
連載: 在タイ日系企業経営者インタビュー
公開日 2026.07.10
タイは「世界の台所」とも呼ばれる食品加工・輸出大国だ。その輸出産業の一端を担う包装業界は今、欧州の環境規制などを背景に、大きな転換期を迎えている。こうしたなか、高機能包材を通じてタイの食品加工企業を支える大日本印刷タイランド(以下、DNPタイ)は、世界市場の変化を見据えながら新たな価値創出に取り組む。業界で起きている変化の実態と、企業に求められる対応について内田太郎社長に話を聞いた。
(インタビューは4月16日、聞き手:THAIBIZ編集部)
DNPは1970年代からインドネシアやシンガポールなど東南アジアでパッケージ事業を展開してきました。そのなかで、ベトナムとインドネシアを製造拠点、タイを販売拠点とする体制が最適だと判断し、2013年にタイ現地法人を設立しました。タイを選んだ理由は、食品加工産業が集積していること。特に水産加工業を中心に、世界各国へ食品を輸出する企業が数多く存在しています。当社も1990年代後半からこうした顧客に軟包装を提供しており、25年以上にわたりタイの食品輸出産業とともに事業を拡大してきました。
当社はタイ国内に製造拠点を持たず、日本やベトナム、インドネシアで製造した製品を輸入して販売しています。一般的な包装材ではコストや納期の面で現地メーカーに勝つことは難しく、品質や機能が重視される「高機能包材」に特化しています。輸入であっても選ばれる理由がある製品に絞り込み、タイの食品加工企業の輸出製品を支えることがわれわれの役割だと考えています。
例えば、食品の保存性を高める「バリアフィルム」や、密封性を保ちながら開けやすさを実現する「イージーピールフィルム」などです。包装材は一見すると単純なフィルムに見えますが、実際には複数の素材がレイヤーになっています。酸素や水蒸気から内容物を守る層や加熱殺菌に耐える層、開封しやすくする層など、それぞれが異なる機能を持っています。
包装材料に使われる重要な素材の一部を自社で開発している点です。特にイージーピールフィルムやバリアフィルムは包装性能を左右する重要な材料であり、当社には長年培ってきた技術やノウハウがあります。単に材料を組み合わせるだけではなく、顧客が求める品質や機能に応じて最適な構成を提案できることが強みです。例えばバリアフィルムでは、酸素や水蒸気の侵入を抑えるための特殊な技術などを活用しており、こうした材料技術が品質や機能の差につながっています。

ペットフードの分野です。コロナ禍以降、ペットを家族の一員として捉える傾向が強まり、市場は世界的に拡大しています。タイは長年培ってきた水産加工産業を背景に、ウェットペットフードの生産拠点として存在感を高めており、当社もその成長を支えるべく努力を続けています。
当社の顧客はタイの食品加工企業ですが、その多くは米国や欧州、日本向けに製品を輸出しています。そのため、タイの顧客だけを見ていても市場の変化を十分に把握することはできません。そこで、食品加工企業だけでなくその先にいる海外のブランドオーナーとも定期的に対話するようにしています。ブランドオーナーは販売市場に近い立場にいるため、数年先の消費者ニーズや環境対応の方向性を見据えています。
われわれはタイで事業を行っていますが、実際に見ているのはその先の世界市場です。そうした情報を直接収集することで、市場の変化を先読みしながら新たな包装材の提案につなげているのです。
現在、包装業界全体に大きな影響を与えているのが環境対応の必要性です。特に欧州では包装・包装廃棄物規則(PPWR)が施行され、2030年までに域内で販売される包装材をリサイクル可能にする方針が示されています。これまで包装材は、複数の機能を実現するために異なる素材を組み合わせることが一般的でした。しかし、異素材を重ねた構造はリサイクルが難しいため、今後は単一素材で構成する「モノマテリアル化」が求められています。
特にレトルト食品やウェットペットフード向け包材は、包装分野の中でも最も難易度が高い領域の一つです。高温・高圧での加熱殺菌に耐えながら、長期保存や密封性・開封性も確保しなければなりません。そのため、モノマテリアル化では従来の包装設計そのものを見直す必要があります。材料メーカー、包装メーカー、ブランドオーナーを含めた業界全体で新しい仕様づくりが進められています。
品質に関わる重要材料については自社開発を行いながら、素材メーカーとも連携して新たな環境対応包材の実用化に取り組んでいます。包装業界は比較的技術変化が少ない業界ですが、このモノマテリアル化の流れは何十年かに一度の大きな変化になると感じています。しかし、業界全体が同じ課題に直面しているからこそ、新たな技術や価値を生み出す大きなビジネスチャンスでもあると考えています。

販売会社である当社にとって最大の資産は「人」です。どれだけ良い製品があっても、それを顧客に提案できる人材が育たなければ事業は成長しません。近年は、日本人中心だった目標管理制度を見直し、タイ人スタッフが主体的に目標設定や評価に関わる仕組みへと変更しました。また、従来は日本人駐在員が中心だった組織運営も、タイ人マネジャーが主体となる体制へ少しずつ移行しています。
さらに海外展示会や海外工場の視察機会も積極的に設けています。世界で何が起きているのかを自ら見て学び、自分で考え行動できる人材へ成長してほしいと考えています。
包装業界が大きな転換期を迎える中、求められる技術や役割も変化しています。われわれは高品質な包装材を提供するだけでなく、市場や規制の変化を先取りしながら、新たな価値を提案していかなければなりません。そのためにも、タイ人スタッフが主体的に考え、行動できる組織づくりをさらに進めていきます。市場の変化を成長の機会と捉えながら、これからもタイの食品輸出産業の発展に貢献していきたいと考えています。
Dai Nippon Printing(Thailand)Co., Ltd.
内田 太郎 社長
1995年に大日本印刷入社、海外事業部に配属。以降シンガポール、米国の海外拠点にて軟包装製品の営業や決済関連ビジネスの事業開発に従事。2021年末に来タイ、2023年より現職。海外営業で培った経験を活かし、タイ拠点の事業拡大と人材育成を推進している。

THAIBIZ編集部
和島美緒

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