THAIBIZ No.159 2025年3月発行シンハーが明かす「勝てる」協創戦術
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カテゴリー: ビジネス・経済
連載: Deloitte Thailand - M&Aの基礎
公開日 2025.03.10
デロイトタイでは、タイにおける高齢者の経済状況についてまとめた記事「Thailand’s Silver Economy – Trends and Opportunities(タイにおけるシルバーエコノミーの傾向と機会)*1」を公開している。猛スピードで高齢化に向かっているタイで今、何が起きているのか。今号では同記事に触れつつ、今後の当該領域におけるビジネスチャンスについて考察していきたい。
*1: Deloitte “Thailand’s Silver Economy – Trends and Opportunities”
https://www2.deloitte.com/th/en/pages/about-deloitte/articles/thailand-silver-economy-en.html
目次
タイは既に人口が減り始めており*2、東南アジアの他国と比較しても高齢化の進行が速い。特にAging Society(高齢化社会、65歳以上の人口比率7%以上)からAged Society(高齢社会、65歳以上の人口比率14%以上)への移行が早く、フランスが115年、米国が69年、英国が45年かかったのがタイではわずか19年であった。このような急激な高齢化が起きているタイで何が起きているか、という点をまず見ていきたい。
*2: NNA Asia「24年の人口6595万人、5年連続で減少=調査」https://www.nna.jp/news/2754602
少し古いが、2022年においてタイは60歳以上の人口が約19%であった。これをさらに細かく見ていくと、60〜69歳が56%、70〜79歳が29%、80歳以上が14%であった。前述のように急激に高齢化が起きている中で、実はこれらの層があまり公的な制度に収入を頼れない現状がある。
興味深いデータとして、タイにおける60歳以上の人々の平均的な収入の割合を示したものがある。2021年のデータになるが、32%が仕事による収入、32%が子どもからの援助、18%が政府からの援助、8%が年金、10%弱程度がその他配偶者からの援助や預金の利子等となっている(図表1)。
退職年齢は一般的には55歳が多いが、政府の支援や年金等に頼れず、働き続けるシルバー層(60歳以上)が浮かび上がってくる。また、子どもと別居しているシルバー層に限ると、約77%が子どもから支援を受けている。
一方で、働いているシルバー層の割合は37%である。平均すると全収入に占める仕事による収入の割合は高くなっているが、一方で年齢や体調等の関係で働くことができない層もかなりいることが想定される。また、働いている層のうち、約60%が農業や漁業に従事しており、次がサービス業で約18%となっている。
一方で、裕福なシルバー層ももちろん存在する。「World Inequality Database(世界不平等データベース)」を元に、60歳以上のうち上位10%の資産を持つ層を「シルバー富裕層」と定義し、その購買力を測るためどの程度の資産を保有しているのかをデロイトが推定した。これらの層は約1.2兆バーツの資産を保有していると想定され、金銭的な不安が薄いと思われるため旺盛な消費需要があるものと考えられる。
他の層は人口が500万人程度であり、7,000億バーツ程度の資産しかないものと思われる。比較をしてみると、上位10%の富裕層が非常に大きな富を持っているものと想定され、子どもからの援助に頼らなければいけない一般層と比較すると大きな違いがある。
このような現状の中、今後タイにおいて何が起き、どのようなビジネスチャンスがあるのか簡単に考察してみたい。昨年、タイの出生数は50万人を割ったと言われており*2、少子高齢化のトレンドは止まりそうにない。今後65歳以上の割合は2029年までに20%を超える*3という予測もある。
*3: NNA Asia「『タイは29年に超高齢社会に』=カシコン」https://www.nna.jp/news/2640966
そうなると、以前こちらでも取り上げたが、医療システムにも大きな影響があるものと推察される。シルバー層については、一般的にはユニバーサル・カバレッジ・スキーム(UCS)で医療がカバーされており、比較的低廉な保険料で治療が受けられる。今後、シルバー層が増えてくるとこの制度の維持が難しくなる(病院経営が苦しくなる)ことが考えられる。
例えば病院の経営の効率化を助けるような病院の事務代行や給食を請け負うセントラルキッチンサービス、また電子カルテなどがより普及してくるものと思われる。また、健康増進を促進するようなサービス(パーソナライズされた健康アドバイスを提供するアプリなど)について、より世の中の関心が高まってくることも考えられる。
富裕なシルバー層向けのサービスも今後拡大していくものと思われる。デロイトでは、大きく以下の6つの分野が今後伸びていくものと想定している。
・ヘルスケア (高齢者専用ケアサービス等)
・不動産 (介護施設、高齢者向けレジデンス、シルバーコミュニティ等)
・レジャー関連(シルバーツーリズム、学び直し等)
・デバイス(健康状態のトラッキング等)
・法務関連のサービス(遺言等)
・金融商品(リバースモーゲージ、保険等)
例えば不動産に関連して、現状では多くの事例があるわけではないが、既に高齢化が非常に進展している日本の企業との連携に関心を示すタイの介護や病院の事業運営者も存在する。また、タイでは特に地方の医療機関の数が少なく、医療へのアクセスが良くない状況にある。
そのため、訪問型の医療などのニーズが増える可能性もあり、そういった領域で先行している日本企業にも事業機会になりうる。上記の6分野には外資に対して強い規制がある領域も含まれてはいるが、既に高齢社会となっている日本の企業が強みを生かせるものもあるのではないかと考えている。
(※注)本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをご了承ください。
その他参考資料: UN, World Bank, Thailand Department of Older Persons, Thailand NSO, World Inequality Database (2021), Mahidol University Research (2021), Bangkok Bank, PIER
THAIBIZ No.159 2025年3月発行シンハーが明かす「勝てる」協創戦術
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Deloitte Touche Tohmatsu Jaiyos Advisory Co., Ltd.
Financial Advisory Manager
柴 洋平 氏
大手電機メーカー等を経て、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社に入社。2022年8月からDeloitteバンコク事務所に出向し、M&A関連業務や市場調査業務などに従事している。
Deloitte Touche Tohmatsu Jaiyos Advisory Co., Ltd.
Financial Advisory Associate Director
谷口 純平 氏
商社を経て、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社に入社。2020年からバンコク及びシンガポール事務所に出向。戦略策定からPMIまで、シームレスに事業成長をサポートできることが強み。
【谷口 純平】
+65 (0) 8-763-6373
[email protected]
Deloitte Touche Tohmatsu Jaiyos Advisory Co., Ltd.
デロイトタイの日系企業サービスグループ(JSG)では、多数の日本人専門家を抱え、タイ人専門家と共に、タイにおけるあらゆるフェーズでの事業活動に対して、監査、税務・法務、リスクアドバイザリー、フィナンシャルアドバイザリー、コンサルティングサービス等を日系企業のマネジメントの皆様に提供しています。
Website : https://www2.deloitte.com/th/en.html
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