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連載: タイ企業経営者インタビュー
公開日 2023.12.06
タイの石炭・発電大手バンプー傘下で再生可能エネルギー事業を手掛けるバンプー・ネクストは日本を含む世界各国で再生可能エネルギー発電所やバッテリーエネルギー貯蔵システム(BESS)、エネルギー・トレーディング事業を展開している。さらにタイ国内では商用の電気自動車(EV)向けバッテリー事業を本格化させていく方針だ。同社のシノン・ヴォンクソンキット最高経営責任者(CEO)に海外進出の背景や今後の国内外での事業展開、中国のEV企業のタイ進出ラッシュ、日本企業との提携などについて話を聞いた。
(インタビューは9月21日、聞き手:mediator ガンタトーンCEOとTJRI編集部)
目次
シノン氏:親会社であるバンプーは石炭と天然ガスのエネルギー資源開発と火力発電を中核とする国際的なエネルギー供給会社で、米国やオーストラリア、インドネシア、中国、日本など9カ国で川上から川下までのエネルギー事業を展開している。一方、バンプー・ネクストが担当しているのは再生可能エネルギーなどのクリーンエネルギー・ソリューションで、われわれの目標はお客様に「ネットゼロ」ソリューションを提供することだ。
バンプー・ネクストの事業は次の5つだ。
(1)再生可能エネルギー:タイ、日本、中国、ベトナム、インドネシア、オーストラリアにおける風力発電所やソーラーファーム(大規模太陽光発電所)、太陽光発電の屋上設置と浮体式太陽光発電所など。また、将来的に米国への進出を計画している。
(2)バッテリーエネルギー貯蔵システム(BESS):小規模電力網(マイクログリッド)の太陽光発電システムや、電気自動車(EV)を活用したエネルギー貯蔵システムなどを開発している。そして、中国に生産拠点を持つシンガポールのEV用バッテリー・メーカー「デュラパワー・ホールディングス」の株式の65.1%を保有しており、同社を通じてバッテリーを製造している。来年中にも、タイ国内にバッテリー製造工場を開設する予定だ。さらに、日本でも「バッテリーファームプロジェクト」を進めており、2025年に商業運転を開始することを目指している。このプロジェクトにより日本のカーボンニュートラルを支援していく。
(3)スマートシティとエネルギー管理:人工知能(AI)とモノのインターネット(IoT)ソフトウェアを活用した「地域冷房(District Cooling)」や「チラー(冷却水循設備)」のシステムを構築し、建物のエネルギー使用量を測定、分析、管理するシステム事業を展開している。
(4)eモビリティー(電気を動力とする移動手段):交通と物流向けの「マース(Mobility as a Service)」事業では、デジタルプラットフォームを通じてEVフリートを管理する。また、ライドシェア、シェアリングモビリティー、充電ステーションの管理、各種アフターサービスなどさまざまなサービスを提供している。
(5)エネルギー・トレーディング:電力トレーディングでは裁定取引(アービトラージ)を活用し、電力をオフピーク時に確保し、ハイピーク時に販売している。日本では発電所と電力トレーディングが中核事業で、将来的には、米国でも電力トレーディングを計画している。
シノン氏:バンプー・ネクストはバンプー子会社のバンプー・インフィナジーとバンプ・リニューアブル・エナジーが合併し、2020年に設立された。クリーンエネルギーによる発電・電力販売事業には7年前から取り組んでいる。アジア太平洋地域の中国、日本、ベトナム、インドネシア、タイ、オーストラリア、米国などでソーラーパネルの屋上設置や浮体式を含む太陽光発電事業を展開している。この地域でのクリーンエネルギーの発電能力は951メガワット(MW)以上(2023年9月30日時点での契約容量)だ。海外進出の考え方では、各国の電力政策やリスクを考慮するほか、国の成長力も判断材料にする。
シノン氏:日本は世界の経済大国でもあり、電力需要は安定して推移していくだろう。当社は日本で再生可能エネルギー、バッテリー事業、電力トレーディング事業を展開していく。2014年に日本での事業を開始し、現地のパートナーと協力して、日本国内の20カ所で太陽光発電所の開設やソーラーパネルの屋上設置を行っている。現在ではわれわれ自身での運営・管理までできるようになり、総発電能力は249MW以上(2023年9月30日時点での契約容量)に達する。
シノン氏:われわれはタイが東南アジアのEVハブになる可能性があると信じており、将来的には商用車でのEV利用が増えると予想している。このため、EVトラックやEVボート向けのバッテリービジネスを展開していく計画だ。来年はバッテリーの組み立て事業のみを行うが、需要が増えればタイでバッテリーセルからの製造を検討する。さらに、われわれはデータセンター事業におけるスマートエネルギーソリューションの可能性も検討している。
シノン氏:タイは地理的条件、EVの奨励策、中国との継続的かつ緊密な関係が強みで、中国EVメーカーにとってはメリットが多い。しかし、中国や外国企業のEV関連企業などの参入はタイ国内のサプライチェーンにも良い影響を与えることが重要だ。また、中国のEV技術にはコストが安いなど多くの強みがある。
今後もEV市場の競争は激しくなっていくだろうが、日本のEVもまだ競争可能だろう。日本はすでにタイ国内で強固な自動車サプライチェーンを構築しているからだ。タイ政府は2030年までに国内のゼロエミッション車(ZEV)の生産台数を総自動車生産台数の30%にする「30@30政策」という目標を掲げており、多くの企業の参入が必要だ。
シノン氏:シンガポールではバンプー・ネクストがデュラパワー・ホールディングスに投資した。この会社はリチウムイオンバッテリー、さまざまなeモビリティーとエネルギー貯蔵ソリューションのリーダーだ。シンガポールは東南アジア地域のテクノロジーハブでもある。
一方、中国ではバンプーグループとして20年前に進出した。ソーラーパネルの屋上設置など太陽光発電事業を展開しており、石炭採掘や石炭火力事業などではパートナー企業もいる。市場は大きく、多くの成長機会がある。
シノン氏:電力自由化は供給業者と消費者の選択肢を増やすほか、生産者側にとっては再生可能エネルギー技術の開発により取り組むことができるというメリットがある。タイの電力市場も最終的には自由化されていくだろう。また現在、アジアを含む世界の電力需要は増加傾向にあり、再生可能エネルギーも大きな成長の可能性がある。
しかし、自由化された場合、現在のように電力価格をコントロールするのが難しくなるため、地域ごとに少しずつ試行していく必要があり、国の電力需要、インフラ設備など多くの条件を考慮すべきだろう。
シノン氏:タイの電力事業は急速に成長する中で、技術も人材も豊富な日本企業は発電分野やエネルギーソリューションに関連する分野でタイ企業と提携できるだろう。タイではトラックなど物流分野でのEV市場の成長が期待されるので、当社はこれらの分野で日本のパートナーを探している。
シノン氏:バンプーグループは脱炭素化を重視しているため、石炭関連事業にはこれ以上投資しない。ただし、多くの国で石炭燃料への需要がまだあるため、既存事業は維持していく。そして、バンプー・ネクストは石炭火力発電から排出される炭素の削減ソリューションも提供していく。
TJRI編集部
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