カテゴリー: バイオ・BCG・農業, 対談・インタビュー, 特集
連載: タイ企業経営者インタビュー
公開日 2024.02.27
タイ石油精製会社バンチャク・コーポレーション(BCP)傘下のバイオ燃料生産会社「BBGI」は、バイオベース製品の開発を強化するとともに、今年1月にはバンチャクなどとの共同出資会社「BSFG」がタイ初の持続可能な航空燃料(SAF)の商業生産工場の建設に着手したことが注目を集めた。BBGIのキッティポン・リムスワンナロート最高経営責任者(CEO)に、BBGIの事業概要やSAF生産の狙い、今後の石油需要や内燃機関(ICE)車と電気自動車(EV)のシェア見通しなどについて話を聞いた。
(インタビューは2月1日、聞き手:mediator ガンタトーンCEOとTJRI編集部)
目次
キッティポン氏:バンチャクは40年前の1984年に石油精製会社として設立された。環境やESG、「グリーン」ビジネスを重視し、差別化を図っている。製油所事業のほか、サービスステーション(給油所)や石油資源開発などの事業、さらに傘下企業として電力会社「BCPG」と、バイオエタノールやバイオディーゼルなどのバイオベース製品を生産するBBGIなどを展開している。
BBGIは2017年にバンチャクと製糖大手「コンケン・シュガー・インダストリー(KSL)」社の合弁会社として設立され、2022年にタイ証券取引所(SET)に上場した。BBGIの事業は、①エタノール事業:コンケン県、カンチャナブリ県、チャチュンサオ県に工場があり、合計生産能力は日量約80万リットル②バイオディーゼル事業:アユタヤ県に工場があり、生産能力は日量約100万リットル-が中核事業で、さらに、高付加価値バイオベース製品も展開している。
キッティポン氏:持続可能な航空燃料(SAF)はジェット燃料に比べると二酸化炭素排出量を60~80%削減する効果があり、航空燃料の選択肢の1つになっている。自動車の場合は二酸化炭素(CO2)削減では電動化が1つの選択肢になるが、バッテリーは重いため、飛行機の場合は利用が難しい。
BBGIとバンチャクは、産業部門や飲食店、一般家庭から使用済み食用油(廃食油)を回収する事業を行っている「タナチョック・オイル・ライト」社との合弁会社である「BSGF」を通じてSAFを生産する。SAFの商業生産工場はタイ初で、日量100万リットルの生産能力を持ち、2024年に完成する予定だ。
現在、タイ全国の産業部門や飲食店、一般家庭で1日当たりに約300万リットルの食用油が使用されている。廃食油は再利用されることもあれば、不適切に廃棄されることもあり、環境に影響を与えている。SAFを製造するために廃食油を回収することは廃棄物に価値を付加し、環境改善にもつながる。
キッティポン氏:バイオテクノロジーでは、微生物を利用した先端技術によりさまざまな新製品を開発できる。例えば、牛乳を使わずに、微生物を利用して乳タンパク質を作る技術が注目を集めている。発酵によって「乳タンパク質」を生産することにより生産時間が短縮され、牛を飼育するための広いスペースも必要なくなる。すべてが制御された環境の下で行われるため、環境問題の改善にもつながる。
キッティポン氏:BBGIは現在、バイオテクノロジー関連分野を強化しており、この分野のさまざまなスタートアップ企業に投資している。例えば、「Manus Bio」との合弁で、植物の「ステビア」から甘味料を製造している。ステビアを育てて抽出するのに普通は3~6カ月かかるが、微生物を使えば3日程度でできる。また、酵素を研究・開発する「バイオム」社にも投資し、野菜や果物の洗浄剤を商品化した。
さらに、BBGIは「Fermbox Bio」社と共同出資で「BBFB」社を設立し、タイと東南アジアで初のCDMO(Contract Development and Manufacturing Organization:開発製造受託機関)工場をチャチュンサオ県に開設する計画で、2024年中に完成する予定だ。この工場は、発酵分野の受託生産(OEM)を行い、研究段階からスムーズに商業生産へスケールアップすることを目的とし、独自研究に基づき自ら投資することなく商業化を進めたいスタートアップ企業や中小企業を支援する。
タイにはバイオテクノロジーに取り組んでいる組織が多数あるが、連携するコンソーシアムはなかった。そこで、政府機関や大学、民間企業の17のメンバーが「SynBio Consortium(シンバイオ・コンソーシアム)」が設立し、BBGIも設立メンバーとなった。
キッティポン氏:タイは現在、バイオテクノロジーの主要原料であるサトウキビ由来の砂糖の輸出国として世界第3位で、キャッサバの輸出国としても世界第1位だ。タイには付加価値をつけることができる原料がたくさんあるが、高付加価値化はまだ不十分で、その拡大余地は大きい。さらに、優秀な人材、優れたバイオテクノロジー研究も多い。この分野は研究と工場だけでスケールアップが可能なため、投資の障壁が少なく、商業価値を創造するチャンスだと思う。
キッティポン氏:電気自動車(EV)の時代が来たとはいえ、石油を利用する内燃機関(ICE)車のシェアはまだ大きく、今後10~20年間、その後も需要がゼロになることはないと思う。ただ、世界全体の石油需要は伸び続けるものの、主要な用途である輸送用は2030年ごろからは横ばい状態になると予想される。一方、アジアで横ばい状態となるのは2040年ごろからだろう。
現在、タイの自動車の総登録台数は約4300万台だが、EV車の割合は約1%とまだ初期段階だ。EV車は急増しているが、全体として見ればインパクトはまだ小さい。今後、EV車の比率は増えるが、100%にはならないだろう。
キッティポン氏:バイオ燃料はまだ選択肢の一つだが、今後は政府の推進政策次第だ。バイオ燃料は農家からエネルギー部門、産業部門に至るまでステークホルダーは多いため、政府はサポートし続けると思う。バイオ燃料の使用が中止されれば、多くの農家が影響を受ける。バイオ燃料は価格が高いが、環境には良い。また、戦争などの外的要因による危機が発生した場合でも、化石燃料の輸入だけに依存する必要がなく、エネルギー安全保障にもつながる。
キッティポン氏:各国の需要と供給によって異なる。例えば、タイでは年間3000万トンのキャッサバが生産されているが、エタノール産業に使用されているのは約300万トンだけだ。このような状況なら、人間の食料と競合せず、農家が高値で売ることができるため、原料に付加価値を与えることになる。
一方で、例えばSAFの原料はパーム油だが、未使用のパーム油を原料にした場合、人間の食料と競合する可能性がある。そこでは、使用済みの食用油を使用する、つまり廃棄物が問題解決の鍵をにぎっている。
キッティポン氏:BBGIのCDMO工場はオープンプラットフォームであり、新たな協業を歓迎する。技術を持ち、生産工場を探している日本企業にとって、タイはいいロケーションであり、BBGIは商業生産へのスケールアップをサポートしていきたい。
TJRI編集部
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