最新記事やイベント情報はメールマガジンで毎日配信中
カテゴリー: ニュース, バイオ・BCG・農業
公開日 2026.10.02
中東危機を受け、タイで国産バイオ燃料のエネルギー安全保障上の重要性が改めて意識されている。原油供給への懸念が高まり、タイ政府は3月には標準ディーゼル燃料へのバイオディーゼル混合率下限を5%から約7%に引き上げ、高混合油種「B20」の販売も拡大した。バイオディーゼルは従来、パーム油の需給調整や環境負荷の低減が主な役割だったが、輸入原油に頼らず「国内で確保できる燃料」としての価値が前面に出てきた。

タイの標準ディーゼル燃料には、国産パーム油由来のバイオディーゼル「B100」の混合が義務付けられている。パーム油は食用、燃料用、輸出用に振り向けられ、バイオディーゼルは環境負荷の低減に加え、収穫量に季節変動のあるパーム油の需給調整にも使われてきた。
タイが約20年前にバイオディーゼルの利用を始めて以来、標準ディーゼルの混合率は最大10%まで引き上げられた。だが一貫して引き上げてきたわけではなく、原油価格やパーム油の需給に応じて上下した。B100の価格は通常、化石燃料由来の「B0」を上回るため、混合率を高めれば燃料価格も上がりやすい。中東危機発生前の今年2月の標準ディーゼル燃料は、消費者への価格負担を考慮して混合率の下限は約5%に下げられていた。
混合率の高いB20は2019年に一般向け販売が開始された。だが21年には原油高を背景に、燃料価格を抑えるため、当時販売されていたB7・B10・B20の商品区分を残したまま、実際の混合率をいずれも約7%に引き下げた。その後B20は制度上は残ったものの、販売は大幅に縮小していた。

危機で混合率引き上げ
2月末に発生した中東危機を機に、バイオディーゼルのエネルギー安全保障上の役割が前面に出た。代替エネルギー開発・エネルギー保全局(DEDE)のバイオ燃料開発ディレクター、アピラディー・タンマノーマイ氏は「2月末に中東危機が発生すると原油の供給が滞った。エネルギー安全保障の観点から、国内で入手可能な製品に目を向ける政策を取った」と振り返る。
これまで燃料向けの原油は主に中東から輸入し、国内で精製してきた。ホルムズ海峡を巡る緊張で世界的な原油供給に不安が生じ、輸入原油由来の燃料の消費を抑え、国内在庫をできるだけ長く維持する必要が生じた。危機初期には買いだめも起き、標準ディーゼルの販売量は通常の1日6,000万~6,500万リットルから9,000万~1億リットルに膨らんだ。
バイオディーゼルの混合率はエネルギー政策・計画事務局(EPPO)などが価格や需給を踏まえて検討し、エネルギー政策行政委員会(CEPA)が決定する。CEPAは3月14日から3カ月間の時限措置として、ディーゼルへの混合率下限を約7%とするB7に引き上げ、その後12月13日まで延長した。さらに実質休止となっていたB20の一般向け販売も再拡大を開始。製造所出荷価格はB7より高いが、石油基金からの補塡(ほてん)で小売価格はB7より最大で7バーツ(約34円)安くなるよう設定した。B20の利用を促すことで化石燃料の使用量を減らし、輸入原油由来の燃料在庫を長持ちさせる狙いだ。
危機発生直後の3月には買いだめもあり、バイオディーゼル全体の使用量が急増した。4月には燃料値上げと買いだめの反動で全体需要は減った一方、実質的に販売が縮小していたB20は政策支援を受けて消費が急拡大した。B20の1日当たり消費量は3月の約8,100リットルから4月には104万リットルへ約130倍に増えた。


高混合率の定着、供給面に課題
中東危機が長期化する中、再拡大したB20の販売をいつまで続けるかは政策と原油・パーム油の需給次第だ。またB20は現状、全車種で使えるわけではなく、トラックの約80~90%やピックアップトラックが利用可能とされている。
混合率のさらなる引き上げも現実的ではない。アピラディー氏は自動車の対応状況や国産パーム油の供給能力から「現時点はB20まで」と話す。B20を超えて混合率を高めれば、対応車種の問題に加え、原料となるパーム油の安定供給も課題となる。長期的な増産には産業基盤の強化が必要だ。アブラヤシは植えてから実の収穫まで約3年かかる。政策が頻繁に変われば農家も生産者も長期的な投資判断が難しくなる。さらに消費者負担などの要素のほか、電気自動車(EV)の普及による長期的な燃料需要の変化も見極める必要がある。
バイオエタノール燃料も普及に制約
タイのバイオ燃料では、サトウキビ由来の糖蜜やキャッサバを原料とするバイオエタノールもガソリンに混合している。ただ、バイオディーゼルと異なり混合は義務付けられておらず、純粋なガソリンのほか、バイオエタノールを混合した「E10」「E20」「E85」などが併存する。混合率が高いほど燃費面で不利になりやすく、対応車種や価格面も普及の制約となっている。
政府は危機時の選択肢としてE20を重視している一方、高混合率のE85の普及推進は現時点では予定していないという。

価格・安全保障・環境の均衡探る
DEDEは今後の燃料政策について、「価格」「エネルギー安全保障」「環境」の3つの均衡が重要だとする。安さを追えば国産バイオ燃料の利用は減り、安全保障や環境面を重視すればコスト負担は増す可能性がある。環境面では、政府は温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「ネットゼロ」を50年までに達成する目標を掲げ、国家エネルギー計画(NEP)の見直しを進めている。DEDEによると、見直しの過程ではバイオディーゼルではB10やB15、B20、バイオエタノールではE20など複数のシナリオが検討されているという。
アピラディー氏は「現在の状況は、エネルギー安全保障を確保する必要性を示すサインだと感じている」と話す。輸入原油の安定調達のリスクが顕在化した今、危機時だけではなく平時も含めて燃料利用の政策の方向性をどう定めるかが問われている。
※別途、NNA POWER ASIAの購読サービスの契約が必要です。

NNA ASIA
12カ国・地域から1日300本のアジア発のビジネスニュースを発信。累計100万本以上の圧倒的な情報量で日系企業のビジネス拡大に貢献します。
NNAの購読について詳細はこちら

「エネ安保」担うバイオ軽油 タイ代替燃料戦略の現在地(1)
ニュース ー 2026.10.02

「バンコク48時間豪雨、排水能力に限界」「輸入EVに直撃、31〜39%の重税」
ニュース ー 2026.10.01

カンボジア法務アップデート(2026年5月~8月)
ASEAN・中国・インド ー 2026.10.01

在タイ企業の「電気コスト対策」に転換点 〜太陽光のBOI恩典終了、今見直すべきこととは
カーボンニュートラルSponsered ー 2026.09.28

ヤマハ、タイで楽器需要開拓 高校生バンド大会、将来の投資に
ニュース ー 2026.09.25

高級日本車からZEEKRへ―タイの富裕層が選ぶプレミアムEV、現場訪問レポート
自動車・製造業 ー 2026.09.18