連載: タイ企業経営者インタビュー
公開日 2024.07.30
1976年創業のタイのメディア・エンターテインメント大手「RSグループ」は、エンターテインメントとEコマースや通信販売などを含む「コマース(商品販売)」事業を統合した新たなビジネスモデル「Entertainmerce」を展開し、事業変革を実現している。今回は同社のウィッタワット・ウェチャブッサコーン最高財務責任者(CFO)に、RSグループのリブランディングの経緯や事業戦略、タイにおける日本企業との協業の可能性について話を聞いた。
(インタビューは5月30日、聞き手:mediator ガンタトーンCEOとTHAIBIZ編集部)
ウィッタワット氏:RSグループは1976年にスラチャイ氏(現CEO)によって設立された。彼は音楽ビジネスにチャンスを見出し、タイ大手のレコード会社の一つになった。音楽産業が急成長した1990年代はRSの黄金時代とも言える。しかし、MP3のようなテクノロジーの登場により、音楽の聴き方が変わったことに加え、海賊版CDの氾濫で、RSは変化を迫られた。
このためRSは映画やドラマ、ワールドカップ・サッカーのタイでの放映権獲得、ラジオ局「Cool Fahrenheit」の開局など、コンテンツ・プロデューサーの事業を拡大していった。2014~2015年にタイ国家放送通信委員会(NBTC)がデジタルTV放送免許の入札を行った際に、RSはデジタルTV「チャンネル8」の放送免許を取得した。しかし当時、デジタルTV事業にはさまざまなプレーヤーが参入したことで、収益性が厳しくなり、RSは再びビジネスモデルを転換しなければならなかった。
当時、RSはさまざまなメディアチャネルを所有しており、テレビでもラジオでも、毎日多くの視聴者にリーチすることができた。スラチャイ氏は、メディアチャネルを活用して視聴者の役割を「見る・聞く」から「買う」に転換させていくビジョンを持っていた。そこで、RSの商品だけでなく他社の商品を、メディアチャネルを通じて販売するようになった。その結果、商品販売の売上高が拡大してきた。これがメディアとコマース事業を統合する「Entertainmerce」へのビジネスモデル転換の出発点となった。RSは2020年にリブランディングを行い、「Entertainmerce」モデルを本格的に展開していく方針を発表した。
ウィッタワット氏:RSの事業構造は、コマース事業と、メディア・音楽事業の2つに分けられる。現在の売上高の比率は、50%はコマース事業で、残り50%がメディア・音楽事業だ。
メディア・音楽事業では、ラジオやテレビの広告、ミニコンサートなどの現地開催イベントのスポンサー、OTT(Over the Top)サービスへのドラマ放送権販売などから収益が得られる。さらに、アーティストによるドラマ撮影や個人SNS投稿での広告など、タレント・マネジメントからの収益もある。
ウィッタワット氏:RSのコマース事業では所有するメディアチャネルを通じて商品を販売している。余った放送時間を活用し、店頭販売と同様に商品を販売している。最初はパートナーに商品を販売してもらい、われわれがコンテンツや広告の制作を担当した。その後、自社製品の開発も始めた。反応はとてもよく、売上高は3年間で10億バーツを超えた。このため、商品開発やブランディングのチームを積極的に拡充している。
ウィッタワット氏:自社ブランドは、①健康カテゴリー:栄養補助食品「Well-u」、「Vitanature+」、ユニリーバから買収した栄養補助食品「Beyonde」など②ペットカテゴリー:50以上のSKUs(ストック・キーピング・ユニット)で、全国のペットショップで販売されているペットフードブランド「Lifemate」など−主に2つのカテゴリーに分けられる。
ウィッタワット氏:商品がターゲットグループのニーズを満たす必要がある。そして、ストーリーテリング(物語)戦略で差別化する。そして、ニーズの変化に対応するために、戦略をいつでも変更できるようにする。さらに、パートナーを見つけ、組むことでわれわれの強みをさらに拡充していくことも必要だ。顧客基盤を拡大することで、より詳細な分析のための情報が得られる。
われわれの販売方法によって、200万人以上の顧客データを手に入れられ、そのデータをさらに分析する。例えば、テレセールスのチームは総勢約200人で、「リピートセールス」へのフォローアップや、顧客一人一人のニーズに合う商品の提案、また、電話をかけるのに効果的な時間帯などを分析できる。
ウィッタワット氏:RSはすでにオンラインショッピングのトレンドに対応する準備をしている。今年から当社の強みを生かした「インフルエンサー・コマース」というビジネスモデルを立ち上げ、アーティストと一緒に商品を紹介・販売することで、「ソーシャルコマース(ソーシャルメディアとEコマースを組み合わせて販売を促進するマーケティング手法)」での売り上げ拡大を図っていく。RSが商品やコンテンツの制作、多くの顧客にリーチできるさまざまなメディアチャネルを持っているので、「エージェント」のような存在となり、アーティストの成長を後押しする。アーティストが商品を売ることができたら、コミッションも得られる。RS、そしてアーティストのどちら側にもメリットがあるモデルだ。
ウィッタワット氏:RSブランドの狙いは「Life Enriching」で、あらゆる面で生活の質を向上させたいと考えている。これまでは人のライフスタイルに関連した事業を展開し、ペット関連事業に参入した。これからは新しい事業やチャネルの拡大に力を入れていきたい。コマース事業では、ペットウェルネス事業の拡大や動物病院の設立、バンチャクとの協業によるペットショップの拡大などが挙げられる。商品の輸出ではフィリピンへの輸出を始めた。マーケティングでは、オンラインチャネルをより強化する。また、エンターテインメント事業では、新しいコンテンツの制作に加えて、ソフトパワーの支援もしたい。タイ文化の特徴を生かし、コンテンツを拡充し、フェスティバルなどのイベントを開催していく。
ウィッタワット氏:外国企業との協業を歓迎している。既にフィリピンのパートナーと協力関係を築いた。このパートナーはタイの商品とフィリピンの市場の両方をよく理解している。また、マレーシアとシンガポールにも商品を輸出している。現在は主に国内市場に注力しているが、タイのコンテンツを視聴しているCLMV諸国(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)にも進出したい。
ウィッタワット氏:日本の商品は個性的で品質が高い。優れたパートナーと協業すれば、タイでマーケティングを行うことができるだろう。そして、日本はタイで応用できる商品やサービスを開発するノウハウや、テレビショッピングのような興味深いビジネスモデルを持っている。これらを活用すれば、タイの同じビジネス分野で差別化を図ることができるだろう。
ウィッタワット氏:タイは興味深い市場で、成長しているビジネス分野が多く、日本企業にもチャンスがある。組織を成長させるにはパートナーが必要だ。日本企業の強みは自社の強みを補完できると考えているタイ企業が多い。潜在能力を高めるために日本企業との連携に興味を持っているタイ企業も多い。RSは、組織文化や独自のビジネスモデルを持ち、時代の変化に適応してきた、強力なローカルプレーヤーであり、日本企業との協業を歓迎している。
ウィッタワット・ウェチャブッサコーン(Mr. Wittawat Wetchabutsakorn)
Chief Financial Officer, RS Public Company Limited
米国マサチューセッツ州ボストン市のノースイースタン大学MBA修士課程修了。サイアム商業銀行(SCB)、マイナー・インターナショナルなどタイ大手企業での勤務経験があり、2020年に最高財務責任者(CFO)としてRSに入社。
THAIBIZ編集部
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