浮き彫りになったタイのエネルギーリスク – 中東情勢の緊迫化がもたらすインパクト

THAIBIZ No.173 2026年5月発行

THAIBIZ No.173 2026年5月発行いま、日本のスタートアップがタイに向かう理由

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浮き彫りになったタイのエネルギーリスク – 中東情勢の緊迫化がもたらすインパクト

公開日 2026.05.11

中東情勢の緊迫化とホルムズ海峡の封鎖は、タイが長年抱えてきた「エネルギー依存」という構造的な弱さを浮き彫りにした。原油や天然ガスを輸入に頼る同国では、それらの価格上昇が燃料費や電力コストに直結する。本稿では、エネルギー価格の不安定化が続くなか、こうしたコスト上昇がどのような構造で起きているのかを整理する。

中東紛争で露呈した「タイの弱さ」

ホルムズ海峡は世界の原油輸送量の約5分の1が通過する要衝であり、封鎖されれば供給への不安から原油価格が急騰する。今年3月に起きた中東情勢の緊迫化は、そのリスクを現実のものとした。原油の92%を輸入に頼り、そのうち58%を中東に依存するタイは、この影響を直接受ける構造にある(図表1)。

出所:エネルギー政策計画事務局(EPPO)のデータを基にTHAIBIZ編集部が作成

本来であれば、国内の燃料価格も大きく上昇するが、政府は補助金によって、物流や産業への影響が大きいディーゼル燃料価格を優先的に抑制してきた。しかし、その負担は国家財政を大きく圧迫している。

エネルギー依存という構造問題

タイの燃料価格は、原油価格だけで決まるわけではない。税金や石油基金などが上乗せされており、政府はこの仕組みを使って価格の上昇を抑えてきた(図表2)。

出所:EPPOのデータを基にTHAIBIZ編集部が作成

なかでも石油基金は、原油価格が上昇した際に補助金を出し、国内の燃料価格の急激な上昇を抑える役割を担う。

しかし中東情勢の悪化により、ドバイ原油価格は紛争前と比べて72%上昇、1バレル120ドルまで急騰した。これに伴い、タイ国内のディーゼル燃料価格も30%以上上昇し、石油基金の負担が急速に拡大。同基金の累積赤字は約500億バーツを超え、足元では1日あたり約13億バーツのペースで増加しているという。

こうした状況を受け、政府は一律補助から特定層(低所得者層、農家、トラック運転手など影響の大きい層)への重点支援へと政策を転換。また、石油物品税の減税措置、物流業界や公共交通機関を対象とした支援策を相次いで打ち出し、経済的打撃の緩和を図っているが、その持続は限界が見え始めている。

コスト上昇の連鎖、企業への直接インパクト

タイ工業連盟(FTI)によると、現在のディーゼル燃料価格水準では、輸送コストが20〜25%増、商品価格は8〜10%上昇する可能性があるという。これらのコスト上昇は、数週間から数ヶ月のタイムラグを経て、原材料価格や製品価格へと転嫁すると見られ、日用品や食品価格の上昇を通じて国内消費にも影響が広がる可能性がある。

さらに原油価格の上昇だけでなく、電気料金の高騰にも警戒が必要だ。タイの発電は天然ガスによる火力発電が58%を占める(図表3)。

出所:EPPOのデータを基にTHAIBIZ編集部が作成

天然ガスの調達は国内生産だけでは不足するため、47%を輸入に頼っている。ミャンマーからのパイプライン経由の輸入(約11%)を除き、約36%をカタールなどから輸入する液化天然ガス(LNG)で補っているため、この価格の上昇は電気代に大きな影響を与える
※タイエネルギー政策計画局(EPPO)2024年の統計データによると、タイのLNG輸入元:1位 カタール(21.1%)、2位 米国(19.1%)、3位オーストラリア(17.6%)、4位 マレーシア(15.1%)、5位 インドネシア(6.4%)である。

実際、LNG価格は紛争前と比べて120%以上上昇しており、2026年5〜8月期の電気料金は1ユニットあたり0.58バーツの引き上げが見込まれている。電力コストの上昇は、工場だけでなくオフィスの空調や設備運用など固定費全体に関わってくる。FTIは、鉄鋼、セメント、セラミックス、化学、および重機を使用する産業など、エネルギー多消費型産業において、電気代の上昇が生産コストを圧迫し、最終製品価格を押し上げると指摘している。

企業に求められるエネルギーマネジメント

このように、タイでは燃料や電力の価格が外部環境に左右されやすく、その影響が企業コストに直結する構造にある。今回のようなエネルギー変動は、今後も繰り返し起こりうる。つまり、エネルギーコストは「上がるかもしれないもの」ではなく、「変動するもの」として捉える必要がある。実際、タイでは省エネや太陽光発電の導入が進んでおり、こうした取り組みはコスト削減だけでなく、価格変動に備える手段としての意味を持つ。

エネルギーリスクへの対応は、すでに一部の企業だけのものではない。コストが変動する前提で事業を考えられるかどうか。省エネやエネルギー調達の見直しを中長期的に組み込み、継続的に機能させられるかどうか。地政学的なリスクが高まる近年の情勢においては、今後はさらに、その差が、タイにおける企業の競争力を左右することになるだろう。

(参考)
クルンテープ・トゥラキット「精製マージンの読解」(2026年3月20日
クルンテープ・トゥラキット「タイの燃料価格構造:タイ人は燃料1リットルあたりいくら支払っているのか?」(2026年3月20日)
クルンテープ・トゥラキット「石油基金は420億バーツの赤字を抱えている」(2026年3月30日)
バンコク・ポスト「エネルギー覚醒の呼びかけ」(2026年3月30日)
タマサート大学メディアTU ACTS「タイは厳しい状況に直面している」(2026年3月26日)
タイ・ラット・マネー「原油価格の高騰は運輸費と生産コストに混乱をもたらしている」(2026年3月27日)

THAIBIZ編集部
サラーウット・インタナサック / 和島美緒

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