カテゴリー: ビジネス・経済
連載: Business Topics in Thailand
公開日 2025.02.10
電力の安定供給は、経済成長の基盤であり、日々の生活には欠かせない最も重要なインフラの一つである。しかしタイでは、「価格の高さ」「環境負荷」「自由化の遅れ」が課題となっている。昨年末、タクシン元首相がピラパン副首相兼エネルギー相と面談した後、「1ユニット当たりの電気料金を現行の4.15バーツから3.7バーツへ引き下げを要請した。目標は3.5バーツだ」と発言し、タイでは連日「電気代」に関する話題が取り上げられている。本稿では、「タイ長期電源開発計画(PDP)2024」の草案から、タイの電力の価格構造についてタイ開発研究所(TDRI)が分析したリポートを紹介する。
目次
TDRIはまず、タイの電力価格について「域内では中程度だが、依然として多くの消費者にとって負担が大きい」とし、その要因として次の3つを挙げている。
タイの発電は天然ガスに大きく依存しており、特に輸入液化天然ガス(LNG)の価格変動に影響されやすい。
過去数十年間にわたり、電力需要予測が過大評価され、不必要な発電所が建設されている。
発電コストが電気料金の70〜80%を占め、燃料費が主要因となっている。PDP2024によれば、今後「タイ湾の天然ガス」の使用量は徐々に減り、「輸入LNG」使用比率の増加が予測され、最大で6〜8バーツ/1ユニットの値上がりの可能性がある。
再生可能エネルギーの利用拡大は、タイが目指す持続可能な経済の鍵となる。PDP2024では、再生可能エネルギーの割合を現在の11%から16%以上に引き上げる計画が立てられている。これに対して同リポートでは、①インフラ整備:送電網や蓄電設備の未整備が普及を妨げている、②政策支援の不足:太陽光発電の普及を促進するための補助金や制度が不十分—の2つの課題を挙げている。
タイの電力市場はタイ発電公社(EGAT)が電力供給を独占しており、電力の唯一のバイヤーとなる「Enhanced Single Buyer Model(ESB)」を採用している。民間の電力会社はガルフやBグリム、ECGO、GPSC、RATCHなどが存在するものの、ESBにより各社は発電した電力を消費者へ直接販売ができず、一旦EGATが購入し、送電網を通して販売を行なっている。
そのため、「価格競争力がなく、コストが高止まりした状態である。結果として、再生可能エネルギーの導入が遅れ、投資家にとっても魅力があまり感じられないなどの悪循環が生じている」と同リポートは指摘する。
さらにPDPは国内総生産(GDP)の成長予測値をもとに、過去28年間実態を大幅に上回る電力需要を予測し、現在、大型天然ガス発電所の半数は稼働していない状態である。それらの発電所に補償金を支払うため電気料金には、「アベイラビリティ・ペイメント方式」が採用されており、消費者がそれを負担している。過去16年間の総額は5,331億バーツに上るという。
また「PDP2024では、2022年時点のタイ中央銀行(BOT)のGDPの成長予測値をもとに今後の電力需要を予測しているが、これも実態に即しておらず、稼動される見込みが低い大型天然ガス発電所8ヶ所(6,300メガワット)の建設が新たに計画されている」と警鐘を鳴らしている。
同リポートによると、「ESBは法律を改定する必要がなく、閣議決定で自由化することが可能」だという。政府が送電網の利用手数料を決定しないこと、稼働していない大型天然ガス発電所の活用方法が議論されていないことなど課題はあるが、電力の小売が自由化されれば、「市場の競争原理が働き、適正価格になる。さらに家庭が太陽光発電などで発電した余剰電力をEGATの販売単価と同単価で買い取るネットメータリングを採用すれば、消費者が負担する電気代は下がり、高価な輸入LNGの使用量の軽減にもつながる」と結論付けている。
Mediator Co., Ltd.
Chief Executive Officer
ガンタトーン・ワンナワス
在日経験通算10年。埼玉大学工学部卒業後、在京タイ王国大使館工業部へ入館。タイ帰国後の2009年にMediatorを設立。政府機関や日系企業などのプロジェクトを多数手掛けるほか、在タイ日系企業の日本人・タイ人向けに異文化をテーマとしたセミナーを実施(延べ12,000人以上)。2021年6月にタイ日プラットフォームTJRIを立ち上げた。
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