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公開日 2026.06.19 Sponsored
タイの自動車産業は今、電動化や脱炭素化という大きな転換期を迎えている。長年、日本企業とともに築いてきた既存のサプライチェーンを、次世代モビリティ・鉄道・宇宙といった次なる成長分野へとつなげていけるかどうかが、この変革の波をどう乗り越えていくための鍵となりうる。
こうした背景のもと、ジェトロ・バンコク事務所は製造業の新たなビジネス機会を支援するプロジェクトを立ち上げ、その第1弾として「日タイものづくり共創フォーラム」を開催。5月14日、経済産業省(METI)、在タイ日本国大使館、タイ投資委員会(BOI)との共催により、在タイ企業が一堂に会す「INTERMACH」会場にて行われた。日タイ両国の政府関係者、産業界の有識者が講演。自動車のGX・DX、鉄道との連携、宇宙産業化、サプライチェーン強靭化など幅広いテーマを横断し、製造業の未来について考える1日となった。

目次
開会挨拶では、在タイ日本国大使館の大鷹正人大使が登壇し、「タイは長年にわたり『アジアのデトロイト』として発展し、自動車産業はタイ経済を支える重要な柱のひとつとなっている。これは日タイが誇るべき最大の成果であり、両国の企業と人々が協力して成し遂げた経済協力の象徴」と振り返った。
そのうえで、自動車産業は脱炭素化やCASE(Connected:コネクティッド、Autonomous/Automated:自動化、Shared:シェアリング、Electric:電動化)といった転換期を迎え、さらに世界情勢の変化で、エネルギー安全保障とサプライチェーン強靭化の重要性が認識されているとし、「これらの変化は課題であるだけでなく、新たな成長の機会でもある」と指摘。「タイが蓄積してきた製造技術、サプライヤーネットワーク、人材、そして日タイ間の強固な信頼関係を活用し、次世代モビリティ、インフラ、エネルギー、航空宇宙産業といった成長分野へとつなげていくことが重要だ」と語った。

続いて、経済産業省の田中一成審議官によるビデオメッセージが上映された。「GXおよびDXという変革の中で、新たなサプライチェーンの構築やデジタルテクノロジーの導入を進めることは大きなチャンスである」と述べ、先日高市政権が発表したエネルギー資源協力の枠組みである通称「パワー・アジア(POWERR Asia)」を通じ、原油・石油製品の調達、重要鉱物の確保・バイオ燃料といったエネルギー源の多様化に取り組む方針を示した。
さらに2024年に開始した同省の補助金により、タイでは50件以上にのぼる日タイ事業者による共創の取り組みを支援してきた実績を挙げ、「両国が築いてきた関係性をもとに、次世代のビジネスが生まれることを期待している」と語った。

開会挨拶の最後に登壇したBOIのナリット長官は、日タイの関係を「単なる買い手と売り手、あるいは下請けの関係ではなく、相互成長の関係」と表現。今、その関係を「双方の技術やイノベーションが貢献し合う『創造的パートナーシップ』へと引き上げようとしている」と続けた。
BOIが導入した支援策として、①タイ企業との合弁事業に対する奨励措置、②ハイブリッド車(HEV)・マイルドハイブリッド車(MHEV)に対する優遇税制、③次世代自動車の生産ライン近代化を支援する税制措置、④バイヤーとサプライヤーをつなぐ「サブコン・タイランド」や「ソーシングデー」の開催などを説明。「今年のサブコン・タイランドには、昨年の2倍以上となる約40社の日本企業が参加している」と、日本側の関心の高まりを示した。

基調講演にはまず、Toyota Motor AsiaのExecutive Vice President, Pras Ganesh氏が「モビリティの未来を共創する」をテーマに登壇した。タイにおけるトヨタは65年以上の歴史の中で、サプライヤーやディーラーパートナーを合わせて30万人以上の雇用を生んできたことについて語り、「タイの国内総生産(GDP)の約11%を自動車産業が占めており、その責任を強く感じている」と続けた。
一方で、自動車産業の変化の流れを受け、2018年に豊田章男会長が「トヨタはもはや自動車会社であってはならない。『モビリティカンパニー』へとシフトしなくてはならない」と宣言したことに言及。同社の行動指針である「トヨタウェイ」も、「ハードウェア、ソフトウェア、パートナーシップ」へ変更したと強調した。
さらにGanesh氏は同社の「モビリティ1.0/2.0/3.0」という枠組みを紹介。1.0はモビリティの価値向上、2.0はモビリティへのアクセスの拡大、3.0はエネルギー・交通インフラとの統合を指す。
タイにおける実証例にも触れ、1.0については「ハイラックス チャンプ」のモジュール構造によるビジネス展開を、2.0についてはオンデマンド送迎サービスを、3.0については信号やカメラ、車両データを統合して道路安全性の向上を図る「TRUSTプロジェクト」を紹介した。

ほかにも、同氏はタイのチャロン・パカポン(CP) グループやサイアム・セメント・グループ(SCG)と共同で取り組むモビリティ、エネルギー、データを連携する「グリーンプロジェクト」や、エネルギー面においては水素の活用やタイ産エタノールを利用したバイオ燃料の開発にも意欲を示した。
「私たちが真に目指していることは、『モノづくり』から『コトづくり』への移行だ。車両だけではなく、データやエネルギーと連携し、未来のエコシステムをどう構築していくのか。これは私たちだけではできない。パートナー企業との強固な関係性を築いていく必要がある」と語った。
続いて、日本の鉄道事業の事例として、JICA専門家・西日本旅客鉄道(JR西日本)イノベーション本部国際事業室担当課長の中村光弘氏が登壇。冒頭、バンコクの鉄道路線図をスクリーンに映し、急速な鉄道路線拡大計画が進んでいる現状を示し、鉄道産業の今後の拡大可能性を指摘した。さらに「バンコクは大阪よりも栄えている都市であるため、当グループ規模以上のポテンシャルを期待できる」と付け加えた。

また、鉄道事業者の仕事は「作る仕事」と「守る(維持する)仕事」の2つに大別されると説明。「作る仕事」においては、鉄道事業者は車両の仕様決定やテスト運行などを担当し、実際の製造はさまざまな専門メーカーとの協力で行われる分業体制に触れ、2024年からは「トヨタ自動車、三菱電機とともに燃料電池車両の開発も始まっている」ことも明かした。
「守る仕事」においては、定期メンテナンスの種類やスケジュールを紹介。地道なメンテナンス作業が「定時運行を維持し、車両の故障を防ぎ、顧客の信頼を得るために重要である」と強調した。さらに、車両検査の自動化やAI を活用した状態基準保全(CBM)に積極的に取り組み、そこで培ったAIカメラ技術は、製造業の現場での安全対策にも応用され、日系企業のタイ工場でも導入が検討されているという。
「鉄道産業の成長は、製造業を含む幅広い産業に新たなビジネスチャンスを生み出す」という期待の言葉で締めくくった。

もうひとつの鉄道事例として、日本貨物鉄道(JR貨物)バンコク駐在員事務所の山田ひろか所長が講演。日本全国で毎日393本、地球約5周分にあたる距離を運行する貨物列車事業を紹介し、「日本における二酸化炭素(CO2)排出量は、営業用トラックの11分の1で、環境にやさしい輸送手段である」と語った。
また、日本国内における貨物列車の運行スケジュールも紹介し、会場の関心を集めた。同社では旅客列車が終電を終えた0時過ぎに東京を出発し、ピーク時には約5分間隔という高密度のダイヤで運行し、これを支えるシステムについても言及。なかでも、2024年に開発した予防保全のための車両管理システムは、「検査・修繕記録のデジタル化、車両状態のモニタリング、保全計画の管理を行い、検査周期の最適化と手作業の削減・ヒューマンエラーの低減につながっている」と説明した。
さらに、2015年に日タイ両政府が締結した鉄道協力覚書を背景とした、2021年のバンコク駐在員事務所設立や2022年のタイにおける天然液化ガス(LNG)の試験輸送にも触れ、「物流において鉄道という新たな選択肢を確立するため、日本クオリティの各種鉄道輸送サービスをタイ市場に提供していきたい」と語った。

基調講演の最後のテーマは宇宙ビジネス。国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)バンコク事務所の中村全宏所長が登壇し、Mediatorのガンタトーン・ワンナワスCEOによるインタビューが行われた。
中村所長によれば、日タイの宇宙協力はJAXAの前身機関である宇宙開発事業団(NASDA)時代から長年続いており、タイ地理情報・宇宙技術開発機関(GISTDA)との連携は今年で40周年を迎える。最近の象徴的な事例として、キングモンクット工科大学のポンサトーン博士が中心となって設計・開発した小型衛星が国際宇宙ステーションから放出されたニュースを紹介。「彼はタイ人だが、日本で衛星開発を学び、タイで大学教授として指導している。その評価試験には九州工業大学が協力するなど、日タイ協力の好例となっている」と話した。
なぜ今、宇宙なのか。その問いには、「経済活動が物理経済から金融、サイバー空間へ移行し、成長のピークに近づくにつれ、次なるフロンティアとして『宇宙』が注目されている」と語り、宇宙ビジネスは「自動車が歩んできた道と似ている。経済化・産業化し、そしてサステナブルな課題解決にもつながっていく」との見解を示した。そのうえで、自動車と衛星は「宇宙にあるか地上にあるかの違いだけで、技術的な親和性が高い」とし、バッテリーやセンサーといった基本技術の共通部分の多さについても述べた。
さらにJAXA宇宙戦略基金では、大手宇宙機器メーカーから町工場へと仕事が流れる「トリクルダウン」も起きているといい、「中小企業が人工衛星の部品製造に乗り出す例も出てきている。そうした企業がタイに進出してくることも期待できる」と語った。
最後に、「イノベーションは常に小さく始まるものだ。宇宙は遠い話とあきらめるのではなく、新しい成長分野こそ、スモールスタートで挑戦することが大事」と訴え、「日タイは思想や文化のレベルも含めて対等な共創パートナーシップを築ける関係にある」とし、日タイ共創がASEAN全体の宇宙分野への貢献につながることに期待を寄せた。

閉会の挨拶では、ジェトロ・バンコク事務所の阿部一郎所長が今後の展開を案内。タイの日系企業6,000社超のうち、約4割の2,400社が製造業であり、「部品産業やサプライチェーンの厚みはほかのASEAN諸国と比べても頭ひとつ抜け出ている」と現状を整理した。
ジェトロは本フォーラムを、製造業の事業多角化を見据えた支援事業のステップ1と位置付け、ステップ2として7月以降にワークショップを、ステップ3として10月以降に商談会の開催を予定している。
「自動車部品企業の持つ技術を『機能』として捉え直すことで、横展開への可能性があると今日のフォーラムでも明らかになった。たとえば、精密に削る技術や磨く技術は、医療機器や食品加工機械、宇宙や鉄道といった分野に応用できる余地がある」と阿部所長は訴求。さらに、成長市場であるインドへのサードカントリーミッション、タイ国内の日系企業へのDX・AIサービスプロバイダーの紹介、半導体分野の情報提供セミナーなどに取り組む方針も示した。
同所長は「色々なプレイヤーの方々の強みを持ち寄り、融合させることで、また新しい世界が展開できるようになると信じている。ジェトロとしてもできる限りのサポートをさせていただきたい」と締めくくった。


THAIBIZ編集部
杉浦亜希子

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