日本企業の技術実証、追跡調査が示す成果と課題

THAIBIZ No.171 2026年3月発行

THAIBIZ No.171 2026年3月発行タイの若者に“届ける”には? – サントリー流マーケ戦略

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日本企業の技術実証、追跡調査が示す成果と課題

公開日 2026.03.10 Sponsored

日本の公的機関による国際実証事業は、日本の技術の社会実装や海外展開の礎として重要な役割を担っている。一方で、事業の“その後”の姿が可視化される機会は、これまで多くはなかった。こうしたなか、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)バンコク事務所では、タイを中心として過去に実施された実証事業を対象に、追跡調査を実施した。

プロジェクト実施者へのヒアリングを通じて、成果や波及効果に加え、事業中の課題や制度面の改善点までを体系的に整理し、今後の国際実証事業のマネジメントの高度化につなげることを目的としている。

NEDOバンコク事務所の加藤所長に調査の背景や、ヒアリング内容から得られた学びについて話を聞いた。

加藤 知彦 氏
NEDOバンコク事務所 所長

2025年10月よりNEDOバンコク事務所長としてASEANの政策連携および実証事業形成を統括。2002年入構、評価部をはじめ技術戦略、環境・ナノテク・AI・ロボ分野等に従事。博士(学術)。

追跡調査の目的

NEDOは、公的資金を通じて、日本企業の技術開発から国際実証、海外普及までを一気通貫で支援している。1993年に設立されたバンコク事務所は、タイを含むASEAN10ヵ国を所管。同事務所は2025年6〜12月にかけて、過去に実施された実証事業に関する追跡調査を行った。

加藤所長は、「近年、日本企業のプレゼンスが低下してきている。だからこそ、過去事業の成果や課題を改めて洗い出し、将来に生かす必要があると考えた」と、調査の目的を語る。

さらに同所長は、「この30年間でタイ経済は大きく発展し、バイオ・循環型・グリーン(BCG)への取り組みなど、政策環境も大きく変化している」と現状を概観。「こうした変化に適切に対応するためには、実証事業の成果を的確に把握し、共通課題を体系的に整理することが重要だ」と強調する。「過去の知見を今後の事業運営や制度改善に反映させ、タイの政策方針との整合性をさらに高めることで、より効果的なプロジェクトを実現していきたい」と意欲を示す。

12事業を対象に実施、マネジメント上の課題も抽出

海外におけるNEDOの追跡調査は、タイが初めての試みだ。今回の調査では、過去に実施された12案件を対象に、対面またはオンラインで、日本側事業者、タイ側事業者、関連するタイ政府機関などへのヒアリングを行った。調査対象には、古くは1990年代後半に実施された事業も含まれる。

ヒアリングにあたっては可能な限り現地を訪問し、実証事業で導入した装置の稼働状況を視察しながら当時の担当者からリアルな体験談を聞くことで、事業成果だけでなく、実施過程におけるマネジメント上の課題なども抽出した。

過去の実証事業の成果

調査の結果、対象事業の多くで現在も装置が稼働していることが確認され、実証事業を通じて技術の確立や事業者の実績構築に貢献してきた事例があることが分かった。さらに、当初の想定とは異なる形で実証成果が活用されている事例も確認された。

例えば、「工業団地産業廃棄物有効利用設備モデル事業(1999〜2005年)」では、非有害廃棄物を流動床式焼却炉で燃焼させ、廃熱を水蒸気として回収し、工場内のプロセス蒸気として再利用することを目的としていたが、現在では当初の目的に加え、自動車用電池のリサイクルや有害廃棄物の処理、フロン類の破壊処理などにも活用されている(次ページ参照)。

また、「アルミニウム工業における高性能工業炉モデル事業(2007〜2009年)」では、大幅な省エネ効果が実現できたことを受け、在タイ日系企業における工業炉の標準となり、タイ国内の複数工場への導入やASEANの他の地域への展開が進むなどの普及が確認された。

加藤所長は、こうした成果の背景について、「実証事業を通じてエネルギー削減や二酸化炭素(CO2)削減効果をきちんと確認でき、成果を積極的にPRしたことが有効だったと考えている。事業サイトへの国内外の視察団の受け入れや、モデルケースとしての活用など、調査対象事業だけでもさまざまなPRが見られた」と説明する。

そのほか、比較的長期間にわたり技術実証が可能であること、日本側事業者からタイ企業への技術移転や人材育成、NEDOが有する現地ネットワークの活用、政府事業として関係者の理解度が向上したことなども、成果を上げた要因として挙げられた。

実証プラント建設にあたり、NEDOのカウンターパートであるタイ政府機関が住民説明を行い、事業の実現に大きく貢献した事例もあり、日タイ両政府機関の連携が効果的に機能した好例と言えるだろう。

NEDOの国際実証事業では日本側事業者だけでなく、相手国政府機関や企業が協同する体制を基本としており、相手国側も事業に参画するスキームが効果的に機能していると考えられる(図表1)。

出所:NEDO提供資料にもとづきTHAIBIZ編集部が作成

浮かび上がった共通課題

調査の結果、事業終了後の支援の在り方が共通課題として浮かび上がった。加藤所長は、「NEDOがどこまで関与すべきかは、各事業の性質や相手国側の状況に応じて個別に判断する必要がある」とした上で、「事業終了後も状況を適切に把握し、さらなる普及や波及効果が見込める場合には、追加支援の可能性を検討することが重要だ」との認識を示した。

実証事業にあたっては、事業ごとにNEDOと相手国政府機関が基本合意書(MOU)または意向表明書(LOI)を締結する必要があるが、この調整に時間を要し、事業開始が遅れたという声も聞かれた。同所長は、「2025年度採択分からは、『MOUは実証設計段階までに締結できればよい』『それが難しい場合は、未締結でも実証事業を実施できる』というルールに変更している」と説明。

一方で、「実証事業を効果的に推進するためには、相手国政府機関に事業内容を正しく認識してもらい、協力を得ることが有効であることも多く、可能な限り締結することが望ましい」と付け加えた。

ヒアリングで日本側事業者から多く指摘された「事務処理の煩雑さ」については、「公的資金を用いる事業という性質上、一定程度は避けられないものの、継続的な改善検討の必要性を再認識した」と言及。さらに、「実証事業に必要となる装置などの輸出入や関税の手続き」といった課題に対しても、「これまで蓄積してきた知見やノウハウの提供、最新動向のアップデート、適切な専門家や関係機関の紹介などを通じて、引き続き支援していきたい」と意欲を示した。

タイ社会への貢献も確認

対象事業は、タイへの技術移転や人材育成にとどまらず、エネルギーの削減や温室効果ガス(GHG)の削減、さらには廃棄物処理問題への対応など、同国の社会課題解決にも寄与していることが明らかになった。

最後に加藤所長は、「タイにおける技術普及や社会実装をさらに進めるためには、政策・制度・市場環境の変化を的確に捉えることに加え、相手国側の政府機関や企業との連携を一層強化していくことが重要だ」との認識を示した。その上で、「技術の社会実装に関する支援ニーズがあれば、ぜひ気軽に相談してほしい」と述べ、インタビューを締めくくった。


NEDOバンコク事務所

エネルギー・地球環境問題の解決と日本の産業技術力の強化をミッションとし、日本企業に加えて、大学・公的研究機関等の技術開発を支援する組織。バンコク事務所は1993年に設立。ASEAN10ヵ国を所管地域として、国際実証事業の推進支援やエネルギー・産業技術分野の関連情報収集・発信など、幅広い活動を展開している。
お問い合わせ
Website:www.nedo.go.jp/introducing/bangkok_office.html
TEL:02-256-6725­/6726­(日本語可)

THAIBIZ編集部
白井恵里子

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