界中の外国人投資家にとって世界最高の投資先にすること」を目指すものである。このビジョンの第一歩である物流事業会社は2003年に創業した。当時は、賃貸倉庫は「ものを保管する倉庫」としての利用が主流であったが、同グループでは「在庫や保管コストを最小限に抑え、経営効率を最大限に高める物流センターであるべき」と捉えていた。

その後、企業買収により工業団地事業に進出、その他関連事業としてのユーティリティ&パワー事業、近年はデジタル事業を展開して統合サービスを提供している。また、タイ国外では特にベトナムで工業団地を開発している。

前述の通り多数の有名日系企業を顧客として抱える他、事業面では大和ハウスとの不動産事業における合弁会社設立、丸紅との商用EVを活用した総合的ソリューション提供と効率的運用における協業など、日系企業との関係性を構築している。

また近年は中国のBYD、MG、GWMといったEVサプライチェーンに関わる自動車メーカーの積極誘致、物流サービス強化や環境影響を削減するグリーンロジスティクス実現のためPTT Global Chemicalの子会社であるGCL社の株式50%を取得する等、国内外の第一線企業がWHAグループと重要な取引を行っている。

同社によれば、これまでWHA の工業団地には外国投資を累計1兆バーツ以上誘致し、数十万人の雇用創出に貢献しており、国の産業と発展に大きな影響を与えている。

発展の歴史における転換点

WHAグループはこれまで堅調に規模を拡大してきたが、その発展の中でもキーとなる動きとして以下の2点が考えられる。

1. タイ証券取引所への上場

2012年、大企業への成長を志向し、タイ証券取引所に上場した。これにより60億バーツ以上を資金調達できたとされており、グループ発展の大きな財務基盤を得た。実際に、物流事業との関連性も深い工業団地の開発が、国の発展にとって重要なインフラであると考え、2013年頃から工業団地の建設を検討したとされている。それが、以下に記載する他社買収につながっていると考えられる。

2.積極的なM&Aや提携

WHAグループは、2012年に得た資金調達も活用して積極的なM&Aや提携を積み重ねて事業を成長させている。図表2に直近までの主要な提携事例をまとめている。最も大きな動きとしては2015年のヘマラージ社(HEMRAJ)の買収で、工業団地開発事業が同グループの中核事業となる要因となった。その他にも、事業を4領域に再編をしながら各事業領域の拡大に向けた積極的な提携が見られる。なお、次章でも触れるが、直近年ではすべての事業領域でグリーン、テクノロジーといったキーワードが提携の背景となっている。

中核事業の今後の展望

同グループの2024年戦略計画によれば、上場、4事業再編を経た次フェーズとして、タイおよびベトナム事業の継続的な開発に加え、テクノロジーによる発展を目指している。特にAIトランスフォーメーション戦略で本格的なテクノロジー企業になると強調している。

事業別の方針としては、物流事業は、グリーンロジスティクス開発(国の運輸部門におけるEVトラック使用支援)に焦点を当てる。工業団地事業では、タイでリーダーシップの維持、ベトナムで事業の包括的拡大を目指す。特にタイでは、EV産業への投資誘致や提携がキーワードとなる。

直近でもシンガポールのVoltality社と提携しタイ全土に1,600ケ所を超える充電ポイントの提供を目指す等の動きがある。ユーティリティ&パワー事業は太陽光エネルギープロジェクトを開発・開始を目指し、ピアツーピア(P2P)電力取引システムやスマートマイクログリッドシステムなどがキーワードとなっている。

デジタル事業はグループ肝いり事業であり、デジタルインフラ構築やデジタル技術適用により同グループの事業可能性の拡大、新たなビジネスモデル創出を目的としている。特に物流部門においてはフリート管理、ルート最適化、EVローミングなどの統合アプリケーションを開発中である。今年中にテクノロジー企業としてどのような結果を公表するか、その動向に引き続き注目したい。

>>WHAジャリーポーンCEOインタビュー

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MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.
Consultant

榎本 里実 氏

メガバンクで法人営業に従事。2022年チュラロンコン大学サシン経営大学院(EMBA)卒業。2023年にMURCタイ入社。タイをはじめ周辺国へのビジネス展開支援、市場調査、企業ベンチマークなどの業務を担う。

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Managing Director

池上 一希 氏

日系自動車メーカーでアジア・中国の事業企画を担当。2007年に入社、2018年2月より現職。バンコクを拠点に東南アジアへの日系企業の進出戦略構築、実行支援、進出後企業の事業改善等に取り組む。

MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.

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三菱UFJリサーチ&コンサルティングは、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)のシンクタンク・コンサルティングファームです。国や地方自治体の政策に関する調査研究・提言、 民間企業向けの各種コンサルティング、経営情報サービスの提供、企業人材の育成支援など幅広い事業を展開しています。

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