
カテゴリー: 食品・小売・サービス
公開日 2026.06.10
前回では、タイにおける消費財カテゴリの市場、流通構造および競合環境の変化を整理した。今回は、その起因となる消費者意識・行動の変化を考察するとともに、日系消費財企業が直面しているチャレンジについて考察する。
EYが2024年に実施した消費者調査によると、消費者の購買行動には大きく二つのトレンドが見られる。
一つ目は、図表1のように、支出への意識が強まり、コスト(41%)対パフォーマンス(50%)を重視する傾向である。

2023年のタイ家計貯蓄率は1.4%1と過去最低水準となり、家計債務は国内総生産(GDP)の88%2を占め、日常生活や負債返済が所得を圧迫している。これにより、消費者は「将来余裕」ではなく、財布ベースで購入商品を選択する傾向を強めている。「今手元にある20バーツで」等の消費行動も顕在化している。
これと同時に、ブランド(9%)・原産国(3%)へのこだわりは弱まり、価格競争力の高い中国製品・自社プライベート・ブランド(PB)商品に対する購入意欲を持つ消費者は40%を超えている。
二つ目は、健康意識が高まり、健康関連商品への選好が強まっている。コロナ禍や深刻な微小粒子状物質(PM 2.5)問題を背景に、消費者の健康不安が高まっている。同時に、SNS・電子商取引(EC)の発達により、健康情報が拡散し、商品へのアクセスも容易になっている。結果的に、コンシューマーヘルスは他カテゴリを上回る成長を示している。
なお、こうした購買行動・意識変化とともに、デジタル浸透により消費者の購買意思決定プロセスも変化した。従来の「ブランド主導(認知~検索・比較~購入)」からは、「コンテンツ主導(ライブコマースで紹介~使用感・効果を確認~アプリ内にて決済)」へシフトし、Impulse購買(事前の購入計画なく、その場で即時に行われる衝動的購買行動)が増えている。
これらの消費者変化は、前回の内容も踏まえて以下のように整理できる。
次に、タイの日系消費財企業の現状を考察したい。図表2には、2020~2023年の主要日系消費財企業の売上および純利益(Net Profit)の成長率を表す。横軸は売上成長率、縦軸は純利益成長率、円の大きさは売上規模である。

各社の売上が成長するものの、多くの企業はカテゴリ成長率を下回り、純利益についても横ばい、または低減するケースが多い。多くの企業は売上成長が鈍化し、減益といった苦しい経営状況に陥っている。
この状況を踏まえ、図表3では、商品開発~生産・物流~流通~販売・マーケティングのバリューチェーンに課題を分解して整理する。

まず、商品開発では、現地商品の品質向上・中国製品の流入に伴い、商品差別化が困難になり、「日本品質・日本製」だけでは競争優位を維持できなくなる。それに加え、日本基準で開発された商品は、サイズや香り等が現地消費者ニーズに適合しないケースもみられる。結果、消費者視点で「求める商品」ではなくなる。
続いて、生産・物流面では、原材料費・物流費・人件費の高騰によりコスト圧力が高まり、粗利率・純利益の低減に直面。一方で、消費者は低価格商品を志向し、単純なコスト転嫁による売価増はさらなる競争力の低下を招き、消費者がより低売価の現地・中国商品にシフトしやすくなる。
流通では、多くの日系企業はチャネルの全体像や成長するチャネルを把握できていない。そのため、成長チャネルへの対応が遅れ、「波に乗れず競合にシェアを奪われる」事象が多発している。
販売・マーケティングにおいても、多くの企業は代理店依存により、消費者との直接接点を持てず、消費者の購買行動やトレンドを把握できていない。そして、新興SNSチャネルの活用を進めているが、チャネルのメカニズムを十分に理解できておらず、売上成長への貢献は限定的となる。
このように、日系消費財企業はバリューチェーン全体で構造的な課題に直面しており、今後は各領域で抜本的な変革が求められている。次回以降では、具体的な事例を交えながら、各領域に求められる変革の詳細を解説する。

EY Corporate Services Limited
Partner
石黒 泰時 氏
事業会社におけるCEO経験および25年超のコンサルティング経験をベースに、近年では特にグローバル/ アジアで競争力の確立を目指す企業を支援。2016~2019年、中国・上海に駐在。2024年4月よりバンコク駐在。

EY Corporate Services Limited
Senior Manager
唐 辛鋭 氏
EYストラテジー・アンド・コンサルティングより2023年にEYタイ事務所へ出向。10年以上にわたりアジア主要国において、日系消費財メーカーを中心に、戦略策定、営業・マーケティング改革、組織再編等に関するコンサルティングサービスを提供。


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