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カテゴリー: ビジネス・経済
公開日 2026.10.30
アジアの多くの国に「バイクタクシー(バイタク)」という交通移動手段がある。名称どおり、バイクのタクシーだ。特にバンコクはその数が多く、日常的に目にする。しかし事故も多く、日系企業駐在員の多くは会社からバイタク利用が禁止されており、自主的に利用する外国人は限定的だ。そのため、縁がなく、多くの人が「バイタクを職業にしていて儲かるのだろうか」という疑問を持つのではないか。今回はそんなタイのバイクタクシーという商売を紐解いていく。

バンコクの道路構成は大通りの「タノン」から小路「ソイ」が伸びている。バイクタクシー(日本人は「バイタク」、タイ人は「モーサイ」と呼ぶ)は、主に、大通りに面したソイ入り口に待機して客を待っている。中には数キロメートルにもなる長いソイもあり、「バスなどが走る大通りに出るため」、または「帰宅するため」などの用途で地域住民に利用される。ほかには駅や商業施設の前、住宅街の主要なポイントに拠点があり、そこから出発し、任意の場所で降車する。
近年は配車アプリの台頭で、バイタクは大きく2種類になった。一つは、昔から存在する、各地に待機している政府公認のタイ語では「ウィン」と呼ばれるバイタクだ。そしてもう一つは「Grab」などの配車アプリのバイタクである。今回はこのウィンを見ていきたい。バンコクではほとんどがオレンジ色のベストを着ている人たちが公式のバイタクとなる。
このオレンジ色のベストを着用するようになったのは2003年ごろである。それまではいわゆる民間運営だったため、さまざまな色があった。これがタクシン・チナワット政権時代に陸運局などに登録する制度が始まり、オレンジ色のベストを着用するようになったのである。
この「かつては民営」というところが曲者で、一説ではタイの反社会的勢力が運営しており、バイタク運転手から毎日みかじめ料を徴収していたとされる。例えば、ひとりにつき毎日20バーツとしても相当な金額が動く。
2022年、バイタク運転手に燃料費補助を出すという閣議決定があり、政府が確認する登録済みのバイタク運転手はタイ全土で15万7,000人と報道された。コロナ以前は今よりも少し多く、2019年3月のタイ商工会議所大学(UTCC)経済・ビジネス予測センターのレポート※1では、当時18万5,000人だったので、後者の数字で計算すると1日に370万バーツが反社勢力に入ったということになる。
みかじめ料は地域により異なり、都心だと月3500バーツ、1日100バーツ超という場所もあったようだ。こういったみかじめ料は潮州語由来の「カー・ペジヤ」と呼ばれ、直訳すればご飯代という名目で徴収されていた。登録制になったことで無意味に巻きあげられていた売り上げの一部が手元に残り、多くのバイタク運転手がこの制度を歓迎した。
タイのバイタクの乗り方は、とりあえず待機場所に行き、バイクがいれば合図をして乗りこみ、行先を告げる。ソイの中だけの場合は乗客はヘルメットを着用しないことが多い。大通りなど中距離以上ではヘルメットを渡される。いずれにしても現在はバイク同乗者もヘルメット着用義務があるので、基本的には被ったほうがいい。ただ、以前に誰が被ったヘルメットかわからないので、潔癖の人には少々きついとは思うが。抵抗のある人は自分のヘルメットを持ち歩くことをおすすめする。

バイタクは前述のように待機場所から乗る。後編で説明するように登記の関係があって、一般タクシーのように手を挙げて止めることができないからだ。待機場所は公的に指定されていて、そこでしか客を取れないため、運転手たちの縄張り意識も関係する。かつて民営時代は通りを走行中のバイタクを拾えたが、今は無用なトラブルを避けるため、ほとんどの運転手は手を挙げても止まってくれない。
配車アプリは料金が明記されるのでわかりやすい。バイタクは四輪タクシーにあるようなメーターもないので、相場がわからないと最初は使いにくさを感じるかもしれない。しかし、待機場所はバンコク都委員会の基準に基づき、地域の小委員会が決めており、2016年に新たに『公共バイクタクシーの乗客運賃を規定する大臣令(仏暦2559年)』※2も施行されている。この法令の第2条にて、バイタクの旅客運賃が以下のように定められた。
内容を見ると、かつての料金とそれほど変わっておらず、不当請求を禁止するための念押しとして再度定められたようなものだ。これに則った料金表を必ず待機所に貼り出すことになっている。ただ、料金表にはランドマークの記載しかないので、正規料金が絶対と思うなら、自分が行きたい場所の近くの名称は憶えておいたほうがいい。
先の③だと交渉制なので(②もほぼ交渉制だが)、バイタク運転手によって相場が異なる。同じ場所でも片方は100バーツ程度、もう一方の運転手は200バーツというかもしれない。前者を一度経験してしまうと、次に後者にあたったとき、それを「割高に請求された」と感じてしまうというのはある。
③以外では、基本的に上記を相場として算出されるので、不当な金額になるということはほぼない。ソイの中であれば、短距離なら20バーツ程度、遠いと50バーツまでというのが平均的な感覚だ。大通りを走ると割高になるのが基本だ。ただし、都心では正規設定自体が最大値に近く、郊外のエリアでは初乗り料金が少し安い傾向があり、必ずしもバンコク全体で同じ相場ではない。
料金設定の地域差には一応、バイタク側に合理的な理由がある。それは慣習的な料金帯が今も存在しているからだ。かつての相場感覚が関係しているのだろう。例えば、スクンビット通りソイ105はおよそ5キロメートルをほんの少し切るくらい長い。ここを端から端までバイタクに乗ると50バーツとなっている。委員会規則で5キロメートルの料金を算出すると、最大値であっても40バーツにしかならない。しかし、この地域は行政の介入以前からこの料金だったことから、委員会が規定する正規料金が昔からの料金に合わせたものになってしまった。
このように設定料金も結局は地域で異なり曖昧だ。タイらしいといえばタイらしい。
昔ながらの料金が継続される理由は、その地域のバイタク利用者の数も関係しているだろう。スクンビット通りソイ105のバイタクも、スクンビット通り側の入り口であれば絶えず、それこそ早朝から深夜過ぎのBTS終電までひっきりなしに利用者が来る。他方、ソイの奥になると人数が限られる。しかもこのソイの場合、反対側のシーナカリン通りにMRTのイエローラインができてしまったため、奥の待機所の利用客が激減してしまった。
そんなソイ105の一番奥のバイタクの顧客は、ひとりの運転手あたり1日10人程度となっている。スクンビット通りまで50バーツ、近隣の商業施設などであればもっと高いとはいえ、客単価平均を50バーツとすれば、1日の売り上げは500バーツほどにしかならない。
ソイ105でもスクンビット通りの入り口側なら倍にはなるはずで、売り上げにも地域差がある。既出のUTCCの2019年発表の調査結果では、アンケート対象1,243人のバイタク運転手における平均収入は1日あたり974.81バーツ、1ヶ月あたり2万4370.25バーツだった(1ヶ月25日稼働として算出、1日平均9時間)※1。アソークやトンローなど、都心のバイタクは現在もこれに近い金額を稼ぎ、他方で郊外の電車延線が進んだ地域のバイタクは顧客を奪われていると見られる。
都心と郊外では、同じバイタクでも収入に差があることが分かった。では、実際にこの仕事を続けるには何が必要なのか。後編では、運転手になるための条件や経費、さらに業界に潜む問題まで掘り下げていく。

参考:

髙田 胤臣 氏
タイ在住ライター。初訪タイ98年、移住2002年9月~。著書に『だからタイはおもしろい』(光文社新書)、『亜細亜熱帯怪談』『タイ飯、沼』(ともに晶文社)、『裏の歩き方』シリーズ(彩図社)などのほか、電子書籍をAmazon kindleより自己出版。書籍、雑誌、ニュースサイトで東南アジア関連の記事を執筆する。YouTubeチャンネル「バンコク・シーンsince1998│髙田胤臣」でも動画を公開中。

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