
カテゴリー: 対談・インタビュー, 特集, バイオ・BCG・農業
公開日 2024.06.07
目次

農業とバイオテクノロジー産業は「新Sカーブ」としてタイのターゲット産業となっている。タイ政府は2027年までにタイをASEANの「バイオハブ」にする目標を立て、バイオテクノロジーの発展に向けた継続的支援や、国内でのインフラ構築の推進を目指すとしている。
将来的にこの産業においてグローバルリーダーのポジションを志しているが、その道のりは順風満帆なものではなさそうだ。タイのバイオテクノロジー産業が直面している課題は何なのか。日本企業の技術力が貢献できる余地はあるのか。タイのバイオテクノロジー事情や課題について、マヒドン大学理学部バイオテクノロジー学科のスィッティワット・ルーツィリ准教授に話を聞いた。

タイでトップクラスの大学の一つであるマヒドン大学は、理学部内に大阪大学・生物工学国際交流センター(ICBiotech)の東南アジア共同研究拠点(CRS)が設置されており、日本との繋がりも強い。
さらに同大学と大阪大学は2002年、バイオサイエンスとバイオテクノロジーの分野で幅広い学際的研究を行う共同研究センターとして「バイオサイエンス・バイオテクノロジー共同研究センター(MU-OU CRC)」を設立。バイオテクノロジー分野の微生物や酵素、植物、動物細胞などのバイオ知識について継続的な情報交換を行っている。
マヒドン大学でバイオテクノロジーを使った香料の発酵に関する研究を行うスィッティワット准教授は、タイのバイオテクノロジー産業について、「例えば哺乳類の細胞培養を用いたワクチンの開発や、サトウキビやトウモロコシなどのバイオマスを発酵させて製造する『バイオエタノール』などのバイオ燃料生産を手がけてきた歴史があり、この産業は主に国外からの技術移転で発展してきた」と説明。

またタイには、バイオ医薬品の研究開発・生産を行うサイアム・バイオサイエンスや今回の特集で取り上げたタイ味の素など、バイオテクノロジーに取り組む企業も複数存在していることを改めて強調した。

バイオテクノロジー産業におけるタイの強みとして同氏は「キャッサバやサトウキビなど、タイには豊富な農産物があるため、農産物の加工により生まれる副生物が最大の強みだ」と胸を張った。例えばサトウキビから砂糖を精製した後の副生物である廃糖蜜(モラセス)においては、世界レベルで競争できる立ち位置にあり、その価格は砂糖を上回る時期もあるというから驚きだ。
2月27日にTHAIBIZにて公開した「バイオエネルギーの未来とタイ ~SAFやエタノールに見る農業資源の活用方法~」でも「廃糖蜜を原料とするエタノールのタイ国内メーカーとして、大手のミトポン、カセタイ・インターナショナル・シュガー(KTIS)、バンチャク・コーポレーション(BCP)傘下のバイオ燃料生産会社であるBBGI」を挙げており、その需要規模の大きさが伺える。
一方でタイの弱みとして、同氏は「研究における人件費はそれほど高額ではないにもかかわらず、日本やドイツなど外国からの技術移転や設備の輸入が必須であり、全体のコストが高いことが問題だ」と指摘。人材面についても「タイにはまだ十分なスキルを持ったバイオテクノロジー人材が少ない」とし、外国の技術を移転する際にも言語の課題があることを指摘した。
「外国に頼ることが問題なのではなく、技術やノウハウを受け取った後、自分たちで研究・開発し続けることが大切だが、それが実現できていない」と同氏は強調する。
また、バイオテクノロジーを活用した食品においては、別のハードルもあるという。「食品の場合、保健省・食品医薬品局(FDA)の認証基準をクリアする必要がある」からだ。具体的には、製造過程、微生物の遺伝子組み換え、過去に人体に影響を及ぼしたことがあるか、などの検査項目があり、現段階でのタイの技術では、全項目クリアすることは非常に難しいという。
バイオテクノロジー分野における日本とタイの協力について同氏は、「マヒドン大学と大阪大学の連携のように、両国間の協力はバイオ食品やバイオ医薬品の生産の質を向上させる上で非常に重要だ」とした上で、「タイには、日本と長い間協力関係にある大学も多く、幾多の研究がなされているが、製品化に至っているものが少ない実情がある」と、研究開発後の実用化における問題点を挙げた。
タイ工業省産業経済事務局(OIE)傘下のバイオ・イノベーション・リンケージは2022年に実施した詳細分析「タイのバイオテクノロジー産業を推進し、ASEANのバイオハブになるための道のり」にて、バイオテクノロジーのビジネスチャンスについて触れている。「タイでは川上のサプライチェーンを強化する強力な農業セクターや、BCG経済、減税措置などのさまざまな政府方針が、バイオテクノロジー産業の発展を後押ししている。
さらにASEANには同産業のプレーヤーが少なく、競争もまだ激しくないため、タイはASEANのバイオハブになるチャンスがある」とした上で、「しかし、専門知識を持つ人材の不足や研究開発コストなどの問題があり、中小企業やスタートアップ企業が独自に調査研究を行うことは現段階では難しい」と、スィッティワット准教授と同様の見解を示している。
この詳細分析では具体的な策として「関係政府機関による政策を通じて、バイオテクノロジー分野の研究をさらに支援する必要がある」としているが、人材不足やコスト面、実用化の課題には、日本企業の技術力が貢献できる余地もあるのではないだろうか。
例えば、バガスと呼ばれるサトウキビ搾汁後の搾りかすから、バイオエタノール原料となるセルロース糖に加えて高付加価値品を併産する、世界最大規模の実証プラントがタイのウドンタニ県にある。これは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)がタイ科学技術省国家イノベーション庁(NIA)とMOUを締結し、東レ株式会社、三井製糖株式会社、三井物産株式会社が2018年に完成させたものだ。

課題があるところに、ビジネスチャンスは宿っている。これからますます注目されるであろうタイのバイオテクノロジー産業を、日タイの協業により発展させることができれば、持続可能なタイ社会の実現にも一歩近づくことができるだろう。

THAIBIZ編集部
サラーウット・インタナサック / 白井恵里子


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