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カテゴリー: イベントレポート
公開日 2026.11.03
8月28~30日の3日間、バンコクで開催された「日本博2026」。今年初めて設けられた「ビジネスエリア」では、日タイ双方の経営者や研究者、メディア関係者らが登壇する「トークステージ」が注目を集めた。
自動車産業や自動化、環境・社会・ガバナンス(ESG)、金融、宇宙ビジネスなど、多岐にわたるテーマで議論が交わされた。各セッションからは、日タイのビジネス協力の現在地と、今後の新たな可能性が浮かび上がった。
初日に大きな注目を集めたのが、日本経済新聞社の赤間建哉氏とMediator最高経営責任者(CEO)のガンタトーン・ワンナワスによる対談だ。インドネシアの財務相が、トヨタに対し、東南アジアの主要生産拠点をタイからインドネシアへ移すよう呼びかけたとされる発言をめぐり、議論が交わされた。
赤間氏は、「トヨタがタイから撤退することは当面ない」との見方を示した。一方、インドネシア側の発言については、投資誘致競争が激化するなか、タイの官民に危機感を促す警告と捉えるべきだと指摘した。
対談では、タイの強みとして、強固なサプライチェーンとタイ人エンジニアの技術力が挙げられた。その象徴が、タイの開発チームが主体となって手がけた「トヨタ・ハイラックス・チャンプ」だ。コストを抑えた開発に加え、他モデルへの展開のベースにもなった事例として紹介された。
一方、タイ政府のEV政策については、「タイ政府は、これまで日本メーカーが訴えてきた政策上の要望に耳を傾けるべきだ」(赤間氏)とし、販売促進にとどまらず、国内のEV産業を実質的に育成する施策へと踏み込む必要性が指摘された。
赤間氏はさらに、中国系メーカーと比べた日系企業の課題として、意思決定のスピードを挙げた。「素早く失敗し、より速く学ぶ」という発想を組織文化に取り入れるとともに、タイ人従業員が積極的に意見を発信し、経営方針の議論に加われる環境を整えることが重要だと提言した。

続いて、三菱電機ファクトリーオートメーション(タイランド)の工業マーケティング部門マネージャー、プリンワット・パンシン氏が登壇し、自動化とAIを通じたタイ産業界の底上げについて講演した。
同氏によると、同社はAIエージェントを監視制御システム(SCADA)やエッジコンピューティングと組み合わせ、個々の機械レベルまでデータを管理・活用する「フィジカルAI」を推進している。また、タイの「国家半導体ロードマップ2050」が掲げる半導体・プリント回路基板(PCB)分野の育成も支援している。さらに、ASEAN各国が互いに競争するだけでなく、連携して成長を目指す「One ASEAN」の考え方を示した。
人材育成では、タイ東部経済回廊(EEC)と連携し、「EECオートメーション・パーク」などの技術移転拠点を活用するとともに、職業訓練校や大学向けにファクトリーオートメーションのトレーニングキットを整備している。幼稚園児の段階から学べる機会も設け、自動化時代を支える人材の裾野拡大に取り組んでいると説明した。

業種を横断したセッションには、バーリ・ユッカー(BJC)の社長兼CEOであるターパニー・テシャチャロンウィクン氏と、日経BPの副部長兼「ESG Global Forecast」編集長の馬場未希氏が登壇。馬場氏が進行役を務めた。
馬場氏は、企業統治やグリーントランスフォーメーション(GX)、循環経済といった日本のESG政策の潮流を、タイのバイオ・循環・グリーン(BCG)モデルと関連付けて紹介した。これを受け、ターパニー氏は、BJCが一貫して掲げる「廃棄物の価値化」の理念のもと、2050年のネットゼロ達成に向け、2030年の温室効果ガス(GHG)削減目標を20%(基準年:2021年)に引き上げたと説明した。
具体的な取り組みとして、Big Cの37店舗の屋上に合計出力30メガワット(MW)の太陽光発電設備を設置し、年間約1万3,293トンの二酸化炭素(CO2)換算排出量を削減していることを紹介。また、日本のユニコーン企業が開発・製造を手がける環境配慮型素材「LIMEX」を用いた買い物かごをBig C約1,640店舗に導入し、石油由来プラスチックの使用量を42%削減したほか、物流企業と連携して電気トラックの導入も進めているという。
ターパニー氏は、「日本企業が新たなグリーン技術を持ち込み、実証実験や地域展開を進めるためのエコシステム、パイロットプラットフォームとしての役割を果たしていきたい」と語り、日本企業との連携に意欲を示した。

三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)傘下のアユタヤ銀行(クルンシィ)で日系法人営業部門を率いる大森恒平氏は、日本企業によるタイ投資の変遷を振り返った。1960~80年代の製造拠点設立から、1990~2010年代のサービス業や小売業、地域統括拠点への進出を経て、近年はデジタル、データセンター、ヘルスケア、クリーンエネルギー、スタートアップへと投資領域が広がっていると説明した。
大森氏は、タイで成功する日系企業に共通するのは、日本企業ならではの長期的な視点やカイゼン文化を、現地の実情に合わせて柔軟に適応させている点だと分析する。
クルンシィも、MUFGのグローバルネットワークとタイ国内のネットワークを組み合わせ、企業間の連携を後押ししている。具体的には、食品・飲料企業とタイの近代小売企業との商談機会の創出や、タイを拠点としたASEAN展開を支援するコンサルティングサービス「Krungsri ASEAN LINK」など、ビジネスマッチングに注力しているという。

初日最後のセッションでは、宇宙分野における新たなビジネスの可能性が議論された。国立エネルギー技術センター(ENTEC)研究員のナッタナイ・クナーヌソン氏が進行役を務め、ispace Inc.(日本)事業開発担当のワッチャラーウット・マーサワット氏、国際宇宙技術・経済開発研究所(INSTED)所長のポンサトーン・サーイスチャリット氏、宇宙航空研究開発機構(JAXA)バンコク事務所長の中山洋氏が登壇した。
議論では、宇宙産業が政府主導の領域から、民間企業が牽引する新たな宇宙経済へと移行しつつあるとの認識が示された。
ポンサトーン氏は、タイの学生が開発した人工衛星「KNACKSAT」や「NEXTAT」にも言及。NEXTATは今年2月、国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」から放出され、軌道に投入された。こうした事例は、タイの若手エンジニアが持つ技術力を示すものとして紹介された。
中山氏は「JAXAはタイをASEANで最も重要なパートナーの一つと位置づけている」と述べた。タイは既存の産業基盤を生かし、部品製造などの「アップストリーム(上流)」から、衛星画像を農業や洪水対策に活用する「ダウンストリーム(下流)」まで、宇宙産業のサプライチェーンに参画することで、世界市場で存在感を高める余地があるという。さらに、日本側では企業のコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)やベンチャー・キャピタル(VC)に加え、政府の宇宙戦略基金(SSF)など、タイとの事業協力を後押しする仕組みも整いつつあると説明した。

ビジネスエリア初日の議論を通じて浮かび上がったのは、日タイ協力がもはや生産拠点としての関係にとどまらないということだ。自動車、スマート工場、サステナビリティ、金融、そして宇宙産業に至るまで、両国は「Reinvent(再定義・再構築)」をキーワードに、幅広い分野で新たな価値の共創を模索している。次回の「中編」では、引き続きビジネスエリアの議論を追う。

THAIBIZ編集部
サラーウット・インタナサック / 白井恵里子

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