連載: 日タイ経済共創ビジョン
公開日 2024.11.11
民間産業界の意見をタイ政府の政策に反映させるために、タイの商工会議所(TCC)、工業連盟(FTI)、銀行協会(TBA)の民間経済3団体が1977年に設置したのが商業・工業・金融合同常任委員会(JSCCIB)だ。FTI副会長で、JSCCIBの広報を担当するウィワット・ヘンモンタロップ氏に、JSCCIBの役割や今後のタイ経済の方向性、タイに進出する中国の影響などについて、話を聞いた。
(インタビューは8月22日、聞き手:mediator ガンタトーンCEOとTHAIBIZ編集部)
目次
ウィワット氏:タイの経済団体では従来からタイ商工会議所(TCC)とタイ工業連盟(FTI)の2つがあったが、政府が経済政策の方向性を決定するにはTCC、FTIに加えタイ銀行協会(TBA)とも相談する必要があったことから、1977年に商業・工業・金融合同常任委員会(JSCCIB)が設置された。
JSCCIBは、民間企業から意見と提案を集め、貿易や経済の問題を解決するためのガイドラインを作成し、「官民合同諮問委員会(Joint Public and Private Sector Consultative Committee:JPPCC)」と関係分野を所管する政府機関に提出する役割を担っている。
毎月定例会議を開き、輸出入の動向や為替レートなどのマクロ経済問題について討議している。例えば、自由貿易協定(FTA)について、締結国の数を増やすだけでなく輸出額の拡大を重視するよう政府に助言したり、個々のFTAがタイの各業界にとって、どのようなメリット、デメリットがあるかを分析している。
ウィワット氏:FTIは民間の産業部門を代表し、政府に対する政策提案を行っている。私はFTIの産業イノベーション研究所の所長として、企業が持続的な成長ができるよう、国内外での競争力を高めるためのイノベーションを促進する役割を担っている。また、個人の仕事では、タイ証券取引所(SET)に上場しているパンジャワタナ・プラスチックス(PJW)の会長を務めており、PJWはプラスチック包装容器や自動車部品の製造、そして中国では潤滑油など事業を展開している。
ウィワット氏:タイ経済は海外依存度が高く、こうした経済構造から長年、脱却できない状況が続いている。このためタイ経済は停滞し、国内総生産(GDP)の年平均伸び率は2~3%の範囲にとどまっている。外国投資誘致の拡大では、他の国との競争力を維持し、港湾や空港などのインフラ整備や投資家をよりサポートするエコシステムを拡充すべきだろう。さらに、バイオテクノロジーやデジタル技術など、世界的なトレンドに沿った人材育成も検討すべきだ。
ウィワット氏:タイの産業部門が抱えている主な課題と解決策について次のように考えている。
(1) ビジネスのしやすさの改善:タイのビジネスに関連する法制度は複雑だ。事業活動を促進するより、欠点や不備を探すことに重点を置いている。例えば国にとって有益な事業にもかかわらず、ビジネスの安全性を優先し、従来の枠組みの中にとどまることを促している。
また、政府機関に許認可を求める場合、一つの機関だけでなく、多くの機関に申請しなければならないため、プロセスが複雑で難しい。われわれは法律コンサルタントに、ビジネスに関連する法律を詳細に分析してもらった結果、多くの改正すべき法律を特定できた。法律を改正し、ビジネスをしやすくするだけで、タイのGDPは1%上乗せできることが分かった。しかし、こうした改正によって従来得ていた恩恵や既得権益を失う企業も出てくるため、タイの政治指導者らはこれらの企業をどう支援するかを明確にしなければならない。タイの経済成長にはこうした法制度の構造変革が不可欠だと考えている。
(2)国家目標と人材育成のアプローチの不一致の解消:タイの産業部門がオートメーション化や人工知能(AI)などのデジタル分野の強化を目指す中で、理系人材が量的にも質的にも決定的に不足している。タイはこれまで教育システムでは理系よりも文系の人材を育ててきたためだ。こうした教育システムも改革する必要があるだろう。
ウィワット氏:日本の自動車メーカーが生産拠点を国内からタイに移した際、当時のタイには生産に必要なサプライチェーンがなかった。しかし、タイ投資委員会(BOI)や日本貿易振興機構(ジェトロ)バンコク事務所、泰日経済技術振興協会(TPA)などがタイ国内のサプライチェーン創出に努めたため、私の会社(PJW)やタイ・サミット・グループのような自動車部品メーカーが数多く誕生した。それでも自動車産業の強固なサプライチェーンができるまでにはかなり時間がかかった。
一方、現在、タイへの進出ラッシュが続く自動車などの中国企業は、タイの既存のサプライチェーンを利用しない傾向も見られる。中国は国内の事業をより価値の高い産業に転換しようとしており、単純な労働力で済む産業について、生産拠点を海外に移転させようとしているようだ。
ウィワット氏:中国は大国であり、規模の経済で他の国に比べて有利だ。タイの鉄鋼業の生産能力は中国のわずか1%にとどまり、石油化学産業も中国の10%に過ぎない。タイの製品とそれほど変わらない価格で販売するのであれば、対等な競争と見なされるだろう。しかし、外国に輸出する際に中国では100バーツで売っているのに、余剰生産能力が原因で、90バーツで販売するようなら問題だ。タイは中国の生産コストに対抗できないため、商務省が反ダンピング(不当廉売)の対策を講じるべきだ。
一方、タイも今後はより付加価値の高い製品を生産できるようにしなければならない。例えば、タイにも強みがあるとされる医療分野では、タイ国内で製造する医療機器の品質を向上さ、海外に輸出できるように取り組むべきだろう。
ウィワット氏:タイ工業連盟(FTI)内には、国内外の企業家を結びつけ、タイ経済への信頼性向上を目指す「海外産業クラブ(FIC)」がある。タイと外国の企業間ネットワーキング・プラットフォームであり、政府、民間セクター、外国人投資家を集めて、業界の規制や貿易、投資などについて話し合い、ビジネスネットワークの強化を目指しており、年に1回のネットワーキングを開催している。 一方、日本企業との協力で、昨年、FTIのクリアンクライ会長がデンソーの工場を視察し、スマート農業について学んだ。われわれは今後もタイの農業セクターをさらに発展させるための支援事業を行っていく方針だ。
THAIBIZ編集部
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