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カテゴリー: 会計・法務, ASEAN・中国・インド
連載: ミャンマーの最新ビジネス法務 - TNY国際法律事務所
公開日 2026.11.06
2026年7月、ミャンマー議会は、オンライン詐欺への対策を強化するAnti-Online Scam Bill(オンライン詐欺対策法案)を可決した。本法は、オンライン詐欺組織の設立・運営や支援、犯罪収益の移転などを幅広く処罰対象とし、一定の場合には死刑を含む厳しい刑罰を規定している。
本稿では、本法制定の背景と主な規制内容について解説する。
近年、ミャンマーは東南アジアにおけるオンライン詐欺の拠点の一つとして世界的な注目を集めている。特にタイ国境付近のミャワディ(Myawaddy)地域やシャン州の一部では、国際的な犯罪組織による大規模な詐欺拠点が形成され、多数の外国人が人身売買によって連行され、オンライン詐欺に従事させられていることが国際社会から繰り返し指摘されてきた。国連や各国政府は、これらの犯罪組織が投資詐欺、ロマンス詐欺、暗号資産詐欺等を世界中で展開し、多額の被害を生じさせていると警告している。
本法は、こうしたオンライン詐欺を独立した法律によって包括的に規制する初めての立法であり、従来の刑法やサイバー関連法令では十分に対応できなかった国際的な組織犯罪への対策を強化することを目的としている。
近年のオンライン詐欺は、単なるインターネット犯罪ではない。人身売買や監禁、暴力、資金洗浄、暗号資産、不正送金、偽造身分証明書など、多数の犯罪が複合的に組み合わさった国際的組織犯罪となっている。
特にミャンマー東部国境地域では、中国系犯罪組織を中心とする詐欺拠点が急速に拡大した。被害者は高収入のIT業務やカスタマーサポート業務などを装った求人広告によって誘い出され、現地へ到着するとパスポートを没収され、監禁された状態で詐欺業務を強要される事例が多数報告されている。国連は、ミャンマー国内だけでも約12万人がこのような詐欺拠点で強制労働させられている可能性を指摘している。
こうした状況を受け、中国、タイ等の近隣諸国からミャンマー政府に対して法整備と取り締まり強化を求める声が高まり、今回の立法につながったものと考えられる。
現時点で公表されている内容によれば、本法には次のような特徴がある。
第一に、オンライン詐欺に関する犯罪類型を幅広く定義している点である。
従来は個別の詐欺行為や電子取引犯罪として処罰されていたものが、本法ではオンライン詐欺組織の設立、運営、支援、資金提供、設備提供等も処罰対象となる。
したがって、自ら詐欺を実行していなくとも、犯罪組織に施設や通信設備を提供した者や、詐欺収益の移転に関与した者についても刑事責任を負う可能性がある。
第二に、犯罪収益に対する迅速な凍結・差し押さえ制度が導入される。
オンライン詐欺では、犯罪収益が数分以内に複数国へ送金されることが多く、従来の刑事手続きでは資金回収が極めて困難であった。本法では捜査当局に対し、金融口座や電子決済口座、デジタル資産等について迅速な凍結措置を講ずる権限を付与することが予定されている。
第三に、捜査機関の権限が大幅に拡充される。
オンライン詐欺に関係する電子データ、通信記録、金融情報等について広範な調査権限が認められるほか、関係機関との情報共有および国際協力の促進も制度化される見込みである。
さらに、今回最も注目された点は、刑罰の重さである。本法では犯罪の内容に応じて懲役刑、終身刑に加え、一定の場合には死刑まで規定されている。特に人身売買、監禁、暴力または拷問等を伴うオンライン詐欺組織の運営については、最も重い法定刑として死刑が予定されている。
これに対し、一般的なオンライン詐欺についても長期の有期懲役または終身刑が想定されており、従来法と比較して極めて厳罰化が図られていることが分かる。もっとも、実際の量刑は今後の施行後の運用や裁判例によって明らかになっていくものと思われる。

TNY国際法律事務所 (ミャンマー)
代表弁護士
堤 雄史 氏
会社設立、合弁契約書および雇用契約書などの各種契約書の作成、M&A、紛争解決、商標登記等のミャンマー法に関するサービスを提供している。世界13ヶ国に展開するTNY国際法律事務所グループの共同代表。
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