【人・組織編 第3回】変革は、なぜ一過性で終わるのか 〜人事部門を“変革の回し手”に変える

THAIBIZ No.175 2026年7月発行

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【人・組織編 第3回】変革は、なぜ一過性で終わるのか 〜人事部門を“変革の回し手”に変える

公開日 2026.07.10

前回(2026年6月号)、「意志(ソフト)」と「仕組み(ハード)」の両輪が噛み合って初めて組織は動く、と述べました。しかし、その両輪も回し続ける主体がいなければ、担当者の異動とともに止まります。変革を一過性で終わらせないために、誰が回し続けるのか。最終回では、その役割を担いうる唯一の組織として人事部門に着目し、ローカル人材と人工知能(AI)をキーワードに“変革の回し手”となるための道筋を描きます。

仕組みは、設計者がいなくなれば止まる

変革には経営者の意志と、それを届ける仕組みの両輪が必要です。ミッションにChange(変革)を書き加え、評価・報酬に連動させる設計ができれば、組織は動き出します。

しかし、一つ問いが残ります。その仕組みを誰が回し続けるのか。駐在員の任期は通常3〜5年。前任者が始めた改革は引き継ぎ資料に埋もれ、半年後には誰も言及しなくなる。在タイ日系企業で繰り返されてきた構造的な現象です。

改革が消えるのは後任の意識が低いからではなく、回し続ける主体が特定の駐在員個人に依存しているからです。仕組みは設計して終わりではなく、回し続けて初めて生きます。

人事部門:回し手になれていない唯一の適任者

では、仕組みを回し続ける役割を誰が担えるのでしょうか。

組織の中に一つだけ、人の採用・評価・育成・配置を本業とする部門があります。それは、人事部門です。変革の仕組みを回せる唯一の存在です(図表1)。

しかし多くの在タイ日系企業では、人事部門がこの役割を果たせていません。筆者がよく耳にする現象を挙げます。

・目標設定レビューが弱く、無難かつ毎年代わり映えのない目標が設定される
・評価者教育が行われず、ほとんどの社員の評価結果が「3」「期待通り」に
・中堅社員が次々辞めても、退職手続きを処理するだけで、原因分析も対策もなし

これらはすべて、人事部門が回し手として機能していない状態です。

では、なぜ機能しないのか。ここでも第2回と同様、Run(維持)/Change(改革)の構造が当てはまります。人事部門では業務時間の80%超がRun業務(給与計算や勤怠処理など)に費やされ、Changeに充てる時間はほとんど残りません。しかもこの状態は固定化します。Runに追われて経験を積めない→信頼されない→相談が来ない→また経験を積めない。この循環が何年も続きます。

第2回で述べたとおり、保守的なのは性格ではなくRunだけを報いる仕組みになっているからです。同じ構造が人事部門にも当てはまり、Runだけが評価される環境でRunに集中するのは当然の適応です。

つまり、適任者はすでに組織の中にいるのに、Runに閉じ込められている。Changeを定義し評価で報いる処方箋を、人事部門自身にも適用すべきです。

Changeを一つ、回し手の中に置く

では、具体的に何から始めるか。

第一に、現状の可視化です。自社の人事部門が何にどれだけの時間を使っているかを定量的に把握します。ファクトで見れば、配分の歪みは一目瞭然です。

第二に、Run業務の総量削減です。標準化・システム化・アウトソーシングでChangeの時間を物理的に生み出す。AIに定型処理を委ねれば、Run業務の質と速度も上がります。

第三に、これが最も重要ですが、人事部門のミッション定義にもChangeを書き加えることです。人事部門の中に、経営の意図を理解し、事業部門と一緒に人材課題を考える役割を追加する。いわゆるHRビジネスパートナー(HRBP)ですが、名称は重要ではありません。重要なのは、回し手の中にChangeを担う人が存在することです。大がかりな組織改編は不要。まず一人、その役割を置く。そしてこの役割は、あえてローカル人材に委ねるべきです。

ローカル人材が実現する理想的な“回し手”

仕組みを狙い通りに機能させ続けるためのヒントは、現地の言語・慣行・人間関係に埋め込まれています。そのため、過された情報を見る駐在員より、文脈を共有するローカル人材のほうが直接触れられます。実証研究でも、東南アジアの日系子会社では現地に権限を委ねるほど業績が高く、その効果は駐在員以上で、しかし現実には委ねられていない例が多いと示されています。

とはいえ現地人事担当者はRunに追われ、退職理由を一件ずつ追う余力さえありません。そこで例えばAIが、退職者がどの等級・勤続年数で抜けているか、評価が特定の評価者だけ「3」に寄っていないかを、これまでは処理するだけだったデータからパターンを引き出します。意味を現地の文脈で読み、打ち手を決めるのは人。AIが分析の手間を担えば、手薄なローカル人事でも真因に踏み込めます。

席を替えることと、回し手を委ねることは、似て非なるものです。席は「誰が座るか」。ローカル人材が人事部長の席に就いても、「次に何を変えるか」を本社が決め、回すのが駐在員なら、変革の起点は外にあり、現地は実行する側にとどまります。回し手を委ねるとは、この起点ごと現地に移すこと。変革を“与えられる”側から“自ら起こす”側へ。席の現地化とは次元の違う、これが真のローカライズです。

その人が成果を出したら、正式に評価し処遇に反映する。最初の一例が組織を変える原理は、人事部門自身にも当てはまります。回し手の中にChangeが一つ生まれれば、人事部門は回し手として動き始めます。

覚悟、仕組み、回し手

覚悟(第1回)、仕組み(第2回)、そして回し手(本稿)。変革は、経営者の覚悟から始まり、仕組みで組織に届き、回し手が回し続ける。そしてこの三層を貫くのがAIです。覚悟を研ぐ対話相手として、コミュニケーションの壁を壊す道具として、そして回し手の時間と分析の力を生む基盤として、活用できます。この三層が揃ったとき、変革は個人の力量を超え、組織の力になります。

>>本連載「AI時代を生き抜くための変革」の記事一覧はこちら

ABeam Consulting (Thailand) Ltd.
Director

木口 郷 氏

商社、金融、製造業等、業界問わず、IT/DX戦略・企画領域から大規模システム導入プロジェクトに至るまで、ITライフサイクル全般に対するプロジェクトマネジメントを中心に15年以上のコンサルティング経験を持つ。グローバル企業に対するIT/DXガバナンス強化、システムリスク管理態勢強化、人材育成、IT-PMI等に関するアドバイザリー経験多数。
2024年9月よりABeam Consulting (Thailand) に赴任し、組織変革等のコーポレートストラテジーに携わりつつ、AI Initiativeを立ち上げ、AI人材の育成やAIプロジェクトの獲得に向けたアクション、社内でのAI利活用等をリード。

ABeam Consulting (Thailand) Ltd.
Senior Manager

伊藤 一磨 氏

DX推進支援ロードマップや新規事業策定、BPRシステム構想策定・導入など、デジタル×事業のコンサルティングを経験。人的資本経営サービスの東南アジア地域リードとして、在東南アジアの日系企業に対する人事制度策定・人材要件定義・人事部強化を中心に支援。

ABeam Consulting (Thailand) Ltd.

日本発、アジア発のNo.1グローバルコンサルティングファームを目指し、専門知識と豊富な経験を持つ約8,300名のプロフェッショナルと世界各地のアライアンスパートナーの「総合力」でクライアントの変革実現への挑戦を支援。タイ法人は2005年に設立。500名超のコンサルタントを抱え、東南アジア最大規模の拠点。

Website : https://www.abeam.com/th/

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