カテゴリー: 対談・インタビュー, カーボンニュートラル
連載: タイ企業経営者インタビュー
公開日 2024.10.15
40年の歴史を持つ石油精製・給油所経営大手バンチャクは、川上から川下までのエネルギー事業を展開している。昨年、米系の同業エッソ(タイランド)を買収、今年初めにはタイ初の持続可能な航空燃料(SAF)の商業生産工場の建設計画を発表した。同社の沿革やSAFプロジェクトの進ちょく状況、日系企業との連携などについて、製油所・石油トレーディング事業担当のタマラット・プラユーンスック上級執行副社長に話を聞いた。
(インタビューは7月2日、聞き手:mediator ガンタトーンCEOとTHAIBIZ編集部)
目次
タマラット氏:バンチャクの事業は、エネルギー安全保障とエネルギー転換の2つが主要テーマになっている。
バンチャクは当初、エネルギー安全保障分野といえる石油精製事業で創業し、給油所経営に進出した。経営理念として、「環境・社会と調和した持続可能な革新的事業の展開」を掲げている。その後、エネルギー転換分野である再生可能エネルギー事業に参入した。
現在、バンチャクはタイ国内だけでなく、ラオスやフィリピン、そして米国など、海外でも太陽光発電所や風力発電所、水力発電所、天然ガス発電所を保有し、運営している。このほか、エタノールやバイオディーゼルなどのバイオ製品事業も行っている。2023年にはエッソを買収した。さらに、最新プロジェクトが持続可能な航空燃料(SAF)の生産事業だ。
タマラット氏:バンチャクは現在、バンコクのプラカノンとチョンブリ県シラチャの2カ所に製油所を持っている。プラカノン製油所では、原料における化石燃料の比率を減らし、バイオ燃料の生産量を増やす予定だ。また、SAF生産工場もプラカノン製油所内に建設中だ。
シラチャ製油所は、以前はエッソの製油所だった。買収後、プラカノン製油所と同様に、化石燃料製油所としての効率性を高め、生産工程における二酸化炭素(CO2)排出量の削減を目指している。
タマラット氏:バンチャクでは、低炭素社会を目指し、2030年にカーボン・ニュートラル、2050年にネット・ゼロを達成するための「BCP 316 NET」という持続可能性(サステナブル)計画を策定し、次の3分野でCO2削減に取り組んでいる。
(1)製油所での生産工程における二酸化炭素(CO2)排出量を30%削減し、製油所の生産効率を向上させる。プラカノン製油所ではCO2排出量20%削減を達成した。
(2)森林再生プロジェクトなどによりCO2を吸収し、CO2排出量を10%削減する。
(3)二酸化炭素回収・利用・貯留(CCUS)技術などのクリーンエネルギー事業の推進により、CO2排出量を60%削減する。
タマラット氏:「カーボン・マーケット・クラブ」は、CO2排出に関する知識の普及・啓発やCO2削減の支援、カーボンクレジットの取引などを目的に設立された。現在、1000以上の法人・個人会員がいる。カーボン・マーケット・クラブはタイ温室効果ガス管理機構(TGO)の傘下にあり、工業省の支援も受けている。
タマラット氏:バンチャクは、タイにおける使用済み食用油(廃食油)を回収する事業を行っているタナチョック・オイル・ライト社と、バンチャックの傘下企業であるBBGI社と提携し、SAFを生産・販売する「BSGF社」を設立した。SAF工場は2025年第2四半期に完成する予定で、その生産能力は日量100万リットルだ。タイ国内および近隣諸国から使用済み食用油を回収する。
バンチャクが実施した調査によると、タイでは1日当たり約300万リットルの食用油が使用されている。このうち、1日当たり全使用量の30%にあたる約90万リットルが回収可能だと予想されている。しかし実際には、廃食油を再使用することもあるため、現在、実際に回収されるのは1日当たり40万~50万リットルに過ぎない。しかし、回収を促すキャンペーンを実施していることから、回収量は増え続けている。
ミャンマーとカンボジア、ラオスなど近隣諸国でも調査した結果、使用済み食用油は多いが、各国内でSAF工場が開設される可能性は低いと予想される。そこで、これらの国でも廃食油を回収することを検討している。
また、政府機関と協力し、2つのプロジェクトに取り組んでいる。1つは、使用済み食用油を売却できると一般市民に伝える「Fry to Fly」というプロジェクトだ。全国約200ヵ所のバンチャクのサービスステーションに回収ブースが設置されている。もう1つは、保健省保健局との共同プロジェクトである「No Refry」で、食用油の再使用が健康に与える影響や不適切に廃棄されることで環境に与える影響を一般市民に伝える取り組みだ。
タマラット氏:現時点でのエネルギー転換は、化石燃料など従来のエネルギーと新エネルギーの利用の組み合わせが現実的だろう。エネルギーの利用は各ユーザーの経験に依存するため、ユーザーに新たな体験を与えることで、ユーザーの意識変革につなげることも重要だ。
現在、セクターごとにCO2排出量を削減するエネルギー転換を進めている。例えば、個人用の自動車を内燃機関(ICE)自動車から電気自動車(EV)に切り変えることもその1つだ。航空部門では、航空機燃料をSAFに変える。貨物輸送部門では、ディーゼルから水素化植物油(HVO)へ転換する。
タマラット氏:タイの燃料消費量は年率で3~4%程度伸びており、それに伴ってバイオディーゼルやエタノールの消費量も増加している。EVのシェアが高まっているにもかかわらず、化石燃料の使用量は減っていない。
タマラット氏:非石油事業は、食品と非食品の2種類に分けられる。バンチャックは、「非食品」サービス店を給油所に導入した先駆企業の1社だ。地方配電公社(PEA)と共同でEVチャージャーを約300カ所に設置している。また、タイのメディア・エンターテインメント大手RSグループと提携し、給油所にペットショップを展開している。
タマラット氏:バンチャクは長年、日本の公的機関や企業と協力してきた。例えば、産油国などとの技術交換や人的交流を行っている日本の国際石油・ガス・持続可能エネルギー協力機関(JCCP)とは20年以上の協力関係にある。
また昨年12月には、コスモ石油と提携し、日本にSAFを輸出して販売することで合意した。さらに、今年4月には住友商事と日本から使用済み食用油をタイに輸入し、バンチャクがSAFを生産し、日本に輸出するプロジェクトで戦略提携をすると発表した。
タマラット・プラユーンスック氏(Mr. Thamarat Paryoonsuk)
Senior Executive Vice President, Refinery and Oil Trading Business Group
Bangchak Corporation Public Company Limited
バンチャク・コーポレーションに35年間勤務し、石油精製事業、再生可能エネルギー発電所、バイオベース製品工場の経営に携わった。現在、進行中のSAF生産プロジェクトを担当。
THAIBIZ編集部
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