公開日 2023.08.29
TJRI(タイ日投資リサーチ)は7月18日、タイ電気自動車協会(EVAT)と共催で「EV業界の日タイ企業交流会」をバンコクで初めて開催した。日系企業とタイ国内企業の合計65社、90人以上が参加。東南アジアの電気自動車(EV)の生産ハブになることを目指すタイで、EV関連企業間のネットワーク拡大を図るのが狙いだ。イベントでは、中国・上海汽車グループで「MG」ブランドの自動車を生産するSAICモーターCPや長城汽車(GWM)タイランドなどタイのEV産業を牽引する中国系の大手自動車メーカーなどが講演した後、ネットワーキングが行われた。
目次
この交流会ではまずEVATのクリサダ会長があいさつに立ち、2022年にバッテリー電気自動車(BEV)の登録台数が急増したことについて「2022年の登録台数は前年比400%増加した。これはタイ政府のEV補助金政策が後押しした。今やバンコク都内を走行する青い電動バスが急増しており、今年の電動バスの台数は前年比700%も増加している。また、昨年の乗用車BEVの登録は9678台だったが、今年は7月1日時点で約3万1000台を超えており、年末までに約4~5万台になると予測している。ブランド別ではトップから8位までは中国メーカーで、輸入関税免除でタイに完成車を輸入している」などと報告。
一方、「タイのEV充電ステーションは、全国1400か所以上にあり、充電器の総数は4600以上で、18台の自動車あたり1台の充電器が設置されている。しかし、この比率では、現在のEV走行台数に十分ではなく、充電ステーションの整備には政府の支援策が不可欠だ」と強調した。
次に、SAICモーター・CPのスロート・サーンサニット副社長が登壇。「タイ国内のサプライチェーン構築に向け、現在は輸入に頼っているEVの主要部品のタイ国内生産を目指している。一方、バッテリー生産ではモジュールやバッテリーを製造する前の段階であるセルの輸入は自動車サプライチェーン全体のバリューの15%以下であれば、セルだけを輸入してもよいという規定がある。しかし、これは2025年までと限られており、2026年以降はタイ国内で生産しなければならない。あと2年間ではセルの国内生産は間に合わないという懸念が浮上している。このため、タイ国内での部品や素材の調達率を40%まで高めるため、政府はより実現可能な政策を導入する必要がある」と訴えた。
また、「タイ政府のEV生産・普及の支援策では、財務省物品税局と覚書を締結した会社は自動車が9社、バイクが3社の合計12社だった。しかし、自動車の9社のうちタイ国内でEVを組み立てると明言した会社は上海汽車グループのMG、長城汽車(GWM)、NETAブランドを展開する合衆新能源汽車、比亜迪(BYD)、独メルセデス・ベンツの5社だけだった。それでも今後、タイが東南アジアのEV製造拠点になるための重要なスタートだ」とアピールした。
さらに、EV充電ステーションについては、「タイの充電ステーション数とEV走行数の伸び率は明確な差がある。全国でEVが走るためにはDC(直流)充電器を圧倒的に増やさなければならない。世界では各国政府が充電ステーション整備に投資しているが、タイでは政府の支援策はない。タイがEV生産ハブ化になるためには、充電ステーションを拡充する必要がある」と強調した。
続いて、前進党の交通担当スラチェート・プラヴィンヴォンウット氏は「EV市場は急速に成長しており、今後も継続的な成長が見込まれるため、EV支援策は今後も必要だ。しかし、EV政策は、渋滞や排気ガス問題、事故、干ばつなどさまざまな問題とともに考慮すべきだ。限られた予算の中では、他の政策とのバランスを取りながら国家の利益を最優先にして進める。さらに、内燃機関(ICE)車は国の主要産業であり、EVシフトを急速に進めた場合、国に大きな影響を与える可能性がある。また、ガソリンへの税金も政府の非常に重要な収入源となっている。前進党が政権を取った場合、民間企業や市民の意見も聞くが、国家の利益を最優先にして、誰かを優遇することはできない」との見解を明らかにした。
国営タイ石油会社(PTT)傘下でEV関連事業を手掛けるアルンプラスのEV充電器事業担当マネジャーのトーン・ホンラダロム氏はまず、「アルンプラスは2年前にPTTの中でEVを統括するために設立され、タイでEVエコシステムを発展するための会社だ」と紹介。
そして、タイのEV充電ステーション問題について「政府は2030年に1万2000台の充電器設置を目指しているが、非常にチャレンジングな目標だ。民間企業として、充電ステーションに投資しても資金回収ができない。また、タイの電力供給網では場所によっては電力が不足している地域もある。設置場所も地主との交渉が難しく、また、自宅で充電する人が多いため、実際の充電ステーションの利用比率が低い。さらに、部品や設備の発注から引き渡しまで4~6カ月間が必要で、免許取得にも時間かかる。このため、この事業は費用対効果がまだ魅力的ではないので、充電ステーションの拡充は難しい」と述べ、課題が山積しているとの認識を示した。
長城汽車(GWM)セールス・タイランドのカンチット・チャイスポー副社長(渉外・政府担当)は「輸入関税免除の恩典により、現在は完成車をタイに輸出する中国メーカーが有利だ。タイ国内で組み立てて、輸入車と価格競争に負けないようにすることは非常に難しい。また、現在の自動車部品サプライチェーンの「Tier1」は525社、「Tier2」は1687社だ。これらの会社は自動車メーカーへの依存度が高い。完成車の輸入、特に輸入EVと競争が激しくなる中では、自動車メーカーがリーダーシップを発揮しなければ、サプライチェーンが崩壊していくだろう」と警告。
そして、タイのEV生産ハブ化については「中国や欧州、日本の自動車メーカーらが、いつタイ国内でEV生産を開始するかがカギを握る。現在のICE製造のように、50%を国内販売し、残り50%が輸出という比率を維持するためには、政府の政策が非常に重要だ」と指摘した。さらに、「過去に日本の自動車メーカーが部品調達の輸入関税で、高額追徴課税を課せられた事例もあり、関税免除で海外から部品を調達するメーカーは高いリスクを伴う」と述べ、タイ国内生産の重要性を訴えた。
また、PTT傘下でEVレンタカーサービス事業などを手掛ける「EVME PLUS」のスヴィチャー・スドジャイ最高経営責任者(CEO)兼社長は「EVMEはEVのオンラインプラットフォームで、レンタカーサービスを展開している。われわれはさまざまなパートナーと協力し、事業を展開していく。現在、1000台のEVを持っており。年内には保有台数を2000台まで増やす計画だ。現在その大半は中国製EVで、日本のEVは20台だけだ。日本のEVメーカーによる供給を歓迎し、もっと日本のEVを増やしていきたい。今後は新車・中古車販売も展開し、EVサブスクリプションサービスの展開を検討している」ことを明らかにした。
同氏はまた、来年のEV市場の動向について、①自家用・公共用EV充電器の数と利用率が増加する②EVの新型モデルが増え、タイ全国のディーラー数も増加する③EVのシェアリングやEVサブスクリプションなど、EVの新サービスが登場する④充電器やバッテリー保険などのバッテリー関連事業が拡大する-などとの見通しを示した。
TJRI編集部
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