革新的バイオ燃料「H-FAME」の登場 ~日タイ共同で脱炭素化の道へ~

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    革新的バイオ燃料「H-FAME」の登場 ~日タイ共同で脱炭素化の道へ~

    公開日 2025.04.03

    タイ国立エネルギー技術研究所(ENTEC)および新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)バンコク事務所は3月11日、現行のバイオディーゼルよりも低炭素輸送を実現できるプレミアム・バイオディーゼル「H-FAME」を発表。

    H-FAMEは、現行のディーゼルエンジンで使用可能で、現行のバイオディーゼルと比較してエンジンの摩耗率を低減できるほか、温室効果ガス(GHG)排出量を最大50%削減できる。ENTECは、ピックアップトラックなどで走行試験を行い有効性を確認したほか、100%のH-FAMEの継続的生産を目的としたパイロット工場も設立したという。

    持続可能なエネルギー商業化への新たな一歩

    ENTECのスミットラ・チャロットロートクン事務局長(写真提供:ENTEC)
    ENTECのスミットラ・チャロットロートクン事務局長(写真提供:ENTEC

    3月11日に開催された記者会見では、ENTECのスミットラ・チャロットロートクン事務局長がH-FAMEに関する研究の歴史について「2007年から、国際協力機構(JICA)、科学技術振興機構(JST)、タイエネルギー省代替エネルギー開発・エネルギー保全局(DEDE)から継続的な支援を受けて、『H-FAME』(品質と特性を改善したプレミアム・バイオディーゼル)の研究を行ってきた。2012年に、ディーゼル90%とH-FAME10%を混合したバイオディーゼルでピックアップトラックでの実証実験を開始し、2015年にはH-FAMEの割合を20%に増やし、1台あたり最大5万キロメートルの走行試験を実施した」と説明。

    その結果、現行のバイオディーゼルと比べてエンジンの摩耗率が大幅に低下し、ディーゼル燃料との混合比率をさらに高められる可能性が示され、商用燃料として広く活用できる可能性も高まったという。

    同氏は「最新の実証実験プロジェクトでは、NEDOの支援を受けて、100%のH-FAMEを継続的に生産するための初のパイロット工場を建設した。同工場で生産したH-FAMEは、ピックアップトラックによる1万キロメートルの実走行試験に加え、リサイクル企業であるSun-up Cooperation (Thailand) Co., Ltd.(サンアップ)のトラックおよび日高洋行エンタープライズのフォークリフトでの試験では、エンジンに悪影響を与えることなく使用できることが実証された」と報告した。

    これらの実証実験から、100%のH-FAMEはタイで一般的に販売されている「B7」(バイオディーゼル含有量7%までのディーゼル)と同様の性能を発揮し、粒子状物質(PM)の排出量が少ないこともわかったという。

    同氏は「可燃物を輸送する事業のため安全性が担保できない、充電時間が長い、電池容量が大きくなり重量が増加する、などが原因で、商用EV化に高いハードルがある企業にとっては、H-FAMEはカーボンニュートラルを達成するための有力な選択肢になるだろう」との見通しを示した上で、「現在はパイロットプロジェクトのため、1日あたり500リットルでの生産量にとどまり商用利用には不十分だが、試験的な使用を希望する企業があれば、歓迎する。需要が増加すれば、生産規模の拡大を検討できる。将来的には、商業生産に向けた拡大も視野に入れている」と期待を表明した。

    GHGは最大50%削減、1リットルあたりわずか1バーツのコスト増見込み

    NEDOの川村寛範所長(写真提供:ENTEC)
    NEDOの川村寛範所長(写真提供:ENTEC

    NEDOの川村寛範所長は「H-FAMEのパイロット工場の設立と実証実験は、運輸部門におけるGHG排出削減を目的としたH-FAMEの普及において重要なマイルストーンとなる」と述べ、「タイに生産拠点を持つ多くの日本企業が、ピックアップトラックやトラックの輸送燃料、産業分野の重機用燃料としてH-FAMEの使用に興味を示している。これは、日本とタイのクリーンエネルギーにおける協力がさらに強化される取り組みになるだろう」との期待を示した。

    ENTECの客員シニア研究員を務める葭村雄二氏は、H-FAMEの特徴について「現行のバイオディーゼルと比較して、エンジンの摩耗率が低減するだけでなく、GHGの排出量も最大50%削減できる。これは今後の普及を後押しする重要な要素ともなる」と説明した上で、「コスト面でも、今後生産能力を拡大できれば、現行のバイオディーゼルと比較して1リットルあたりわずか1バーツの増加にとどまる見込みだ」と、投資価値を訴求した。

    プレミアム・バイオディーゼル「H-FAME」(写真提供:ENTEC)
    プレミアム・バイオディーゼル「H-FAME」(写真提供:ENTEC

    今後もパイロット工場拡大を検討

    ENTECの低炭素エネルギー研究グループディレクターであり同プロジェクトのマネージャーでもあるヌヴォン・チョンラクップ博士は、H-FAMEが欧州連合(EU)の「炭素国境調整メカニズム(CBAM)」に沿ったGHG排出量削減のための潜在的な代替手段となりうる可能性を示唆し、「輸送分野でのH-FAME使用は、環境に優しい組織としての企業イメージアップにも繋がる」と述べた。

    さらに同氏は「われわれはNEDOとパイロット工場の規模拡大に向けた協議を進めている。これは、タイのエネルギー安全保障の強化および、日タイ協力の促進における重要な一歩となるだろう」と期待を寄せた。

    H-FAMEパイロット工場(写真:THAIBIZ)
    H-FAMEパイロット工場(写真:THAIBIZ)

    THAIBIZ編集部

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