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連載: タイ企業経営者インタビュー
公開日 2022.11.22
TJRIニュースレター10月26日号のFeatureでは国営タイ石油会社(PTT)のライフサイエンス子会社イノビック・アジアの事業戦略を紹介した。PTTはこのイノビック以外にも事業の多角化、新規分野への参入を積極推進している。今号では改めてPTTで新規事業開発を担当するシャーン・クルパトニラン執行副社長に、PTTの新規事業の全体像について話を聞いた。
(インタビューは11月9日、聞き手:mediator ガンタトーンCEOとTJRI編集部)
目次
シャーン氏:PTTに20年間勤務しており、過去は主に石油化学事業を担当していた。現在は新規事業開発を担当している。
シャーン氏:PTTは多くの日本企業と長年、さまざまな連携をしており、とても重要なパートナーだ。例えば、石油化学分野でよくコンタクトしている企業は、商社では三菱商事、三井物産、住友商事、伊藤忠商事など。金融では、みずほ銀行、三井住友銀行だ。さらに、化学事業では三菱化学などだ。
日本企業のプロとしての働き方や体系的な考え方、そしてビジョンや世界的なネットワークなどを評価している。また、欧米と比べたら、日本は文化的にもタイに近く、問題なく一緒に仕事を進めることができたと感じた。ただ、時々遠回しに言われて、文脈を読まなければならないこともあった。そのため、仕事の後などに非公式な会話をする必要もあると思っている。
シャーン氏:三井物産と合弁で、「PTT RAISE」を設立した。タイでのデジタル化、ロボット、人工知能(AI)、ファクトリー・オートメーション(FA)を推進する会社だ。工場にハードウエアやソフトウエアを提供し、タイの産業のデジタル化に貢献し、「インダストリー4.0」につなげる事業を行う。
シャーン氏:PTTは国際的なエネルギー会社を目指してきたが、現在までにその目標は達成できたと考えている。しかし、世界は特に環境面で大きく変わっている。
アタポン氏がPTT最高経営責任者(CEO)になって、新たなビション「Powering Life with Future Energy and Beyond」を策定した。「Powering Life」 とは、エネルギーの供給だけではなく、人々の生活に深くかかわり、社会と環境の共存を重視する。そして、未来のエネルギーであるクリーンエネルギーに注力するのが「Future energy」だ。最終的に、人々の生活をより豊かにする新たな事業を「Beyond」と表現した。
シャーン氏:現在、PTTは再生可能エネルギー、エネルギー貯蔵、電気自動車(EV)のバリューチェーン、そして水素に多く投資している。これらの事業を拡大していく。そのため「Go Green」と「Go Electric」という戦略を立案した。
「Go Green」では、タイが2065年までに二酸化炭素排出のネットゼロを目指していることを踏まえ、PTTは2050年までネットゼロ企業になるとの挑戦的な目標を設定した。まず、化石燃料を天然ガス中心にする。その後、太陽光や風力などの再生可能エネルギーにシフトしていく。さらに、新エネルギーである水素市場に参入するために研究開発、実証事業を進める。
PTTは11月8日にトヨタ自動車などと共同で東部チョンブリ県にタイ初の水素ステーションを開設し、実証実験を行うと発表した。今後、電気自動車(EV)の普及など電力使用量は増加していく見通しのため、この分野でプロジェクトを展開していくというのが「Go Electric」だ。
シャーン氏:エネルギーの他で事業拡大目指しているのは次の6分野だ。
(1)イノビック・アジアでの医薬品や栄養食品などのライフサイエンス事業
(2)石油化学・ポリマー事業の高付加価値化
(3)既存のガソリンスタンドで、遠隔医療サービスなどの付加価値を向上させる新サービス
(4)新たな鉄道サービスを提供するなど本格的な物流・インフラ事業
(5)人工知能(AI)、ロボットを活用したデジタル化。特に電気自動車(EV)、エネルギー、健康などの産業をデジタル化する。さらに、現在、タイの「E-スポーツ」のインフラ整備で日本企業と連携している。いわゆる「ソフトパワー」のプロジェクトで、eスポーツ場など、eスポーツをサポート
(6)「PTT RAISE」のようなタイの工場、産業をデジタル化する事業
シャーン氏:Go greenは「3つの活動(3P)」に分かれている。まず、「Pursuit」はPTTの事業活動に伴う温室効果ガスの排出量を削減するプロジェクトだ。「Portfolio」は投資ポートフォリオを再生可能エネルギーやグリーンへの投資にシフトする。「Partnership」は自然と社会を共存できるプロジェクト。例えば、200万ライの土地に植林する。
また、Go electricでは電気自動車(EV)へのエコシステムを中心に事業拡大をしていく。現在、原料調達、バッテリー生産、電気自動車(EV)のOEM(相手先ブランドによる生産)、電動のバス、バイクの充電スタンド、バッテリー交換所、EV試乗サービス、PTTガススタンドでのアフターサービスなどを計画している。PTTはEVのエコシステム全体に投資し、支援していく。タイでもバッテリービジネスは大きく発展できると予測しており、これらのビジネス分野における合弁事業にも期待している。
シャーン氏:内燃機関(ICE)、バッテリー電気自動車(BEV)、燃料電池車(FCEV)、それぞれの長所、短所、コストを検討する必要がある。個人的には、いずれもなくなることはなく、用途ごとに共存できると思っている。
シャーン氏:タイのバイオ燃料は生産原料の豊富さが特徴だが、多くの外的要因が絡んでいる。例えば、他のエネルギー源と比べて価格変動が大きい。今、ガソリンはバイオ燃料より高いが、いつ値段が変わるか予想できず、投資利益の予測も困難だ。タイのバイオ燃料事業が拡大するかは、自動車燃料における実際の使用率、ガソリン価格、農家所得などと連動している。ただ、バイオ燃料は直接に農家と関係しているので、なくなることはないと考えている。
シャーン氏:日本企業はさまざまな強みを持っており、PTTとしては協力、協業、合弁を拡大していきたい。また、タイの近隣国に一緒に投資することもできたらと考えている。さらに個人的にはPTTとの協力だけではなく、タイへ投資し、生活してもらい、タイが「セカンド・ホーム」だと思ってもらえれば幸いだ。
現在PTTでは以下の分野で技術パートナーを募集しています。
詳細及びご提案方法はTJRI事務局までお問い合わせください。
※当募集は予告なく終了となる場合がございます。
01. 再生可能エネルギーの技術パートナー
02. 蓄電池の技術パートナー
03. EVバリューチェーンとバッテリー充電システムの技術パートナー
04. 水素エネルギー社会を実現する技術パートナー
05. スマートエネルギープラットフォームのパートナー
06. CCU・CCUSにおける技術パートナー
07. ロジスティクスパートナー
08. AI、ロボティクス、デジタル化の推進パートナー
09. スマートアグリ、水産養殖、機能性食品関連の技術パートナー
10. 石油化学業界向け高付加価値化ビジネスパートナー
TJRI編集部
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